戦争と平和、そして無記

国際政治や歴史、およびその根底にある人類の心のメカニズムについて考察していきます。

第二十一回 日本のカジノは誰のため

1.日本におけるカジノ政策

 現在の日本には、日米同盟という名の下に、まるで日本とアメリカが対等な関係にあるかのような幻想がある。しかし、実際には日米間には明確な上下関係がある。それは前回見た司法権の例で明らかであり、植民地は常に宗主国に利用される運命にある。それは軍事的な利用だけでなく、当然、経済的な利用も含む。

 例えば、現在の日本においては、カジノを建てるための政策が進められている。「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」が2016年に成立しているが、要は日本にカジノを建てるための法律である。これにともない、2017年3月24日、総理大臣を本部長とし、全ての国務大臣を構成員とする特定複合観光施設区域整備推進本部が内閣に設置され、制度が本格的に実行されるべく準備が着々と進んでいる。

 現在のところ、大阪府長崎県、北海道がカジノの有力候補地となっているようである。

 

日本のカジノ有力候補地はココ!各都道府県のIR誘致状況まとめ【2019年6月最新版】

https://vegasdocs.com/casinohouan/kouhochi.html

 

 カジノについて賛否は分かれている。賛成意見としては、カジノが置かれる地域の経済が活性化されるという意見がある。カジノはただそれだけで設置されるものではなく、巨大リゾート施設の一環として建てられる。それゆえ、カジノも含めたリゾート全体に観光客が集まり、地域経済が活性化され、自治体収入の大幅アップが期待されているのだ。

 他方、反対意見としては、ギャンブル依存症の日本人を増やしてしまうという心配がある。ギャンブル依存症は、本人が苦しむだけでなく、家族などまわりの人達も非常に苦しむ。また、施設周辺の治安が悪化することへの懸念もある。なお、日本におけるギャンブル依存症の数は、2017年に厚生労働省が把握している数で、320万人いるそうである。ちなみに、長崎県の人口は約140万人である。

 

ギャンブル依存症疑い320万人 厚労省推計、諸外国と比べ高く

https://www.nikkei.com/article/DGXLASDG29H65_Z20C17A9CR8000/

 

2.なぜカジノなのか

 しかし、カジノ政策について、メリットとデメリットの間で天秤のように心が揺れ動くよりも前に、私としては、「なぜカジノなのか?」ということが不思議であった。地域経済の活性化という目的のためなら、カジノでなくとも遊園地や水族館でもよかろう。

 千葉県にあるディズニーランドの年間訪問者数は、2018年度で3255万人であり、沖縄県美ら海水族館の年間訪問者数は、2017年度で500万人である。なお、千葉県の人口は約640万人であり、沖縄県の人口は約140万人である。一つの施設が、県民数の3倍、4倍、5倍の観光客を呼び込み、大きな経済効果を生むのである。

 カジノの場合、経済の活性化というメリットとともに、ギャンブル依存症患者の激増や、治安の悪化という不安がある。この点、遊園地依存症や、水族館依存症の問題は聞いたことがない。夫が重度の遊園地依存症で、妻の貯金を無断で使いこみ、不動産に巨額の担保を設定するという話もおそらくないだろう。水族館を建てたおかげで水族館関係のマフィアが地域をうろつくようになったり、麻薬の売人が増えたりといった話は聞いたことがない。

 カジノを建てるということは、遊園地や水族館にはない大きなデメリットがある。今の時点で、少なく見積もって、320万人のギャンブル依存症の人がこの国にはいる。カジノができれば、その数が増えることは確実である。なぜ、それでもカジノなのか。その疑問を解消するにあたって、次のような視点から調べてみた。それは、「日本はアメリカの植民地だ」という視点である。この視点から見れば、日本のカジノ政策は非常にわかりやすいものである。

 

トランプ氏、安倍首相に米カジノ業者の日本参入を要請か 米報道

https://www.buzzfeed.com/jp/yoshihirokando/casino

 

