戦争と平和、そして無記

国際政治や歴史、およびその根底にある人類の心のメカニズムについて考察していきます。

第六回 国際的リサイクルシステム

 ヴァールブルク家はロスチャイルドと関係の深いユダヤ系ドイツ人の家柄である。その家の出身であるマックス・ヴァールブルク(英語読みはマックス・ウォーバーグ Max Warburg、1867年6月5日 - 1946年12月26日)は、金融資本家であり、ナチスを早い段階から資金援助し、育てた。ヒトラーゲッペルスルドルフ・ヘスといった優秀な20代、30代の若者を資金援助して育てるというパターンは、明治維新ロシア革命と似たようなパターンである。

 つまり、ユダヤ人を迫害するナチスを、ユダヤ人であるロスチャイルド系の資本が援助していたのである。なお、マックス・ヴァールブルグの弟は、アメリカでFRB創設のためにウィルソン大統領に署名させたポール・ウォーバーグ(1868-1932)である。つまり、兄はドイツでナチスを育て、弟はアメリカでFRBをつくったのである。

 ヴァールブルグ家はシフ家とも関係が深い。ポール・ウォーバーグは、クーン・ローヴ商会設立者のソロモン・ローヴの娘と結婚している。フェリックス・ウォーバーグの妻は、ジェイコブ・シフの娘である。つまり、彼らは親戚関係にあり、ドイツ語、英語、ヘブライ語などの多言語を操り、ヨーロッパとアメリカを行き来する国際人である。

 ナチスドイツとアメリカは後に戦争をするが、その裏にはウォーバーグ兄弟というロスチャイルド系のグローバル金融資本がいたのであるから、第二次世界大戦ロスチャイルド抜きには語れないものである。ウォーバーグの登場以前に、ヨーロッパで活躍したロスチャイルド系の宮廷ユダヤ人が、ゲルゾーン・フォン・ブライヒレーダー(1822-1893)である。彼はドイツで鉄血宰相ビスマルクの財務顧問をしていたが、同時にアメリカのアルバート・パイクにも資金援助をしていた。

 アルバート・パイクが手紙を書いた相手は、イタリア近代化の運動をしていたマッツィーニである。パイク、マッツィーニ、ビスマルクは、普通の歴史の教科書ではバラバラに出てくる人物であり、関係があるようには見えない。パイクはアメリカ人、マッツィーニはイタリア人、ビスマルクはドイツ人で、それぞれが各国の軍人兼政治家として歴史の教科書に登場する。しかし、各人物は、同じ資金源から別の場所で戦争をしていたとも言えるのである。つまり、同じ穴のムジナと言えなくもない。この時代の主な戦争は次のとおりである。

 

 イタリア統一運動、紛争(イタリア:1858年から1861年

 南北戦争アメリカ:1861年から1865年)

 普墺戦争プロイセンオーストリア:1866年)

 第一次キューバ独立戦争キューバ:1868年から1878年

 普仏戦争プロイセン、フランス:1870年から1871年

 西南戦争(薩摩、日本:1877年)

 露土戦争(ロシア、トルコ:1877年から1878年

 スペイン王位継承戦争(スペイン:1701年から1714年)

 

 イタリアの明治維新とも言えるようなイタリア近代化の中心人物がマッツィーニであり、アメリカで南北戦争を担当したのがパイクであり、普墺戦争普仏戦争を行ったのがビスマルクである。彼らは若い頃から優秀であり、共通の源から資金提供を受け、それぞれの活動を行った。つまり、国際金融資本のリサイクルシステムの中で、それぞれの役割を果たしたとも言えるのである。

 例えば、南北戦争が終わって、不要な武器や弾丸や大砲が大量に出る。それを今度はヨーロッパに持っていって、普墺戦争で使うのである。つまり、「お下がり」である。西郷隆盛が中心となってやった西南戦争も、その「お下がり」がまわってきて起きた戦争である。南北戦争アメリカ人を殺した銃が、船で運ばれ、ヨーロッパで使われた後、九州で使われる。

 そういうことをやっていれば、儲かるのは武器商人や金融業者である。これはいつの時代も変わらない。ジャーナリストのヴィクター・ソーン(Victor Thorn 1962-2016)が世界四大金儲けは、戦争、麻薬、エネルギー、金融だと言ったが、当時も今も変わらないのだろう。

