第三次世界大戦を心配するブログ

国際情勢や歴史、その他について書いていきます。

第五十回 イランとアメリカ、なぜ対立するのか ~その歴史的関係性(3)

1.近代化はYES、独立はNO

 欧米人は、植民地が近代化し、欧米のような国になることについて大歓迎である。独裁国家民主化することは大歓迎であり、選挙のない国で普通選挙が行われることは大歓迎であり、自由な経済競争が行われることは大歓迎であり、義務教育や男女平等が広まり、都市計画や衛生設備や福祉制度が充実することは大歓迎である。

 ただし、独立はまったく歓迎されない。なぜなら植民地の近代化は、宗主国の利益のためになされるものだからである。宗主国に利益が還元されないなら、家畜の国が近代化しても意味がない。人間が羊や豚の健康を神に祈るのは、良質な羊毛や豚肉を取るためである。家畜が健康になった結果、柵を飛び越えて逃げてしまったら意味がない。

 植民地が独立すると困る人達が、二種類存在する。一つは植民地支配で利益を得る支配者層であり、もう一つはその家来として利益を得るカポー達である(カポーについては第三十一回ブログを参照)。日本はカポーによる支配が極めてうまくいっている国なので、政治家も官僚もメディアも、国家の独立を志向しない。それゆえ教育も報道も、日本が独立国であるという物語を流布し続ける。それを国民のほとんどが信じることによって、日本が植民地であることは問題にすらなっていない状況である。

 これは宗主国からすれば、大変に嬉しいことである。彼らからすれば、日本人には大いに勘違いしてもらってよい。アメリカと日本が両方とも独立国であり、日米同盟は対等な関係だと勘違いしてもらってよい。日本はアジアNo.1の先進国であり、優れた文化と科学技術の力を持った民主主義の国だと勘違いしてもらってよい。実は国家として独自の意思決定はできず、自らの財産を自由に活用することもできないことについては、知らなくてよいのだ。

 

2.二人のモハンマド

 「湾岸の憲兵」と呼ばれたイランも、日本のような国、すなわち近代的植民地を目指していた。道路が整備され、選挙制度が完備され、男も女もオフィスで働く近代的な植民地である。彼らはそうしたコンクリートジャングルで働き、結婚し、子を育て、グローバル企業に利益を吸い取られながら生きてゆく。

 イランがその路線を志向し、かつ独立に無関心である時、英米イスラエルはイランを熱烈に応援した。パフラヴィー王制二代目の時代には、それらの国々は同盟国(宗主国と植民地)ですらあった。しかし、この蜜月の主従関係が成立する前には危機があった。それが後に述べるアーバーダーン危機(Abadan Crisis)である。

 イランが日本と違う点は、石油というわかりやすい資源があることであろう。日本の郵便貯金原発などのエネルギー、軍事力などは、全て外国人に握られているが、日本人にはわかりにくい。モルガンやロスチャイルドの言いなりになる郵貯であっても、役員や従業員は日本人であり、電力会社の経営も日本人によって行われており、自衛隊のトップも日本人である。そのため、日本の外見は独立国である。

 しかし、イランの場合には国土に豊かな石油資源がありながら、その利権はすべて外国人に握られていた。石油会社の幹部は全てイギリス人であり、イラン政府もその言いなりになっていた。いくらイランが欧米化しようと、石油がイラン人のものでないことは見ればわかる事実であった。これは日米関係のような玉虫色の支配と違い、わかりやすい植民地支配であった。

 イランは世界第四位の産油量を誇る国土を持ちながら、20世紀初頭の油田の発見以来、その利権は全てアングロ・ペルシャン・オイル・カンパニー(Angro-Persian Oil Company  略APOC)に握られていた。これはパフラヴィー朝の前のカージャール朝から続いている石油支配であり、モハンマド・パフラヴィーの時代になっても全く変わらなかった。モハンマドは1941年に父親から王位を奪った後、イランの近代化に尽力したが、石油利権については何もしなかったのである。