3.ユダヤに役立つ日本

 日本におけるカジノ反対派の人達は、ギャンブル依存症が日本に320万人いることから、カジノの建設に反対している。しかし、見方が変われば全ては変わる。ギャンブルで儲ける側からすれば、ギャンブルに弱い人間が320万人もいるという国は、大変に魅力的であり、素晴らしいことである。そんな魅力的な獲物を、獰猛な肉食獣が見逃すはずはない。

 獲物を狙う肉食獣とは誰か。それはシェルドン・アデルソンをおいて、他にいないだろう。彼はユダヤアメリカ人であり、アメリカのカジノ産業の巨頭である。そして、トランプ大統領に対する高額献金者トップ5のうちの一人である。アデルソンは熱烈なシオニストでもあり、イスラエルのネタニヤフ首相とも親しい。つまり、イスラエル右派である。

 なお、ネタニヤフが所属する政党はイスラエルリクードであるが、リクードに多額の資金援助をした人物がチャールズ・クシュナーであり、チャールズの息子がジャレッド・クシュナー、つまりイバンカ・トランプの夫である。こうしたユダヤ人脈が、トランプ大統領のまわりを取り囲んでいるわけだから、イスラエル右派が喜ぶ政策をトランプ大統領が次から次へと実行する動機も見えてくる。

 イスラエル右派にとっての不俱戴天の敵であるイランが、トランプ政権から敵視され、日本にカジノ産業が乗り込んでくる構図も、そう考えるとわかりやすい。多くの日本人からすれば、中東におけるイランの孤立と、日本におけるカジノ政策はまったくの別物に見えるだろう。しかし、別事のようにみえる現象が、よくよく調べてみると、出所を同じくしていることがわかる。

 日本人とアデルソンはもともと関係がない。しかし、トランプのパトロンがアデルソンなら、トランプはアデルソンが欲しがる獲物を捕まえて来る必要がある。それが多額の献金を受けた男の仁義である。この仁義に、日本は植民地として従うわけである。また、日本はシオニスト運動とも関係がない。しかし、アメリカがシオニズムのためにイランと喧嘩するというなら、日本は植民地として従う。

 自衛隊がホルムズ海峡でイラン人と戦うためには、憲法を改正しなければならない。それは、日本にカジノ施設を建てるためには、カジノ関連法を新しく制定しなければならないことと同じである。ユダヤ人は、より正確に言うならイスラエル右派は、日本に対して、もっとシオニズムに貢献してほしいと思っている。

 一つは経済的な貢献、つまりお金の貢献である。シオニズム運動を前進させるには金がかかる。そのための一環として、日本にカジノを建て、ユダヤ人が儲かるように日本人に頑張って欲しいということである。もう一つは、軍事的な貢献である。シオニストの敵であるイランを滅亡させるには、米軍やイスラエル軍だけでは足りない。そのため自衛隊に頑張ってもらいたい。できれば、米兵の死者数が増えないようにするために、前線で自衛隊に頑張ってもらいたい。

 安部政権は、こうしたユダヤ的要求にこたえるために、一生懸命に頑張っている。そのため、日本の大手マスコミは、カジノ問題を報じるにあたっても、アデルソンの名前は出さない。日本人のほとんどは、シオニズム運動に関心がなく、ほとんど知らない。しかし実際には、日本という国は、シオニズム運動にきっちりと組み込まれている。その一環として、カジノが日本に建てられる。ユダヤ人からすれば、その理由を日本人が知る必要はない。「いつの間にかカジノができちゃった」ということでいいのである。

 「ボーッと生きている日本人」に対して怒るNHKのチコちゃんも、こういった問題については決して怒ることはない。なぜなら、国際資本家からすれば、日本人が自分の置かれている状況について疑問に思う必要はまったくないからである。彼らからすれば、日本人には永遠に「ボーッと生きて」もらいたい。今のところ、日本人は彼らの期待に十分に応えているようである。