 戦争したい国に金を貸して利子を得て儲け、さらに武器をリサイクルして儲ける。現地の人が戦争の仕方を知らない場合は、戦争が終わって暇になった軍人を派遣して、戦争の仕方を教える。人材派遣業もやるのである。例えば、西南戦争の際に、薩摩軍と政府軍の両方に武器の使い方や戦争の仕方を教えたのは、南北戦争が終わって暇になったアメリカの軍人のようである。

 坂本龍馬は、フリーメイソンであるトーマス・グラバー(Thomas Glover 1838-1911)から近代世界のことをいろいろと習った。その際、頭のよい坂本は、この仕組みを見抜いたようである。それゆえ、戦争抜きで日本が統一国家になるように、西郷隆盛らを説得して、薩長江戸幕府をうまくまとめてしまった。これは奇跡的なことだった。しかし、グラバーからすると、坂本龍馬などの幕末日本の優秀な若者を育て、資金提供したのは、日本で派手な内戦をしてもらうためである。戦争をしてもらわなければマセソン商会はちっとも儲からない。それゆえ、怒ったグラバーはヒットマンを用いて坂本龍馬を殺したと言われている。

 平和に日本のサムライたちが近代国家を打ち建てたら、困るのは国際資本家たちである。戦争をするには莫大な金がいるし、武器もいる。そのために国債を発行し、その国債を国際金融資本が買い、日本人はその金で国際金融資本から武器を買うという構図でないと、青い目をした人達からすると困るのだ。有色人種が白人の銀行家から金を借り、その借りた金で同じ白人から武器を買って、内輪揉めの戦争をする。戦争が終わったら、白人がその武器を無料で回収し、また別の場所で別のターゲットに金を貸して、そいつに武器を買わせる。そういうリサイクルシステムなのである。

 現在の世界銀行というのは、そのためにある銀行とも言えよう。なので、IMFの幹部だった人物が、転任して世界銀行の幹部になり、その後ゴールドマン・サックスの取締役をやり、FRBの理事になったり、イスラエル銀行の幹部になったり、マサチューセッツ工科大学(MIT)の教授になったりする。東大を出て東京電力に就職した人物が、その後経産省の官僚になり、さらにその後、東大の原子力工学の教授になることと同じである。人材のリサイクルシステムである。

 例えば、イラクサダム・フセインは、若い頃にアメリカから莫大な資金援助を受けて、育てられた。彼は政権を取った後、アメリカからの軍事援助をもとに独裁政権を強め、イラン・イラク戦争(1980-1988)を行った。しかし、力をつけたフセインは、石油利権をアメリカに渡さず、中央銀行の民営化を行わなかった。その後、彼はアメリカ軍によって処分され、イラクの石油利権はアメリカ企業を中心とするグローバル企業に握られ、中央銀行も民営化されている。

 アフガニスタンも同じである。アメリカに占領された後のアフガニスタンは天然資源を全てアメリカに押さえられ、中央銀行も民営化されている。アフガニスタンでは、アメリカ占領後に麻薬の生産量が激増したそうである。やはり、この世界の支配者の目的は、エネルギーと中央銀行、そして麻薬の奪取であり、それを武器のリサイクルで行うことである。エネルギー、金融、麻薬、戦争が、やはり人類の四大産業なのであり、そのリサイクルシステムの中でくるくるまわりながら出世する人物が、世の中の勝ち組になっていくのかもしれない。

第五回 グローバル金融帝国の完成

 民営化という言葉は、一般にはネガティブなイメージのものではない。しかし、実際のところ、民営化というものは恐ろしいものである。国営なら経営母体は国であるが、民営化されれば株式は市場に公開され、資金繰りは銀行を頼るようになる。つまり、国際的な金融システムに組み込まれるのである。商法の規定では、株式の過半数を取れば取締役会を自由に操作して、社長を交代することもできる。つまり、国営の組織も民営化されれば、外国の金融資本が乗っ取ることが可能となのだ。このことは一般大衆にはほとんど知らされないから、民営化という言葉にネガティブなイメージを抱く国民はいつの時代もあまりいない。

 国鉄の民営化、電話の民営化、郵政民営化、そして今後の日本で起こると考えられている水道の民営化。そうなると、日本のインフラのほとんどは民営化されることとなる。その資金を三菱(ロックフェラー系)と三井(ロスチャイルド系)が握れば、日本の国家としての独立というものはほぼない(そうでなくても、もともと日本に国家としての独立はあるのかと言われれば、「ない」としか言いようがないが)。東京電力も、大株主は日本トラスティ・サービス信託銀行日本マスタートラスト信託銀行である。つまり、FRBの運営者と繋がっている(このあたりのことは後日詳述したい)。

