戦争と平和、そして無記

国際政治や歴史、およびその根底にある人類の心のメカニズムについて考察していきます。

第七十回 イランとアメリカ、なぜ対立するのか ~その歴史的関係性(20)

1.奴隷制度のグローバル化

 アメリカは資本主義の国である。しかし、この「資本主義」という言葉を「自由な経済競争」と見ると、本質が見えなくなってしまう。「資本主義」という言葉が世に出る前から、「自由な経済競争」は存在したからだ。江戸時代の商人たちが行った「商い(あきない)」も「自由な経済競争」である。では江戸時代の「商売」も資本主義なのかと言えば、それは違う。

 江戸の商人が持たないファクターを、アメリカの資本主義は持っている。それが「奴隷」である。かつてのアメリカは、黒人奴隷によって作られた綿花で儲けた国であった。アフリカから黒人を輸入する。農場で黒人を酷使して綿花をつくる。作った綿花をヨーロッパに売って儲ける。奴隷を管理し、効率的に搾取することによって「資本」、つまり金回りを良くする。金持ちはより金持ちに、奴隷は奴隷のままということで貧富の差は拡大する。

 

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African American workers picking cotton on a farm somewhere, 1800's

 現在のアメリカもこのやり方を引き継いでいる。ただし黒人奴隷の制度はないので、白人も含めた様々な人種が奴隷となっている。この新しい奴隷は「市民(citizens)」と呼ばれる。かつて黒人が白人のために身を粉にして働いたように、「市民(citizens)」は1%の富裕層を潤すために働く。

 彼らは安く労働力を提供し、多額の税金を納め、体に悪い食品や飲料を体内に取り入れ、思考力を下落させる映画や音楽やゲームを消費し、癌になったら薬品会社や保険会社を儲けさせ、欲しくもない原発を容認し、やりたくもない戦争を受容する。

 かつて、いつのまにか船に乗せられ、気づいたらアメリカの農場で働かせられた黒人と同じく、奴隷制度が消失したはずのこの世界も、いつのまにか政治家、官僚、裁判官、企業、マスコミが巨大資本に牛耳られ、真理は絶版となった古典書が語るのみであり、真実の暴露は個人がインターネットの片隅で行うのみである。

 こうしたアメリカの奴隷制度、すなわち資本主義は、アメリカ国内だけでは成り立たない。グローバル企業はグローブ(Globe 地球)がなければ成立しない企業であり、世界的搾取を求める。つまりそれらは外国に奴隷を求める経済体である。かつてスペイン王国の覇権を成り立たせたエージェント(Agent 手先)は、イエズス会の宣教師たちであった。現在のGlobal企業のエージェントはCIAの職員たちである。

 CIA職員は形式的には公務員である。つまり彼らの給料は税金で成り立っている。しかし、アメリカという国自体が、現在ではGlobal企業の経団連のようなものである。従ってCIAの雇い主は形式的には国家であるが、実質的にはGlobal企業である。大企業の資金がCIAの活動資金になっており、そうした企業群は引退したCIA職員の天下り先にもなっている。

 CIAは海外で有能な人材を見つけ、政治家(奴隷隊長)として育成する。そしてその政治家に国を乗っ取らせる。そうして傀儡政権をつくり、資源を横流しさせる。米軍が外国を侵略して資源を強奪するのではなく、横流し国家をつくることで、その国の主権として横流しさせるのだ。その結果、Global企業は莫大な利益を得る。CIAに投与した金額の何百倍もの儲けを得るのだ。

 グローバル企業は、日本人のイメージからすれば外資系企業であり、社員の年俸が高い企業である。しかし、その年俸の高さは搾取によっている。「商売」の利益はたかが知れている。そこには奴隷もなければ外国資源の収奪もない。資本主義、すなわちGlobal経済には奴隷も搾取も、強奪も戦争も含まれており、そこには何も知らずに畑を耕す途上国の農民の悲鳴も含まれている。