 そこに現われたのが、もう一人のモハンマド、すなわちモハンマド・モサデク(Mohammad Mossadegh 1880-1967)であった。モサデクはカージャール朝の貴族の血筋であり、ソルボンヌ大学を卒業後、スイスのヌーシャテル大学で法学博士号を取得している。つまり、家柄が良く、ヨーロッパで高等教育を受けたという点では、もう一人のモハンマドと彼は同じであった。

 つまり、言葉も文化も宗教も異なるイスラム教徒と違い、欧米人からすればモサデクはかなり話の通じる人物に見えた。フランス語を流暢に話し、イランの近代化を目指すモサデクは、欧米人からしても友人、つまり都合のいい操り人形になってくれる人物に見えたのだ。しかしモサデクは独立主義者であった。この一点により、彼は危険人物と見なされるようになった。同じモハンマドでも、パフラヴィーと違い、モサデクは欧米から敵視されるようになる。

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Dr. Mohammad Mosaddegh, 1951

3.民衆の勝利は宗主国からすれば暴動である

 ヨーロッパからイランに戻り、国会議員となったモサデクは、政治家としての経験を積み、財務大臣となり、影響力を増していった。彼の政策の柱は植民地支配からの脱却であり、そのシンボルが石油国有化法案であった。もちろん、石油の国有化は彼のみならず、独立派のイラン人なら誰もが唱えた政策であったが、この時期、モサデクという求心力をもとにイランの世論が国有化へと一本化していったのである。

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Mohammed Mosaddegh rides on the shoulders of cheering crowds in Tehran

 これに憤慨し、危機を感じたのはイギリスであった。イギリスは1901年からイランの油田探査を開始し、これが後のAngro-Persian Oil Company(APOC)となり、現在のBPへと繋がっている(詳しくは第四十七回ブログを参照)。イギリスからすれば、イランという未開の土地で原油を発見し、精製して商売にする方法を開発したのはイギリス人であるという自負がある。それゆえイギリス人の観点からすれば、石油がイランの国土にあろうが、法的な所有権者はあくまでもイギリス人である。

 もちろん、イランの独立派からすれば、そうしたイギリスの論法は詭弁にしか聞こえない。イランの国土に石油があっても、無能なイラン人はそれを知らなかった、だからイランの石油はそれを発見した賢いイギリス人のものだと言われても、イラン人としては納得がいかなかった。それゆえ、この状況下でイギリスが石油の全面的な所有権を頑なに主張し続ければ、暴動や武力衝突になりかねなかった。それはイギリスが望む安定した石油会社の経営にとって著しくマイナスであった。

 そこで、APOCおよび英国政府は石油の全面支配を諦め、懐柔策として、イギリスとイランで石油利権を半分に分けるという提案をした。これはイギリスからすれば最大限の譲歩であったが、モサデクはそう見なかった。彼はこの提案を、イギリスがイランの植民地支配を継続するための策略だと受け取った。また彼を指示する独立派のイラン人たちも、モサデクと同様の解釈をした。

 このためモサデクを支持する独立派のイラン人たちは、1951年の選挙でモサデクを選び、モサデクは首相に就任した。そして彼は議会でついに石油国有化法を可決させた。政権はこの新法をもとに、イラン南西部の都市であるアーバーダーン(Abadan)の石油生産設備から英国人石油関係者達を追い出した。

 これによりイランでは、民衆から選ばれた政権が、民主的な手続きをもとに、民衆の悲願が達成されるという大事件が起きた。戦争ではなく、民主主義によって、イラン人が白人から石油を取り戻したのである。これは、政府の上層部が民衆の意向と関係なく行う「上からの近代化」とは異なり、イランの草の根の民衆が起こした革命であり、民衆の勝利であった。

 しかし宗主国からすれば、この事件は民衆の勝利でもなければ民主主義の勝利でもなく、単なる暴動であり、犯罪であった。モサデクは英雄ではなく、農民一揆の扇動者であり、秩序の破壊者であった。そして、資本家からすれば財産の危機である。そのため、英米ではこの事件を「民衆の勝利」と呼ばない。単にアーバーダーン危機(Abadan Crisis)と呼ぶ。

第四十九回 イランとアメリカ、なぜ対立するのか ~その歴史的関係性(2)