 さて、ロシアの共産主義革命は、貴族政に対する労働者の革命と言われているが、実際にはロシアの民営化と言ってもよい。ロマノフ朝のロシアは国営であったが、これを共産化して民営化することが革命の目的であったと言える。明治維新もそうであるが、優秀な若者を国際金融帝国が資金援助して育て、国家を転覆させて民営化するというのがパターンのようだ。

 レーニン(本名ウラジーミル・イリイチ・ウリヤノフ 1870-1924)の父は高名な物理学者であり、母親はドイツ、スウェーデンユダヤの家系であったそうだ。レーニンは幼少から恐ろしく勉強ができ、神童と呼ばれたそうである。つまり、貧しい労働者の団結を訴えた彼は、貧困層とは正反対の金持ちの息子であり、かつ、学業優秀な子どもであった。

 レフ・トロツキー(1879-1940)はウクライナユダヤ系富農の息子であり、彼も幼いころから優秀であった。第一次大戦中、レーニンは亡命先のスイスにいて、トロツキーはニューヨークにいた。この二人に資金を提供した人物が、クーン・ローヴ商会のジェイコブ・シフ(Jacob Schiff 1847年1月10日 - 1920年9月25日)である。英語ではジェイコブ、ドイツ語ではヤーコプ、ヘブライ語ではヤコブである。

 Schiffというドイツ語は、英語ではShipであり、舟であり、ユダヤ系ではよくある名前である。シフ家は、フランクフルトのマイヤー・アムシェル・ロートシルトの時代に、「グリューネシルト(緑の盾)」(Haus zum Grünen Schild)と呼ばれる建物にロスチャイルド家とともに住んでいた家柄であり、クーン・ローヴ商会はロスチャイルドと関係の深い金融業、後にこれがリーマン・ブラザーズとなる。モルガンとともに、アメリカでロスチャイルド系の金融業をやっていたのがシフ家だったわけだ。

 ジェイコブ・シフは、まず、大日本帝国に資金を融通する。日露戦争の資金調達のために欧米をまわり、誰も貸し手がいなくて困っていた高橋是清(1854-1936)にロンドンで会って、日本の戦時国債の購入を提案したのだ。これで日本政府は当時の額で2億ドルを手に入れ、ロシアと戦争することができた。後にシフは、この功績により、勲一等旭日大綬章明治天皇より贈られている。シフは、高橋の長女がアメリカ留学した際にも、ニューヨークで彼女の生活の面倒をみたそうだ。

 第二次大戦後、宮沢喜一が大蔵官僚だった頃、池田勇人のお付としてアメリカに行き、アメリカの政治家や官僚、財界の人たちの集まりに出たそうである。その時、宮沢は、日露戦争前に大日本帝国がクーン・ローヴ商会から借りた金は、あまりにも昔のことであるから、全額返済というのは今さらどうだろうかと言ったそうである。その時、いきなり宮沢を数人の男が囲い込み、宮沢はそれ以上その話ができなくなったそうである。結局、日本政府が日露戦争時の国債を完済し、クーン・ローヴ商会からの借金がなくなるのは、1986年(昭和61年)である。

 日本の近代化は、ロスチャイルド等の国際金融資本を抜きにしては語ることができない。歴史の教科書にそんなことは書いてないが、欧米の金融資本家を抜きにして日本の近代史を語っても、骨組みの抜けた歴史叙述にしかならない。マセソン商会の手引きで長州ファイブ(井上馨、遠藤謹助、山尾庸三、伊藤博文、井上勝)をイギリスに留学させ、その中の一人であった伊藤博文を総理大臣として、大日本帝国政府がつくられる。その後、フランス・ロスチャイルド系の教育を受けた渋沢栄一が、教えの通りに日銀の前身である第一国立銀行をつくる。そして、帝国政府はクーン・ローヴ商会から莫大な金を借りて日露戦争を行い、その後は第一次世界大戦に参加して、戦勝国となる。

 ロスチャイルド日露戦争によってロマノフ朝をたたき、アメリカでFRBをたててから、ロシア革命を起こして、莫大なロマノフの金銀財宝を手に入れる。第一次世界大戦終了後は、ロマノフやハプスブルクといった巨大王朝はなくなり、欧米国家はロスチャイルドを中心とした国際金融グループのもとで民営化された。民営化された中央銀行通貨発行権を持つ、現在のような国家の仕組ができ、政府の意向と関係なくロスチャイルドなどの国際資本家が国家経済、つまりは世界経済を牛耳ることができるようになったのである。

