戦争と平和、そして無記

国際政治や歴史、およびその根底にある人類の心のメカニズムについて考察していきます。

第二十三回 CSIS、その歴史と日本との関係(1)

1.税金の使い道はCSISが決める

 日本人のほとんどは、自分が毎月いくら税金を払っているのかおそらく知らないだろう。また、日本人でCSISについてよく知っている人は、ほとんどいないだろう。そうなると、日本国民が納めた税金を、CSISと日本の為政者がスクラムを組んで、好き放題に使うことができるという状況が生まれる。その結果、よくわからないうちに原発が再稼働し、自衛隊が海外で積極的に軍事作戦に参加し、秋田と山口にイージス・アショアが建てられることとなる。

 もちろん、国防上の観点から、自衛隊の海外活動、あるいはイージス・アショアの建設に賛成だという人もいるだろう。それゆえ、自民党政権による税金の使い方に賛成だという人もいるだろう。しかし、選挙の時に自民党に投票する人や、安倍政権に賛成する人の中で、果たしてCSISについて詳しく知っている人はどれくらい存在するだろうか。

 日本人の多くは、政治家や官僚がこの国の政策を作成していると思っている。しかし、仮に、政策の骨格は外国人が作っており、日本の政治家や官僚はそれに肉付けして実行しているだけなのだとしたら、どうだろう。日本の舵取りは日本人が行っているのだという夢を、日本人が集団で見ているのだとしたら、どうだろう。

 

野田民主党政権安倍自民党政権を動かすアーミテージ・ナイレポートとは何か。

https://blog.goo.ne.jp/raymiyatake/e/309dd5f2095a7c8effa39f514d50d2bb

 

2.軍人神父である創設者

 CSISは、光と影のように正反対のものとして描かれることが多い。光としてのCSISは、優秀なエリート集団としてのCSISである。CSISに賛同する人達は、アメリカの優れたシンクタンクとしてCSISを描く。アメリカのエリートが集った世界最高レベルの頭脳集団ということだ。そこには、ある種の憧れの匂いがある。

 他方、CSISをネガティブに捉える人達は、CSISをジャパン・ハンドラーズ、つまり日本という国を陰で操っている怪しい組織として描く。日本を裏で支配する軍産複合体の組織というイメージである。この正反対の光と影の印象は、両方とも正しいものだと言えるだろう。

 この点、私はCSISを単なるエリート、あるいは逆に、単なる悪者として捉えて終わりにしたくはないと思う。CSISと日本の関係は、もっと根深い問題だと思うので、ここではCSISの歴史的な成り立ちから考え直してみたいと思う。

 CSISの起源はアメリカのジョージタウン大学である。

 

ジョージタウン大学

https://japanstudyabroad.org/?cat=697

 

 ジョージタウン大学は、ビル・クリントンなどの政治家やアメリカのエリート官僚、エリート軍人を多数輩出している大学である。日本人の多くは、アメリカのエリート大学と言えば、ハーバード大学コロンビア大学スタンフォード大学などを思い浮かべるかもしれない。しかし、アメリカにおける政治や軍事関連のエリート大学は、何といってもジョージタウン大学なのである。なぜなら、この大学はイエズス会が建てた大学だからである。

 イエズス会は、「教皇の精鋭部隊」と呼ばれたが、これは創立者であるイグナチオ・デ・ロヨラ(1491-1556)が修道生活に入る以前に騎士であり、もとは軍人であったことに由来する。イエズス会は、徹底的な規律をもとに、下位の者が上位の者に「死体のように」従う組織として作られた。

 こうした教会と軍隊の結合という思想をもとに作られた組織はまことに合理的であり、かつ強力であったため、軍隊から影響を受けたイエズス会は、国家の軍隊に影響を与え、両者が融合して、宗教的な軍隊と軍隊的な宗教ができあがったのであった。

 この考え方は、イエズス会の神父経由で織田信長にも影響を与え、織田軍、豊臣軍、徳川軍が強力な軍隊組織となる礎となった。現代のアメリカ軍の強さも、その根底にはイエズス会の思想がある。それゆえ、イエズス会により建てられたジョージタウン大学は、現代でもアメリカのエリート軍人養成校なのである。

 このジョージタウン大学の中に、イエズス会の神父であるエドマンド・アロイシャス・ウォルシュ(Edmund Aloysius Walsh、1885-1956)が、1919年、「エドマンド・A・ウォルシュ外交学院」を設立した。つまり、イエズス会の神父が、大学の中に国際政治と軍事に関するシンクタンクをつくったのである。これが、現在のCSISの前身である。つまりCSISとは、イエズス会がそれまで培ってきた国際政治、軍事、侵略、統治のノウハウを集約させた戦略的な知能団体なのである。

 

写真:1948年の東京でマッカーサーと歩くウォルシュ神父

 

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