0.イランとアメリカの関係性

 前回のブログでは、予定を変更して新型コロナウイルスについて考察した。今回は、第四十七回ブログからはじめているシリーズに戻りたいと思う。イランとアメリカがなぜ対立するのか、その歴史的関係性について述べていきたい。

 

1.二代目当主の近代化政策

 「会社は三代目が潰す」とは、よく巷間で聞かれる言葉であるが、パフラヴィー朝イランの場合は三代目に至る前に、二代目で潰れることとなった。しかし、これは致し方ないのかもしれない。今のイラン政権でさえも、二代目のハメネイ時代で存亡の危機にある。中小零細企業を三代目まで持たせることですら難しいのだから、イランの舵取りとなれば、その難しさは想像を絶するのかもしれない。

 一代目は猪突猛進型の創業者、二代目はその正反対の坊っちゃんというパターンは、会社であろうが王家であろうが、よくあることなのだろう。ご多分に漏れず、二代目のシャー(Shāh王)であるモハンマド・レザー・パフラヴィー(Mohammad Rezā Pahlavi 1919-1980)は、生粋の軍人であった父親と違い、幼少から王族であった。彼は父がシャー(Shāh王)になると同時に、6歳で王子となる。

 そしてモハンマドは、少年時代をスイスのル・ロゼ(Institut Le Rosey)で過ごした。多くの日本人にとって、ル・ロゼ(Le Rosey)は耳にしたことのない言葉かもしれないが、欧米の金持ちからすれば、ル・ロゼを知らない人の方が珍しい。

 

レーニエ大公、セネガル皇太子からショーン・レノンまでが同窓生

https://www.gqjapan.jp/culture/column/20160806/the-worlds-best-boarding-school

 

 ル・ロゼは1880年に設立されたスイス最古の寄宿学校の一つであり、世界で最も高額な授業料を取る学校の一つと言われている。当然ながら、そこでの生徒は大金持ちや王侯貴族の子息・子女ばかりであり、卒業生もベルギー国王やモナコ大公、イギリスの王族やロスチャイルド一族といった顔ぶれである。

 

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Prince Mohammad Reza Pahlavi on the left and his friends, Institut Le Rosey, 1931

 パフラヴィー二世が親しかった御学友の一人に、アメリカ人のリチャード・ヘルムズ(Richard Helms 1913-2002)がいた。ヘルムズは後にCIA長官となり、その後はイラン大使となる。

 

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Richard Helms and Richard nixon

 生粋のペルシア軍人だった父と違い、スイスの貴族学校で少年時代を過ごした二代目シャーにとっては、欧米の文化は身近なものであった。そのため皮肉なことに、二代目の時代のイランは、史上最もアメリカやイスラエルと親密な関係を持っていた。これは、現在のイランの体制とは正反対であり、極端から極端へとこの国の軸が揺れることを示している。

 

2.二代目と保守派の対立

 二代目は無能な金持ちの坊っちゃんではなく、英語とフランス語を流暢に話す国際派であった。そして彼の目標は、皮肉なことに、自らが追い出した父と同じくイランの近代化であった。インターナショナル・スクールで育った彼は、その目標を達成するために、少年時代からの人脈である欧米の金持ちを自国に取り入れた。つまり、外国資本をイランに積極的に導入し、欧米企業をイランに多数誘致したのである。

 それとともに、土地改革、国営企業の民営化、労使間の利益分配、婦人参政権の確立、教育の振興、農村の開発などの改革を行った。これがイランの白色革命と呼ばれる改革運動であるが、その名称はフランスで国王や皇帝を象徴する色が白(White)であったことに由来する。つまり、国王による「上から」の近代化が、White Revolution(白色革命)なのである。

 この時、イスラム女性が髪を覆うヒジャブ(ヘジャブ hijab)は禁止された。少年時代から欧米文化に慣れ親しんだモハンマドからすると、ヒジャブはイランの後進性の象徴に見えたからである。

 

イランの女性ファッションとメイクは、この100年でこんなに変わった

https://www.huffingtonpost.jp/2015/02/23/how-iranian-beauty-has-changed-over-100-years_n_6740106.html

 