第四回 アメリカの大統領が暗殺されるパターン

 第一次世界大戦がはじまる前年の1913年、FRB(Federal Reserve System 連邦準備制度)ができる。なぜアメリ中央銀行が「連邦準備制度」というわけのわからない名前になったかと言うと、先日紹介した安部氏の本(「世界超恐慌の正体」普遊舎新書)によれば、ポール・ウォーバーグがわざとそういう意味不明な名前の銀行にしたそうである。
 アメリカ国内にはアメリカの通貨発行権を銀行に渡すことに反発する人々が歴史上根強くいて、アメリ中央銀行という名称は、とてもじゃないが使えなかったそうである。考えてみれば、確かにそうである。通貨はアメリカ政府、つまり財務省が発行すればいいわけで、実際、FRBができるまでは、そうしてきた。アメリカ政府は、1913年まで、その牙城を守ってきたのである。
 しかし、ロスチャイルドなどの資本家勢力の長年の努力のかいがあって、1913年、ポール・ウォーバーグが中心となってFRBができた。この時、ウッドロウ・ウィルソン大統領が署名を拒否していたら、彼は確実に殺されていただろうと私は思う。なぜなら、ウィルソン大統領政権の副大統領はトーマス・ライリー・マーシャル(Thomas Riley Marshall, 1854年3月14日 - 1925年6月1日)であり、彼はフリーメイソンだからだ。もし、ウィルソンがFRB設立を拒否していたら、ウィルソンは殺処分され、フリーメイソンのマーシャルが大統領に昇格というお決まりのパターンだったと思う。
 御存知の通り、アメリカの場合、御本尊のジョージ・ワシントン(1732-1799)自体がフリーメイソンである。アメリカ歴代大統領45人のうち、フリーメイソンの大統領は19人である。また、マーシャルのような副大統領も入れれば、フリーメイソンの人数は膨大なものとなる。第二次世界大戦を始めたフランクリン・ルーズベルト、日本に原爆を落として第二次世界大戦を終わらせたハリー・トルーマンフリーメイソンである。
ウッドロウ・ウィルソンフリーメイソンではなかったが、側近の言うことに逆らわない人物だったから、殺されなかったようだ。実際、彼はまわりにいる連中の助言にまったく逆らわず、FRBを設立し、第一次世界大戦アメリカを参戦させ、終戦後は国際連盟を提唱している。これらは全部、まわりの連中の言いなりになってやったことだと思っていいだろう。
 言いなりにならなかった人物で、かつフリーメイソンでもなかった大統領が、リンカーンケネディである。この二人は無謀にも、ロスチャイルドなどの金融資本家に歯向かった。アメリカ史上、在任中に殺された大統領は、リンカーンケネディである。この二人は両方ともフリーメイソンではない。かつ、通貨発行権の民営化に反対した。そうなると、ニコライ二世と同じく、邪魔者として処理されることになるだろう。
 ジョンソンという名前の大統領は、アメリカの歴史において二人いる。一人が第17代大統領であるアンドリュー・ジョンソン(1808-1875)であり、もう一人が第36代大統領であるリンドン・ジョンソン(1908-1973)である。両方とも副大統領となり、大統領が暗殺され、ナンバー2からナンバー1に昇格している。アンドリューはリンカーン政権の副大統領であり、リンドンはケネディ政権の副大統領であり、ジョンソンは両方ともフリーメイソンであった。
 リンカーン南北戦争の資金として、ロスチャイルドから金利36パーセントの高利の資金提供の申し出を受けたが、これを断った。政府がグリーンバックという紙幣を発行し、これを戦費とすることで、金融勢力と手を切ったのである。バック(buck)とはドル(dollar)のことであり、現在のアメリカでも、ドルはバックと言われることが多いようだ。グリーン(Green)なのは、紙幣の裏側が緑色で印刷されたからである。従来のドル紙幣が黒で印刷され、戦時に新たに印刷された紙幣は裏側が緑色で印刷されたわけである。黒で印刷されようが、緑で印刷されようが、両方とも同じ価値のドル紙幣なので、市場では両方とも同じものとして使われた。
ロスチャイルドは当然これに怒った。戦争という巨大な金食い虫の資金を提供することがロスチャイルドの仕事なのだから、仕事を奪われたロスチャイルドからすれば、金貸しに頼らないリンカーンは許せない。リンカーンはその怒りに油を注ぐように、南北戦争の終了後もこれを永続的な通貨システムとすると発表した。その発表の一か月後、彼は暗殺された。
 ケネディFRB通貨発行権を政府に取り戻すという大統領令11110号に署名した後に暗殺された。両方とも、頭のうしろを拳銃でうたれて殺されたのである。結局、両者ともに通貨発行権を政府のものにすると発表した直後に殺されているのだが、公式には狂信的な男による単独犯ということになっている。
 なので、フリーメイソンでないウィルソンが大統領になった時に、フリーメイソンであるトーマス・マーシャルが副大統領になっているという事実は、偶然とは考えにくい。逆らう大統領は始末して、フリーメイソンの副大統領を大統領に昇格するというのがおきまりのパターンなのだろうと思う。この点、ウィルソンはFRB設立の際はポール・ウォーバーグの言いなりとなり、第一次大戦後のパリ講和会議ではモルガン商会のモルガンやラモントの言いなりとなった。おそらく、それゆえに彼は殺されずに済んだのだろう。

