戦争と平和、そして無記

国際政治や歴史、およびその根底にある人類の心のメカニズムについて考察していきます。

第十七回 大手メディアという既得権益(その二)

 国税庁発表によると、平成27年(2015年)の日本人サラリーマン平均年収は420万円だそうである。大手企業の社員、例えば日立や東芝のような大企業の社員の年収も、700万から800万程度のようだ。他方、朝日新聞の社員は、30歳で平均年収1000万をこえる。NHKも同様である。フジテレビなら1500万である。そのあたりの情報については、ネット上で様々なサイトが伝えているが、例えば以下のサイトでは、大手メディアの平均年収について比較して書かれている。

 

日本にはマスメディアの危機なんてない。あるのは社員の高すぎる給料だけだ。

http://blog.livedoor.jp/kazu_fujisawa/archives/51672231.html

 

 公務員ではどうだろうか。例えば警察官の場合、年収1000万をこえるには、警部以上に出世する必要があるようだ。日本の警察官は約25万人。そのうち、警部以上にまで出世できる確率は約10%だそうだ。つまり、約9割の警察官は、年収一千万に到達しない。

 これに対して、大手メディアに勤めていれば、普通でも30歳になれば年収1000万に到達する。となると、余計な記事を書いて島流しになったり、クビになったりするよりかは、当たり障りのない仕事をしながら、そうした利権を手放さない方が利口である。それゆえ、大手メディアの報道は基本的に安全策であり、結果として大本営発表となる。

 30代で平均年収1000万を突破する大手メディアの社員は、平均年収420万の一般国民と比べれば、特権階級と言える。平均年収420万の一般国民は、「我らの味方」という感情で、メディアに対して権力の監視を期待するだろう。しかし、特権階級の皆さんからすれば、そんな期待をされても困る。彼らからすれば、庶民の味方として「反権力」になって、既得権益を失うわけにはいかない。

 権力を監視し、権力の痛い腹について報道することで、政権中枢やエリート官僚から嫌われたり、その結果自分の既得権益を失ったりすれば、そこで働く社員からすれば、何のために大手メディアに就職したのかわからなくなる。彼らにとって権力の監視は二の次であり、一番の目的は毎月高い給料を貰い、それで住宅ローンを払ったり、年老いた親を高級老人ホームに入れたり、子どもをいい大学に進学させることである。

 私は大手メディアの社員の皆さんが高給であることを批判したいのではない。彼らにも生活がある。その生活を獲得するために、彼らは学生時代に勉強を頑張り、いい大学を卒業し、大手メディアに就職したわけである。そんな彼らを責めることは誰にもできない。それゆえ、低所得者層が彼らの高給を羨んで批判しても、何にもならないのである。

 また、彼ら特権階級が自らの階級の強みを活かして大本営発表を続けることについても、誰も責めることはできない。民主主義国家においては「報道の自由」が保障されているのだから、誰が大本営発表をしようが、それも「自由」である。それゆえ、特権階級の皆さんが、その特権性により大本営発表を日々垂れ流し、それによって特権的な高給を得ていることは、自由主義国家における自由であるから、誰もそれを責めることはできないのだ。

 問題は読者の勘違いである。彼らの既得権益を「既得権益」だと認識せず、例えば朝日新聞を読んで「自分は反権力メディアを読んでいる」と勘違いするならば、そちらの方が問題である。もちろん、朝日は「反権力」の外面をしており、読売は「権力べったり」の外面をしている。しかし、それは国民にも右翼的なテイストが好きな人もいれば、左翼的なテイストが好きな人もいるから、それぞれのニーズをもとに商品があるというだけの話である。「カルボナーラ風うどん」はスパゲッティでもなければイタリア料理でもない。あくまでも「うどん」である。テイストに騙されると、読売が右で朝日が左だと本当に思い込んでしまう。実際には、朝日が左翼で読売が右翼なわけではない。どちらも大手メディアであり、利権である。

 これは、自民党を右翼や保守だと思い込んで投票している愛国者の勘違いと似ている。もちろん、自民党も一枚岩ではないので、一つの思想に決めつけることはできない。ただ、安倍晋三はCIAのエージェントであった岸信介の孫であり、要はアメリカ派である。つまり、国産金融資本勢力御用達の政治家である。日本会議も基本的にアメリカ派であるから、一水会などの右翼勢力は日本会議を嫌っている。

 だから、アメリカからの独立を願っている日本の右翼は、アメリカ派の政治家が嫌いである。彼らは安倍晋三が嫌いであるし、郵政民営化によって日本の郵便局をアメリカ金融資本に売り渡した小泉純一郎竹中平蔵のことも嫌いである。

 それゆえ、安倍政権を支持するなら、そういうことをきちんとわかって、「アメリカ万歳!」とか「ゴールドマンサックス万歳!」という気持ちで支持するべきであるし、そういう気持ちで支持するなら問題ないだろう。問題は、自分のことを保守または右翼だと自認しながら、結果としてユダヤ人を支援していることをまったくわかっていない支持者である。それと同様、朝日新聞を反権力メディアとして購読しても、それは勘違いである。

 ほとんどの国民は、大手メディアの政府広報を「報道」だと勘違いしてしまう。つまり、大手マスコミの言うことを「大本営発表」ではなく、「ニュース」として受け取ってしまうのだ。NHKのニュースや朝日新聞の記事を、朝鮮労働党の広報と同じ種類のものだとは見ない。確かに、朝鮮中央テレビの報道は嘘だらけである。しかし、ニューヨーク・タイムズの報道も嘘だらけなのである。

 だから、朝日新聞の記事やNHKのニュースを、朝鮮中央放送共産党ニュースと同じ種類のものだと自覚して見るのなら、何の問題もない。基本的に、大手メディアは薄くて広い報道をするわけだから、情報収集としては便利であるし、わかって見るのなら問題はない。天気予報やテレビ番組表、イベント情報や映画情報など、役に立つ情報も載っている。だから、問題は大手メディアにあるというよりも、大手メディアを「報道」として信じてしまう国民の方である。

 どの国も「信じやすい人」、「騙されやすい人」というのはいるものだが、日本人はどうやら大手メディアに騙されやすい国民性のようである。以下のサイトは、その旨を説明している。

 

メディアへの信頼度が高いだけに世論誘導されやすい日本

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2015/10/post-4034.php

 

 世界報道自由度ランキング(Press Freedom Index)において、アメリカは何位で、日本は何位だろうか。世界報道自由度ランキングは、国境なき記者団が年に一回発表している指標であり、Googleで「世界報道自由度ランキング」と検索すれば、誰でも見ることができる。

 これによれば、日本は67位、韓国は41位、台湾は42位、アメリカは48位である。1位はノルウェーである。日本は、ボツワナ、トンガ、フィジーガイアナベリーズマダガスカルより下である。私は、そうした発展途上国において、どのような憲法があり、どのような自由が保障されているかを知らない。しかし、日本国民は、大日本帝国における報道規制言論弾圧に辟易した国民のはずである。また日本という国は、皇軍万歳報道のおかげで300万人の死者を出した国のはずである。なのに、なぜ67位なのか。そして、国民のほとんどがこれをなぜ何とも思っていないのか。その原因については、今の私にはまだわからない。