戦争と平和、そして無記

国際政治や歴史、およびその根底にある人類の心のメカニズムについて考察していきます。

第二回 アルバート・パイクの手紙

 第三次世界大戦はどのように起こるのか。そのテーマを考えるなら、クラークが見たメモについて考慮すると同時に、アルバート・パイク(1809-1891)がジュゼッペ・マッツィーニ(1805-1872)に宛てた手紙(1871年8月15日付書簡)を見るのがよいだろう。その中で、パイクは統一世界政府の樹立のためには、三つの戦争が必要だと言ったそうだ。それは「予言」ではなく、計画として、つまり目標の実現のために、三つの戦争が計画されており、その計画が実行されることが目的達成のために必要だという意味である。

 

第一次世界大戦は、ツァーリズムのロシアを破壊し、広大な地をイルミナティのエージェントの直接の管理下に置くために仕組まれることになる。そして、ロシアはイルミナティの目的を世界に促進させるための“お化け役”として利用されるだろう。」

 

第二次世界大戦は、『ドイツの国家主義者』と『政治的シオニスト』(パレスチナ地方にユダヤ人国家を建設しようとする人々)の間の圧倒的な意見の相違の操作の上に実現されることになる。その結果、ロシアの影響領域の拡張と、パレスチナに『イスラエル国家』の建設がなされるべきである。」

 

第三次世界大戦は、シオニストとアラブ人とのあいだに、イルミナティ・エージェントが引き起こす、意見の相違によって起こるべきである。世界的な紛争の拡大が計画されている……」

 

「キリストの教会と無神論の破壊の後、ルシファーの宇宙的顕示により、真の光が迎えられる……」

 

 この計画は、パイクの死後、まったく「その通り」という感じで進行する。ロシアのロマノフ王朝は、日露戦争敗北の後、第一次世界大戦の1917年、ロシア革命で滅亡する。ロマノフ王朝のロシアにある金銀財宝はロスチャイルドから資金貸与をされたロシア共産党に没収される。共産党は没収した財産をもとにして、ロスチャイルドからの借金に利子をつけて返したので、結果的にロスチャイルドロマノフ王朝の財産が渡ったわけである。また、ヨーロッパの銀行に預けてあったロマノフの銀行預金はロスチャイルドにかなり奪われる。

 その後、共産主義という「お化け」が世界を席巻し、各国政府はこれに脅えることとなる。アメリカのFBIは共産主義者を徹底的に取り締まり、CIAは共産主義国家の脅威に対する諜報機関として生まれた。アメリカと日本は第二次大戦で戦うことになるが、両方とも国内では共産主義勢力と戦うこととなる。日本の戦前の治安維持法共産主義者を逮捕するための法律であるし、特高警察は共産主義者を取り締まるための組織である。

 このように、非共産主義国家は「共産主義」という「お化け」に振り回されるわけだが、「お化け」というありもしない脅威に気を取られるということは、本当にある脅威に目を向けないということである。こうして、各国の国民もメディアも、資本主義陣営と共産主義陣営の両方に金を渡している本物のバケモノを見落とすことになる。

 本物のバケモノは何か。それは、通貨発行権を民間の銀行が所有するという一見民主的な、しかしその実、「民衆」にとっては極めて搾取的な制度であろう。つまり、中央銀行の民営化である。歴史の流れを見てみると、まるでこれが達成されるために、戦争が起こるようである。しかし、マスコミはいつでも国家間の軋轢や闘争ばかりを取り上げ、こうした肝心なことを報道しない。そして国民はいつでも、マスコミで流されるそうした茶番劇に振り回される。

 マイヤー・アムシェル・ロートシルト(Mayer Amschel Rothchild 1744-1812)は、「私に一国の通貨発行権と管理権を与えよ、そうすれば、誰が法律を作ろうとどうでもよい」と言ったそうである。つまり、本物の資本家は、大統領や首相になろうとは思わない。そんな役割は他の誰かがすればよいのであって、ロートシルトロスチャイルド)が欲しがったものは通貨発行権と管理権である。お金の元締めになれるなら、国家元首になる必要はない。

 実際ロスチャイルドが力を持ち、世界に対する支配力を持ち得たのは、王様になったからではなく、お金の力である。ロスチャイルド一族はヨーロッパに広まり、各国で王家に戦争資金を貸与した。日本でもかつては戦国時代であったが、ヨーロッパでも諸大名による戦争が続いた。金がなくては戦争ができないため、王家はロスチャイルドのような金融業者に借金をして戦争を実行したのであるが、借金を返済できない王家も当然ながら生じた。

 その時、ロスチャイルドは返済に困る王族に対して、「借金を返さなくてもいい」と言ったそうである。その代わり、「王様が持っている徴税権の一部を貰います」と言ったのである。借金がゼロになる王様は喜んでロスチャイルドの申し出に賛同し、ロスチャイルドは徴税権を得た。こうして、ロスチャイルドは城下町の人々から税金を徴収し、王家に貸した金額以上の利益を得ることができた。

 しかし、税金を取られる方の町民からすれば、なんで俺たち地元民のキリスト教徒が、流れ者のユダヤ人に税金を納めなければならないのかと反発する。反発して税金を納めないと、脱税として警察につかまる。ロスチャイルドは国家お墨付きの徴税権を持っているわけだから、これに民衆が逆らうことは国の法律に違反することである。こうして、ヨーロッパ人はユダヤ人のことが嫌いになってゆく。

 結局、国のトップ、つまり王様や宰相にならなくても、財務を握ってしまえば国を握ったことと同じである。このやり方は18世紀だろうが現在であろうが、基本的には変わらない。国の財政を握ってしまえば国を握ることができるし、マスコミの株式や広告収入を握ってしまえばメディアを握ることができるし、世論を操ることができる。金の出所を握ることが、国を握ることであり、人々の心を握ることでもある。

 この延長線上に、戦争がある。どちらがお金の出所を握るのか。金がなければ戦争はできないし、戦争は金の出所の奪い合いである。戦争とはどうやら経済の戦いのようである。そのためには、行き当たりばったりで戦争をすることは愚かである。会社の経営が行き当たりばったりでは、その会社の倒産は近い。倒産しないためには、綿密な事業計画というものが必要である。それと同じように、世界的なマネー戦争においても、しっかりとした事業計画が必要である。アルバート・パイクの言う戦争計画も、そうした世界的な事業計画の見取図なのかもしれない。