第三回 なぜロマノフ王朝はそんなに憎まれた?

 共産党にロシアを乗っ取られたロマノフ王朝のニコライ二世は、1917年3月に皇帝を退位する。しかし、日本において徳川慶喜が将軍を退位した後に一貴族として生きたようには、共産党はニコライ二世が生きることを許さなかった。結局、翌年の1918年7月、ニコライ二世とその家族をエカテリンブルグの地下室で銃殺する。しかし、逆らう気がない元皇帝に対して、なぜそんなことをしなければならないのか?
 共産党は貧しい労働者の味方だから、それまで貴族として貧困層を虐げてきたロマノフ家にお仕置きをしたのだ! という公式解釈を鵜呑みにするのは、あまりにも稚拙である。ロマノフ家に対する恨みは、民衆の王族に対する恨みではなく、ロスチャイルドのロマノフ家に対する積年の恨みだったと考える方がどうやら合理的なようだ。
 20世紀のロシア革命の原因を探るには、1815年のウィーン会議にまで遡らなければならない。ナポレオンがフリーメイソンに加入したという公式記録はないが、ナポレオンの兄弟はフランスのフリーメイソンの高位職であるから、彼がフリーメイソンとまったく無関係であるとは考えにくい。
そのナポレオンがヨーロッパで大暴れしたことによって最も力を得た人物は誰か。それがロンドンにいたネイサン・メイアー・ロスチャイルド(Nathan Mayer Rothschild, 1777-1836)である。彼は、マイヤー・アムシェル・ロートシルトの三男である。第一次世界大戦の後、パリ講和会議において主導権を握ったのが政治家ではなく「金貸し」のモルガンであったのと同じく、その百年前のウィーン会議においても、各国政府は戦費をまかなったロスチャイルドに頭があがらなかった。単なる「金貸し」がヨーロッパの実質的な王になったのである。そのため、ウィーン会議の主導権はロスチャイルドが握った。
 ネイサン・ロスチャイルドは、戦争で弱りきった状態の各国政府の中央銀行に入り込むことを狙っていた。実際、その後イングランド銀行、フランス銀行はロスチャイルドが入り込む。1870年にはドイツ銀行ができる。日本ではフランスのロスチャイルドから教育を受けた渋沢栄一が尽力し、1873年に日銀の前身の第一国立銀行ができる。渋沢はポール・フリュリ=エラール(1836-1913)から近代資本主義、銀行業、金融業を学んだ。このエラールのボスがアルフォンス・ド・ロスチャイルドである。つまり、渋沢が学んだ中央銀行のシステムは、ロスチャイルド方式なのである。それゆえ、渋沢を創設者とする現在の三井住友銀行は今でもロスチャイルド系であり、日本で二番目の規模の銀行である。なお、日本で第一位の規模の三菱銀行は、ロックフェラー系である。
ところで、ロマノフ朝ロシア皇帝であるアレクサンドル一世は、自国財政のロスチャイルド化を拒んだ。そのアレクサンドル一世は1825年に不審死する。死ぬ寸前まで健康で、普段と変わらない様子だと目撃されていたのに、いきなり離宮において、熱病で倒れて死んでしまうのだ。アレクサンドル一世の後継は弟のニコライ一世であるが、彼も自国財政のロスチャイルド化は拒む。
1860年、ロシア国立銀行が皇帝アレクサンドル二世(ニコライ一世の息子)によって設立されるが、国立銀行なので通貨発行権は国にあった。アレクサンドル二世は、アメリ南北戦争において、エイブラハム・リンカーンAbraham Lincoln 1809-1865)を支援している。リンカーンロスチャイルドの融資を拒み、金融資本家と対立していたので、アレクサンドル二世と考えが共通したのだ。その後、リンカーンとアレクサンドル二世は、両者とも拳銃で撃たれて殺されている。
 このように、帝政ロシアは決して自らの通貨発行権を手離さず、ロスチャイルド通貨発行権を与えなかった。おもしろいのは、シベリア鉄道の敷設において、ニコライ二世はロスチャイルドに融資をお願いしていることである。ロスチャイルド帝政ロシアに融資をして、帝政ロシアシベリア鉄道を完成することに尽力している。そもそも、ロスチャイルド家とロマノフ家はお互い名門貴族として親戚関係にあるのだ。
 さて、一部の陰謀論者は、ニコライ二世はシベリア鉄道敷設でロスチャイルドから金を借りたにもかかわらず、ユダヤ人の迫害をやめなかった、だからユダヤ人であるロスチャイルドによって殺されたのだと言っている。しかし、そうだろうか。私はロスチャイルドが「金」以外の理由で怒るとは思えない。なので、これは私の勝手な想像だが、ニコライ二世がロシア国立銀行を民営化し、そこの運営メンバーにロスチャイルドを入れていたら、彼は殺されなかったのではないか。もちろん、そうなると帝政ロシアの経済は、ロスチャイルドに握られることになってしまうが。
 実際には、ニコライ二世は1917年のロシア革命で退位し、翌年、家族皆殺しとなる。こうして、ロマノフ家の財産はロスチャイルドのものとなり、その後設立されるソビエト中央銀行ロスチャイルドと通じたものとなるので、ロスチャイルドはロシアの通貨発行権を手に入れたと言える。
 これより少し前、1913年の12月にアメリカでFRB連邦準備制度)が設立される。ポール・ウォーバーグ、モルガン、ロックフェラージュニアが中心となり、ウッドロウ・ウィルソン大統領が署名して成立する。こうして、20世紀の初頭に、アメリカとロシアという世界の二大巨頭の通貨発行権が、国家ではなく民間人が握るという凄いことが起きた。しかし、世界史の教科書では事件として扱われない。かといって、隠されるわけでもない。実際、大した情報源も調査能力もない私が、こうしたことを一般書やインターネットの情報で知ることができる。
 彼らは真実を隠すのではなく、むしろ堂々と公開しているように見える。どうぞ、調べたければ調べてください、知りたければ知ってくださいと。おそらく彼らは確信しているのだろう。ほとんどの人はそういったことには興味がないのだと。