 かつて、アメリカの奴隷制度は国内で行われたものだった。黒人奴隷の搾取がアメリカで禁じられたと同時に、その制度が国をまたいでGlobalに拡大したというのは皮肉な話である。かつてはアフリカから無理やり連れて来られた黒人の肉体だけが、搾取の対象であった。今では、遠く離れた日本人の体も搾取の対象である。

 首に縄をつけて奴隷をアメリカに連れて来る必要はない。奴隷にムチを打つ必要もない。そういう荒っぽいやり方は時代遅れだ。現代の奴隷制度は洗練されている。それはGlobal企業のオフィスのように綺麗だ。

 かつてのアメリカの奴隷制度はあまりにもあからさまであった。見ればすぐにわかる奴隷制度は残酷であり、多くの人の心情に訴えた。そのため奴隷制度は非難された。その反省をいかし、奴隷制度は洗練されたものとして復活した。見える奴隷制度は多くの人に嫌悪感をもたらす。この教訓をいかし、新しい制度は不可視のものとなった。

 アパートの借主が貸主の顔を見ないのと同じように、現代の奴隷は主人の顔を生涯にわたって見ることはない。目に見えるものだけを信じる奴隷は、自由と民主主義という洗脳の中で、自分が奴隷だとは気づかない。気づかない人間は資本主義における最高の商品である。かつての奴隷制度は綿花をつくって儲けた。現代の奴隷制度は無知蒙昧をつくって儲ける。無知は栽培され、増えていくのだ。

 

2.植民地の政治家はCIAによって作られる

 アフリカの大地に生まれる人間はアフリカ人であり、「黒人」という商品ではない。もともとは商品でない人間を「黒人」として商品化するための専門家が奴隷商人である。彼らはアフリカの王族や政治家たちと交渉し、アフリカ人を「黒人」として買う。王様が言いなりになって黒人を売らないなら、反対勢力に武器を売り、戦争の仕方を教えて、政府を打倒する。そうやって「黒人」を安く大量に横流しする政権をつくり上げる。

 このやり方は現在も続いている。ただし、現在は黒人奴隷の制度が存在しないので、アフリカ人が首に縄をつけられて外国に輸出されることはない。それだけを切り取って見れば、人類の良心の進歩だと言えるだろう。しかし皮肉なことに、このシステムは一度死んだが洗練された形で復活した。それは巧妙なシステムに進化し、アフリカ人と白人だけの閉じたシステムから、Global(地球規模)なものへと巨大化した。

 当然、中東でもこのシステムが席巻する。イランについては既に見た。Global企業はイランの石油とイラン人の肉体を搾取することを欲し、様々なエージェントがその手足となって働いた。途中、それに逆らうイラン人(モサデク)が登場したが、エージェント(CIA)が潰した。CIAによってつくられた独裁者(パフラヴィー)は、Global企業の望み通りに石油を横流しした。

 黒人奴隷がアフリカの大地で自然発生的に誕生することがないのと同じように、発展途上国の独裁者も砂漠の片隅で自然に生じるということはない。それは人為的なシステムによって生まれるものである。これはイランだけの話ではなく、イラクサダム・フセイン(Saddam Hussein 1937-2006)もそうだった。

 大陸の麻薬利権に深く絡み、本来なら死刑になるはずだった岸信介という怜悧な悪党にGHQが目をつけたのと同じように、CIAは中東でフセインという残酷な悪党に目をつけた。当時のイラクはカシム将軍(Abd al – Karim al – Qasim 1914-1963)が支配していた。カシムはアメリカとの軍事・経済援助協定を破棄し、石油を国有化する方針を固めていた。

 

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The Indonesian President SUKARNO is visiting a military school along with the General Abd Al-Karim KASSEM, 1963

 1959年、CIAはカシムを暗殺するために22歳の若者を雇った。その若者がサダム・フセインであった。フセインは18歳でバアス党に入党。その後、党内武闘派の若者たちのまとめ役となる。ただ、暗殺は失敗し、フセインはカシムの護衛から銃弾を受けて足を負傷した。CIAはフセインベイルートに速やかに逃れさせた。その後彼はカイロに送られ、カイロ大学に通ったが、その間のエジプトでの学費や生活費を工面したのがイラク・バアス党およびその背後にいたCIAであった。

