戦争と平和、そして無記

国際政治や歴史、およびその根底にある人類の心のメカニズムについて考察していきます。

第十三回 民営化勢力の圧力と戦争

 トランプは最初、アメリカファーストで自国中心主義外交だと言われていた。つまり、他国のことには干渉せず、ひたすら自国の経済ばかりに目を向ける政権であると。しかし、イスラエルの右派に対する積極的な関わりは、アメリカ史上なかったほどのものであり、イランに対しては過去のどの政権よりも遥かに強硬的である。

 また、トランプの行動は、イギリスやヨーロッパと協調しているようにも見えない。イラン核合意(JCPOA)の離脱はヨーロッパの意向とは反対の政策であるし、アメリカはヨーロッパであろうとどこであろうと、イランと原油取引をしたら制裁を課すと宣言をしている。また、中国のIT企業、Huaweiの5Gテクノロジーについて、アメリカはヨーロッパにも使わないようにと言っている。これに対して、イギリスも含めヨーロッパ諸国は、このアメリカ政府の指示に、まったく従うつもりがない。

 フランスのマクロン大統領は、「フランスはアメリカと奴隷外交はしない」とはっきり言っている。イギリスとフランスは、NATOとは別のヨーロッパ軍を創設しようと考えている。これまではNATOとしてアメリカとヨーロッパは軍事的に一心同体であった。しかし、これからはアメリカ軍と別れて、ヨーロッパ独自の軍隊を構築していこうと英仏は考えているのだ。

 こう見ると、今回の中東危機は、ブッシュ父子の時代の湾岸戦争とはかなり違う様子である。アメリカとヨーロッパは協調しておらず、アメリカはロシアや中国とも対立している。そして、アメリカファーストで経済的に保護主義だと言いながら、アメリカ経済の保護とどう繋がるのかよくわからないイスラエル右派の支援をひたすらしている。これは、イランのみでなく、イスラエルの穏健派の市民からしても、非常に迷惑な話である。

 日本のマスコミは、相変わらず、「トランプが突然思いつきで何をするかわからない」と報道している。しかし、トランプがアメリカの大統領として、自分の考えのみでこういったことを決めているとは、とても思えない。これまで不動産会社の社長とテレビの司会者しかしたことがなかった男が、世界情勢においてこのような決断を下せるとは思えない。私には、トランプに指示している人間がいるように思える。

 陰にあるのは、やはり国際的な金融資本、その民営化の力であろう。2001年の時点で、中央銀行がグローバル金融勢力の影響下にない国は、アフガニスタンイラク、イラン、北朝鮮パキスタンスーダンリビア、シリア、キューバの9カ国だったと見られている。1997年、クリントン政権のオルブライト国務長官が議会演説で「ならず者国家」、つまりテロ国家として非難した国々は、アフガニスタンイラク、イラン、北朝鮮パキスタンスーダンリビア、シリア、キューバであり、上記9カ国とまったく同じである。簡単に言えば、「ならず者」とは、自国の財政をゴールドマン・サックスなどのユダヤ系金融業者に開放していない国家ということである。

 その後、アフガニスタンイラクは、アメリカ軍の侵攻により国家が転覆したので、アフガニスタン中央銀行は2002年に、イラク中央銀行は2003年に民営化された。スーダンは内戦により油田をかかえる南スーダンが独立したので、南スーダン中央銀行は民営化された。北スーダンはこれによって資源がなくなったので、おそらくグローバル資本勢力から見ても魅力的な獲物ではないだろう。リビアカダフィが殺され、中央銀行が民営化された。

 2013年、米国務省テロ支援国家として指定していた国は、キューバ、イラン、シリア、スーダンの四カ国である(北朝鮮は2008年にテロ国家指定からはずれる)。テロ国家とは、簡単に言えば、自国の政府が通貨を発行している国である。そういう国々の視点からすれば、無理やり中央銀行の民営化をせまってくるアメリカは、立派なテロ国家に見えるであろう。

 こうした動きの中で、2010年にアイスランドで、2013年にはハンガリーで、中央銀行が国民の手に取り戻されるという奇跡的なことが起きたようだ。しかし、これはヨーロッパの小さな国であったから起きたことであろう。ロシアのプーチンが2017年、ロシア中央銀行からロスチャイルドを追い出したというネットの記述があるが、真偽のほどはわからない。

 パキスタンについてはよくわからなかったが、2019年5月4日、パキスタンのカーン政権は中央銀行のバジワ総裁を解任し、IMFエコノミストであるレザ・バキルを総裁に据えたというニュース記事を私は読んだ。バキルは元IMFエジプト所長で世界銀行の勤務経験があるとのことだから、パキスタン中央銀行は国際資本家勢力に乗っ取られたのも同然ではなかろうか。なお、パキスタン政府はIMFに80億ドルの財政支援を要請しているとのことだから、今後はIMFの言いなりにならざるを得ない。どうやらパキスタン中央銀行は完全に民営化されたようだ。

 となると、世界政府が目論むのは、北朝鮮とイランの中央銀行の民営化ではなかろうか。トランプ政権となって、それまで北朝鮮に関心を示さなかったアメリカが、急に北朝鮮に接近した。おそらく、世界政府の目的は北朝鮮の非核化ではなく、中央銀行の民営化であろう。北朝鮮の地中には相当量のレアアースが眠っていると言われているから、それも魅力的だ。パソコンやスマートフォンなどの民間機器のみならず、軍事部品にもレアアースは必要である。