第二回 アルバート・パイクの手紙

 第三次世界大戦はどのように起こるのか。そのテーマを考えるなら、クラークが見たメモについて考慮すると同時に、アルバート・パイク(1809-1891)がジュゼッペ・マッツィーニ(1805-1872)に宛てた手紙(1871年8月15日付書簡)を見るのがよいだろう。その中で、パイクは統一世界政府の樹立のためには、三つの戦争が必要だと言ったそうだ。それは「予言」ではなく、計画として、つまり目標の実現のために、三つの戦争が計画されており、その計画が実行されることが目的達成のために必要だという意味である。

 

第一次世界大戦は、ツァーリズムのロシアを破壊し、広大な地をイルミナティのエージェントの直接の管理下に置くために仕組まれることになる。そして、ロシアはイルミナティの目的を世界に促進させるための“お化け役”として利用されるだろう。」

 

第二次世界大戦は、『ドイツの国家主義者』と『政治的シオニスト』(パレスチナ地方にユダヤ人国家を建設しようとする人々)の間の圧倒的な意見の相違の操作の上に実現されることになる。その結果、ロシアの影響領域の拡張と、パレスチナに『イスラエル国家』の建設がなされるべきである。」

 

第三次世界大戦は、シオニストとアラブ人とのあいだに、イルミナティ・エージェントが引き起こす、意見の相違によって起こるべきである。世界的な紛争の拡大が計画されている……」

 

「キリストの教会と無神論の破壊の後、ルシファーの宇宙的顕示により、真の光が迎えられる……」

 