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Saddam Hussein in his youth

 フセインがカイロ滞在中にイラクでは欠席裁判が行われ、フセインには死刑判決が下りた。その後、CIAの支援を受けたイラク・バアス党がクーデターを起こし、1968年にカシム政権が倒された。新政権はカシムを処刑した。フセインイラクに帰国し、バアス党の農民局長の地位に就いた。その後、バアス党の内部闘争の中で頭角を現したフセインは、32歳の若さで副大統領となった。この時、秘密警察による監視システムをイラクにおいて構築した。これはおそらくCIAの指導のもとに構築したのであろう。

 1979年、バクル大統領が病気を理由に辞任し、42歳のフセインが大統領となった。ティクリートに生まれた政党(=武装勢力)の殺し屋が、42歳の若さで大統領となる。これは普通では考えられない奇跡である。CIAの支援がなければ、このような奇跡は起きなかったであろう。つまり、これは自然発生的な奇跡ではなく、計画的に育てられた果実である。

 

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Saddam Hussein in 1980

 翌年9月、イラン・イラク戦争がはじまる。米国および西側諸国は、フセインに衛星やスパイ活動によって収集した情報を提供し、同時に最新兵器を大量に買わせた。これによりフセインは、普通なら喧嘩を売ることができないイランという大国に対して、自信を持って戦争をすることができた。

 こうしてCIAによって作られた独裁者は、アメリカの敵であるホメイニー政権のイランを攻撃することとなった。フセインの見積もりは甘かったかもしれない。彼は短期決戦と予想したかもしれないが、イラ・イラ戦争は8年続く。

 アメリカの軍産複合体からすれば、この予想外の長期戦は嬉しかっただろう。といっても予想外だと思っていたのは、フセインとホメイニーだけかもしれない。戦いを長期化させた原因は、アメリカ、ソ連、中国などの武器会社にある。死の商人たちは、イラクとイランの両方に武器を売ることで、戦争を長期化させた。

 泥沼の長期戦の中で、イラクの軍事費は増大した。その帳尻をあわせるために、フセインイラクの石油をアメリカに対してバーゲンセールせざるを得なかった。これによりアメリカの軍需産業のみならず、石油メジャーも潤った。CIAによる独裁者の栽培は、巨大な果を実らせたのだ。

 

3.グローバル経済という名の合法的強盗

 独裁者を人工的につくることによって、グローバル経済におけるWin-Winの関係が成立する。田舎生まれの戦闘員は、CIAの援助のおかげで大統領になれた。アメリカのグローバル企業は外国の石油を安く手に入れた。武器会社は大儲けした。CIAの職員は天下り先を得て、老後の収入が跳ね上がった。これにかかわった政治家は出世した。多くの雇用が生まれ、巨大な経済が動き、巨万の富が蓄積された。

 これはWin-Winの関係というスケールの小さなものではなく、Win-Win-Win・・・と無限に続くような巨大なWinであった。もちろん、その陰ではイラクやイランの国民が苦しんだ。イラン・イラク戦争で亡くなった「市民(citizens)」は、少なく見積もって両国で100万人以上と言われている。イラクは大量に武器を買ったおかげで多額の負債を抱え、そのしわ寄せは「市民(citizens)」に対する税金となった。

 しかしそれはGlobal経済にとってまったく問題ではない。黒人奴隷経済において黒人の涙はまったく問題とならないことと同じである。現代の資本主義には、かつての奴隷経済と同じものが含まれている。それは奴隷の悲痛はまったく問題にならないということである。むしろ、それはシステムに最初から組み込まれているものであり、かつては黒人、現在では「市民(citizens)」の苦しみ(Suffering)の裏返しが利益(Profit)なのである。

 ナイキ(Nike)の靴は過酷な児童労働の下で生産され、インドネシアの少年少女が犠牲となってGlobalな利益を生み出した。これは日本語で言うところの「商売」や「商い(あきない)」の範囲に収まらないシステムであり、Global経済という名の地球規模の奴隷制度である。

 