 イランは世界三位の産油国(一位サウジ、二位カナダ、四位イラク)であり、約8000万の人口を持つ大国である。ここの石油をアメリカがいただけば、ロックフェラーは世界四大産油国の全てを配下におさめることになる。また、人口8000万の国は、増やせば簡単に1億となり、日本と同じ程度の市場規模となる。しかも、日本と違って高齢化した国ではなく、若者が多く、今後の人口増加も見込める国である。そこの中央銀行をいただくことは、非常に魅力的である。

 おそらく、核開発というのは、世界政府からするとどうでもいいのであろう。アメリカもイスラエルも、イランのことを非民主主義国家、人権無視のイスラム国家、男尊女卑国家と言って非難する。しかし、アメリカが最も親密につきあうサウジアラビアは民主主義から程遠い王制であり、人権無視の男尊女卑国家である。イスラエルも形式的には民主主義国家であるが、ユダヤ人以外の人権を限定する国家である以上、人権無視国家であることには変わりない。それゆえ、イランも人権無視国家体制である現政権を維持しつつも、もし中央銀行ユダヤ系資本にあけわたすならば、即刻国際社会での孤立は解消されるのではなかろうか。本当の目的は、民主主義でも、人権でも、宗教でもなく、金なのだから。

 北朝鮮もそうであろう。推測だが、トランプが金正恩に直接会って言ったことは、そういうことではなかったか。中央銀行を民営化すれば、あなたの体制は保証しようと言ったのではないか。もしそうなら、トランプは民営化勢力のエージェントとして働いているということになる。

 もちろん、これは私の推測に過ぎない。しかし、ブルボン王朝も、ロマノフ王朝も、ハプスブルク家も、リンカーンケネディも、フセインカダフィムバラクもベン=アリーも、皆、通貨発行権を手放したなら助かったような気がする。シリアの内戦も、中央銀行の民営化をアサドが承諾すれば終わるような気がするのだ。

 結局、金の問題なのだ。イランの首脳もおそらくそれをわかっているだろう。戦争とは宗教対立でもなければ民族対立でもなく、利権の問題なのだ。第二次大戦前、中国大陸の麻薬などの利権を関東軍が独占するのではなく、アメリカと折半していたら、太平洋戦争は起こっただろうか。それと同じく、イランの中央銀行を民営化して、IMF関連の人材をそこに入れるなら、現在の中東緊迫情勢はガラッと変わり、戦争は起きないだろう。それはイランの首脳もわかっている。しかし、イランの中央銀行ユダヤ人を入れるならば、彼らはイラン国内の民族派の右翼に殺されることも十分わかっている。それゆえ、ロウハニ大統領は「たとえ空爆されてもあきらめない」と言っている。

 現在のイランと戦前の日本は次の三つの点で似ている。一つ目は、民族主義国粋主義、国家優先の政治体制であり、国民の人権を重んじない国家体制であること。二つ目は、強力な経済制裁を受けているが、自国の領土内にエネルギー資源などの巨大利権を持っていること。現在のイランでは原油天然ガスがあり、戦前の日本では中国大陸の麻薬と東南アジアの石油があった。三つめは、強大な軍事力を持っており、戦争に対してそれなりの自信を持っていること。アメリカに勝てるとは戦前の日本も思ってはいなかったが、それなりに太平洋で大暴れして、途中でアメリカが疲弊し、モチベーションが下がることによって講和に持ち込めるだろうという自信は持っていた。

 この三つの特徴が示すことは、相手の要求をのんで戦争を避けようとするよりも、やられるのならやり返そうという思考になるということである。それが、「たとえ空爆されてもあきらめない」という発言としてあらわれる。これは、ロウハニ大統領がそう思っているというよりも、そういう発言をしなければ彼の命も保障されないだろうということである。開戦前の日本において、何が何でも戦争を避けようと当時の政権が考え、ハル・ノートの要求を全部のんでいたら、当時の政権中枢の人物は強硬右派によって殺されただろう。

 もちろん、そうは言っても、常識的に考えたら、現在のような中東の緊迫状態においても、戦争が起きるとは考えにくい。起きてしまえば、イランもイスラエルも全面崩壊してしまう。イスラエルにおいても、過半数の国民は戦争を望まないし、イランではおそらく8割の国民が戦争を望んでいないだろう。アメリカにおいても6割の国民が先制攻撃に反対であることは前回のブログで紹介した世論調査で明らかである。つまり、どこの国であろうと、国民の大半は戦争に反対なのだ。

 しかし、様々な情報をもとに考えると、次のことは明確である。それは、イランの中央銀行があのままシーア派イスラム教徒に独占されているという状態は、国際資本勢力は望んでいないということである。普通に考えれば、イランとイスラエルの間で戦争が起こることは考えにくい。どこの国でも現段階では戦争を望まない人が過半数であり、もし起きてしまったらその被害は途方もないものだからだ。しかし、ウェスリー・クラークが見た戦争計画のメモのとおりに、戦争はいつか起きるかもしれない。戦争が起きることはいろいろな要因から考えにくいが、あのままイランで現行の国家体制が維持され、イランの中央銀行が今後何十年も民営化されないということは、もっと考えにくいからである。