 この計画は、パイクの死後、まったく「その通り」という感じで進行する。ロシアのロマノフ王朝は、日露戦争敗北の後、第一次世界大戦の1917年、ロシア革命で滅亡する。ロマノフ王朝のロシアにある金銀財宝はロスチャイルドから資金貸与をされたロシア共産党に没収される。共産党は没収した財産をもとにして、ロスチャイルドからの借金に利子をつけて返したので、結果的にロスチャイルドロマノフ王朝の財産が渡ったわけである。また、ヨーロッパの銀行に預けてあったロマノフの銀行預金はロスチャイルドにかなり奪われる。

 その後、共産主義という「お化け」が世界を席巻し、各国政府はこれに脅えることとなる。アメリカのFBIは共産主義者を徹底的に取り締まり、CIAは共産主義国家の脅威に対する諜報機関として生まれた。アメリカと日本は第二次大戦で戦うことになるが、両方とも国内では共産主義勢力と戦うこととなる。日本の戦前の治安維持法共産主義者を逮捕するための法律であるし、特高警察は共産主義者を取り締まるための組織である。

 このように、非共産主義国家は「共産主義」という「お化け」に振り回されるわけだが、「お化け」というありもしない脅威に気を取られるということは、本当にある脅威に目を向けないということである。こうして、各国の国民もメディアも、資本主義陣営と共産主義陣営の両方に金を渡している本物のバケモノを見落とすことになる。

 本物のバケモノは何か。それは、通貨発行権を民間の銀行が所有するという一見民主的な、しかしその実、「民衆」にとっては極めて搾取的な制度であろう。つまり、中央銀行の民営化である。歴史の流れを見てみると、まるでこれが達成されるために、戦争が起こるようである。しかし、マスコミはいつでも国家間の軋轢や闘争ばかりを取り上げ、こうした肝心なことを報道しない。そして国民はいつでも、マスコミで流されるそうした茶番劇に振り回される。

 マイヤー・アムシェル・ロートシルト(Mayer Amschel Rothchild 1744-1812)は、「私に一国の通貨発行権と管理権を与えよ、そうすれば、誰が法律を作ろうとどうでもよい」と言ったそうである。つまり、本物の資本家は、大統領や首相になろうとは思わない。そんな役割は他の誰かがすればよいのであって、ロートシルトロスチャイルド)が欲しがったものは通貨発行権と管理権である。お金の元締めになれるなら、国家元首になる必要はない。

 実際ロスチャイルドが力を持ち、世界に対する支配力を持ち得たのは、王様になったからではなく、お金の力である。ロスチャイルド一族はヨーロッパに広まり、各国で王家に戦争資金を貸与した。日本でもかつては戦国時代であったが、ヨーロッパでも諸大名による戦争が続いた。金がなくては戦争ができないため、王家はロスチャイルドのような金融業者に借金をして戦争を実行したのであるが、借金を返済できない王家も当然ながら生じた。

 その時、ロスチャイルドは返済に困る王族に対して、「借金を返さなくてもいい」と言ったそうである。その代わり、「王様が持っている徴税権の一部を貰います」と言ったのである。借金がゼロになる王様は喜んでロスチャイルドの申し出に賛同し、ロスチャイルドは徴税権を得た。こうして、ロスチャイルドは城下町の人々から税金を徴収し、王家に貸した金額以上の利益を得ることができた。

 しかし、税金を取られる方の町民からすれば、なんで俺たち地元民のキリスト教徒が、流れ者のユダヤ人に税金を納めなければならないのかと反発する。反発して税金を納めないと、脱税として警察につかまる。ロスチャイルドは国家お墨付きの徴税権を持っているわけだから、これに民衆が逆らうことは国の法律に違反することである。こうして、ヨーロッパ人はユダヤ人のことが嫌いになってゆく。

 結局、国のトップ、つまり王様や宰相にならなくても、財務を握ってしまえば国を握ったことと同じである。このやり方は18世紀だろうが現在であろうが、基本的には変わらない。国の財政を握ってしまえば国を握ることができるし、マスコミの株式や広告収入を握ってしまえばメディアを握ることができるし、世論を操ることができる。金の出所を握ることが、国を握ることであり、人々の心を握ることでもある。

 この延長線上に、戦争がある。どちらがお金の出所を握るのか。金がなければ戦争はできないし、戦争は金の出所の奪い合いである。戦争とはどうやら経済の戦いのようである。そのためには、行き当たりばったりで戦争をすることは愚かである。会社の経営が行き当たりばったりでは、その会社の倒産は近い。倒産しないためには、綿密な事業計画というものが必要である。それと同じように、世界的なマネー戦争においても、しっかりとした事業計画が必要である。アルバート・パイクの言う戦争計画も、そうした世界的な事業計画の見取図なのかもしれない。