 こうなると、イスラム保守派からすれば、二代目シャーはイスラムの伝統を破壊する欧米の操り人形に見えてくる。そのため、イラン国内ではアーヤトッラールーホッラー・ホメイニー(Āyatollāh Rūhollāh Khomeinī 1902-1989)を中心とする反体制運動が起こるようになった。モハンマド・パフラヴィーはホメイニーを国外追放処分とし、ホメイニーはパリへ亡命することとなった。この時点では、ホメイニーが負け、パフラヴィーが勝ったように見えた。

 

3.独立は絶対に許されない

 パフラヴィー朝イランの目標はイランの近代化であったが、民主主義は眼中になく、政治体制はシャー(王)による独裁であり、あくまでも上からの改革としての開発独裁体制であった。これは欧米の民主主義とは180度異なるものに見えるが、欧米列強からすれば、言いなりになって動くイランの王様は好都合であった。そのため、当時のアメリカやイスラエルはイランに対して極めて友好的であった。

 アメリカは軍事的にもイランと深いつながりを持ち、1970年代中盤には、まだ他の同盟国にも販売したことのない最新鋭のグラマンF-14戦闘機とボーイング747空中給油機をイラン空軍に納入した。また、同じく最新鋭のボーイング747-SP旅客機をイラン航空に販売している。

 イスラエルにとっては、トルコに次いで二番目に国交を樹立したイスラム圏の国がイランであった。イランはイスラエルに石油を供給し、軍事的にもイランとイスラエルは共同でミサイル開発を行った。つまり、この時の両者は敵国ではなく、同盟国と言ってもいい間柄であった。現在の国際情勢からすれば、まるで別世界である。

 ただ、この「同盟国」という名前は、イラン側の観点からの名称である。白人側からすれば、白人と対等に「同盟」を結べる国家は地球上に存在しない。つまり、彼らからすればそれは「同盟」という名の植民地政策であり、自分たちの言いなりになる有色人種の国家が「同盟国」である。そのため、彼らは民主主義や資本主義、近代化やグローバル経済について声高に唱えても、決して「独立」は許さない。

 植民地が資本主義になることはよい。グローバル企業がその市場で儲けることができるからだ。植民地が民主的な選挙制度を持つことはよい。宗主国がメディアを操作して傀儡政権を持つことができるからだ。植民地が民営化することはよい。植民地の金融とインフラをグローバル企業が握れるからだ。植民地に義務教育が普及することはよい。グローバル企業にとって使える人材が増えるからだ。植民地が男女平等になることはよい。人口の半分だけでなく、全体をグローバル企業の奴隷にできるからだ。植民地と宗主国が軍事同盟を結ぶのはよい。宗主国は植民地に軍事基地を建て、好きなように使えるからだ。

 しかし、植民地が独立するのはダメだ。上記の利益が全て失われるからだ。だから、植民地が独立するなら、それは形だけのものでなければ、宗主国としては困る。植民地の利益は宗主国が享受するのでなければならないので、植民地の利益を植民地の国民が享受しては困るのだ。だから植民地が独立することは、宗主国からすれば絶対にあってはならないことである。

 この点、パフラヴィー朝イランはモハンマドという親欧、親米、親イスラエルの王様が統治する国であり、欧米にとっては大変に都合のいい国であった。この時のイランは、「湾岸の憲兵」と呼ばれていた。イランは憲兵隊長であるパフラヴィー王の下で、白色革命を実行し、近代化(欧米化)した。しかし、イラン国王が本格的な憲兵隊長、つまりカポーの親玉へと成長する前に、この国には本気で独立を目指す政治家が存在した。それが、モハンマド・モサデク(Mohammad Mossadegh 1880-1967)である。

 

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Mohammad Mossadegh

 モサデクもパフラヴィー王と同じく、改革主義者であり、その目標はイランの近代化であった。つまり、イランを欧米並みの近代国家にすることが彼の目標であった。しかし、モサデクの目標はそれだけではなく、その目標には欧米支配からの独立も含まれていた。これは宗主国からすれば絶対に許されないことである。そのため、CIAはモサデクを潰すために、全精力を傾けることとなる。