アメフトの元スター選手を広告に起用したナイキ、人権と愛国の落とし穴にはまる

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/09/post-10920_1.php

 

 どの世界にも如才ない人物がいるものである。例えばドナルド・ラムズフェルド(Donald Rumsfeld 1932-)は、水を得た魚のようにこの舞台で活躍した。SufferingとProfitが表裏一体となったGlobal舞台は、彼のような魚にとって心地よい海だった。彼はレーガン政権時の1983年に特使としてイラクを訪問している。ここから約20年後、この男によって処刑されることになるとは、フセインもまったく考えられなかっただろう。

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Shaking Hands, Saddam Hussein greets Donald Rumsfeld in Baghdad on December 20, 1983

 ラムズフェルドはフォード政権およびブッシュ(息子)政権時に国防長官を務めた共和党の大物政治家であるが、彼が政治家としてそこまで出世したのは、企業と政府のパイプ役として活躍したからだ。彼はイラ・イラ戦争時にはイラクに武器を流し、Global企業にイラクの石油を流した。その約20年後、今度はイラクを潰すために戦争を行い、巨大な利益をGlobal企業にもたらした。

 Wikipediaラムズフェルドを見ると、「アメリカ合衆国軍産複合体を体現した人物」という説明が出てくる。確かにそうだろう。彼はロッキード社外取締役を務め、軍事ハイテク機器メーカーであるゼネラル・インスツルメントの会長も務めた。

 

国民の恐怖はカネになる…ハリウッドが警告し続ける軍産複合体の冷血

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/52255

 

 アイゼンハワー軍産複合体(Military-industrial complex 略してMIC)が自由と民主主義を飲み込んでしまう危険性について警鐘を鳴らしたが、実際その後のアメリカは彼の危惧を体現した。アイゼンハワーが若い頃に見た国家と軍隊の姿はそこにはない。軍隊は祖国防衛のために戦うのではなく、強盗のために出動する。泥棒から家を守るために戦うのではなく、自らが泥棒になるのだ。

 強盗においては被害者の涙が犯人の利益である。SufferingがProfitである。しかし強盗には一つ欠点がある。警察に捕まってしまうことだ。そこで利口な人たちが考えついた方法が、合法的な強盗である。国家的強盗なら誰も犯人を捕まえることはできない。

 ラムズフェルドには調整役としての才能があった。彼はGlobal強盗という巨大な舞台で八面六臂の活躍をした。彼はGlobal企業の支援を受けて自らの才能を発揮し、彼のおかげでアメリカの軍産複合体(MIC)は莫大な利益を得た。このWin-Win関係の裏で、多くの「市民(citizens)」の命が失われた。

 これは中東という対岸で起きた火事ではない。ラムズフェルドは軍関係のみでなく、共和党の大物議員に特徴的であるが、バイオ関係企業にも深い繋がりを持っている。彼はギリアド・サイエンシズ(Gilead Sciences)という世界第二位の巨大バイオ企業の元会長でもある。日本人のほとんどがギリアド・サイエンシズという会社を知らないだろうが、同社はインフルエンザ用の薬品であるタミフルやコロナウィルス用のレムデシビルで世界的に有名な会社である。

 

ラムズフェルド米国防長官のタミフル利権疑惑!?

http://eritokyo.jp/independent/nagano-pref/aoyama-col6015.html

 

レムデシビルを開発したギリアド社は「政治銘柄」

https://news.yahoo.co.jp/articles/676a1025917b2c996097bb805a345a6d1fc37584

 

 気づいていなくとも、日本人はタミフルやレムデシビルを自らの体に入れることで、ギリアド・サイエンシズやラムズフェルドなどの大物政治家を支援している。ギリアド・サイエンシズなどの大手製薬会社は、フォートデトリック(Fort Detrick)と回転ドア(Revolving Door)の関係にある。

 子宮頸がんワクチンもそうであるが、日本人がアメリカの薬品(生物兵器の転用)を大量購入することは、軍産複合体を潤すことである。それは彼らのGlobal強盗を強く肯定することでもある。対岸の火事ではなく、日本人も火事場泥棒の参加者なのである。