第一回 ウェスリー・クラークが見た戦争計画メモ

 昔、ピーター・バラカンが司会のCBSドキュメントという夜中のテレビ番組があった。今から十年以上前の話である。私は毎回見ていたわけではなかったが、機会があるときは見ていた。イラク戦争によるフセイン政権滅亡からしばらくたって、その番組は、あるアメリカ軍の元将軍が関係者から渡されたメモの内容を特集していた。

 それによると、イラクとの戦争はもちろんのこと、シリア、レバノンリビアソマリアスーダン、イランが将来米軍により攻撃されることが計画として決まっているということであった。私はイラク戦争の前の911事件をきっかけとして、色々とネットでその背景を調べていた。それにより、戦争が偶発的に起こるのではなく計画的に起こるということを私も知っていた。なので、その将軍の発言、つまり、戦争が偶発的に起こるものではなく、計画的になされるものであるということについては、それほどの驚きはなかった。そして、第三次世界大戦が起こるとしたら、そのリストの最後に書かれているイランを中心に起こるのではないかなと、漠然と納得した。

 しかし、なんとなく納得はしたものの、いったいどうやってシリアやイランを米軍が攻撃するのか、それについては、頭の中にクエスチョンマークが残ったままであった。イラクフセインによる独裁国家であるということは世界的に知られている。それをアメリカが「正義の戦争」という理由をつけて攻撃するというシナリオは成り立つだろう。また、レバノンソマリアスーダンは、米軍が介入する以前に内戦状態で混乱している。リビアカダフィによる独裁国家として世界的に知られている。なので、イラクと同様、アメリカ政府やメディアが「悪の帝国」だと言えば、アメリカ国民はそれを信じるだろう。なので、アメリカがリビアを潰そうとしても、アメリカ国民はイラクの時と同様、反対しないはずである。

 しかし、シリアやイランは、イラクのような、見ればわかるような独裁国家ではない。世界中から多くの観光客が訪問している国であり、入国後は命の保証がなく、殺されても「自己責任」として誰も憐れんではくれないような独裁国家ではない。シリアのダマスカスやイランのテヘランは巨大な観光地であり、欧米だけでなく、日本からもJTBのツアー客が行っているような古都である。

 当時の感覚からすれば、シリアやイランは、イラク北朝鮮のような閉鎖的な独裁国家というイメージとは違い、もっと開かれた民主的な国家というイメージがあった。なので、そういった国をアメリカ軍が襲うとしても、アメリカ国民の理解を得ることは難しいのではないかと思った。なので、そのメモにある計画がウソではないとしても、当時の私には、いったいそんなことをどうやってやるのだろうという疑問があった。

 しかし、その後、そのメモの内容は本当に実行された。シリアは2011年から内戦状態になり、ダマスカスは一大観光地ではなく、戦場となった。レバノンは長い内戦が1990年に終わるが、2006年にイスラエルと戦闘状態になり、再び街が破壊される。リビアは2011年の内戦でカダフィが殺され、政権が倒れる。ソマリアは長い内戦状態の中、2007年に米軍が介入、2012年に正式な政府が発足している。スーダンは2003年からダルフール紛争が起こり、その後南スーダンが独立している。こうなると、残りはイランのみである。

 さて、私が相当前にテレビで見た驚愕のメモの内容であるが、最近、山本太郎参議院議員の秘書をしていた作家の安部芳裕氏の本を読んだら、その中にこのメモについての詳しい記述があった。安部氏によると、そのメモを見た人物は、元NATO欧州最高司令官であり、その後民主党上院議員となったウェスリー・クラークであるそうだ。クラークは911事件のおよそ10日後に国防総省で将校に会った際に、そのメモを見て、2007年のテレビ番組「デモクラシー・ナウ!」に出演した際に、その内容を暴露したそうである(『世界超恐慌の正体』 普遊舎新書 217-219頁)。

 2019年6月現在、メモの中でアメリカにまだ侵攻されていない国は、唯一イランである。これからもし、イランとアメリカが戦争をするとしても、その計画は911事件の前、つまり20世紀には決まっていたということである。戦争が偶発的ではなく、計画的に起こるものだとしても、その計画は随分前から決められていたことのようである。しかし、アルバート・パイク(1809-1891)の手紙を見ると、それは20世紀ではなく、19世紀に決められていたようである。