第四十八回 新型コロナウイルス その蔓延を喜ぶのは誰か

0.予定変更

 今回は予定を変更し、新型コロナウイルスについて考察していきたいと思う。

 

1.動物という物言わぬ魔女

 新型コロナウイルスの感染源は、中国の食物市場にあるアナグマや竹ネズミではないかと言われている。日本の大手メディアは、概ねそうした論調で報道している。

 

新型ウイルス肺炎「感染源は市場の野生動物か」中国の専門家

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200122/k10012254981000.html

 

新型肺炎、感染源はどこ? 中国の専門家、分析さまざま

https://www.asahi.com/articles/ASN1X4WN1N1QPLBJ004.html

 

 感染源が野生動物ということなので、美食家の間では「ジビエは食べても大丈夫か?」という懸念となっているようだ。

 

日本の「野味」は大丈夫? 拡大する新型肺炎 野生動物を安心して食べるには

https://www.nishinippon.co.jp/item/n/579116/

 

 今回のウイルス蔓延事件により、中国のアナグマや竹ネズミは、「感染源」とされ、世界中から悪者扱いされているようだ。なお、竹ネズミは「ネズミ」とは言っても、日本人が想像するネズミと違い、以下の記事を見てもわかる通り、かなり大きいようである。

 

タケネズミを食べてもよいか?専門家は「新型ウイルス発生での非常事態には控えるべき」

https://www.afpbb.com/articles/-/3264840

 

 しかしもし彼らが、人間の手でウイルスに感染させられたとしたらどうだろう。仮定の話だが、アナグマや竹ネズミが人間の手によって新型ウイルスに感染し、感染した彼らが市場に出回り、その結果として人間が感染したならば、それはアナグマや竹ネズミのせいではなく、人間の自業自得であると言えないだろうか。

 中世ヨーロッパでは、霊感の強い女性がペストの原因だとされ、火あぶりにされた。いわゆる魔女狩りである。しかし、中世ヨーロッパにおけるペスト蔓延の原因は、当時の不潔なヨーロッパ人の習慣にあった。

 

不潔なのが当たり前?! 城塞都市のトイレやお風呂の衛生事情

https://www.phantaporta.com/2017/11/blog-post22.html

 

 自業自得で苦しんでいる人間ほど、苦しみの原因を外部に探すものである。それゆえ、魔女狩りは中世のみならず、人間社会において常に起きる。アナグマや竹ネズミは悪者扱いされ、日本を歩く中国人観光客は煙たがられ、ヨーロッパを歩くアジア系の人々は煙たがられる。我々は簡単に誰かを魔女に仕立て上げ、あるいは何かのきっかけで、我々が簡単に魔女に仕立て上げられることもありうる。

 

2.金儲けにつながる大量破壊兵器

 ウイルス兵器の起源は、ヨーロッパ人によるアメリカ大陸侵略の時代にあると言われている。天然痘に感染した兵士が使っていた毛布を、白人がネイティブ・アメリカンにプレゼントしたのだ。これにより白人は、自軍兵士を失うことなく、相当数のネイティブ・アメリカンを殺す方法に気づいた。

 これ以来、化学兵器は戦争にとって欠かせないものとなった。白兵戦では味方に多くの犠牲者が出るが、毒ガスを撒くなら、死ぬのは敵だけである。また、この技術は民間転用ができ、戦後は金儲けになる。毒ガスは殺虫剤になり、枯葉剤は除草剤や抗がん剤へと進化した。女性用のナイロンストッキングを開発したのも、核ミサイル用のプルトニウムを開発したのも、デュポンである。

 大量破壊兵器と言えば、多くの人は核ミサイルを思い浮かべるかもしれない。しかし、核開発は莫大な金がかかるし、実戦で使用しづらい。その点、化学兵器は低コストで高効率であり、使い勝手がよい。核ミサイルなら誰が撃ったかわかってしまうが、化学兵器生物兵器、ウイルス兵器)の場合は誰が撒いたかわかりづらい。また、戦後は民間転用で金儲けになる。つまり、安い、(死者が)多い、儲かるの三拍子である。

 そのため現代においても様々な軍事大国が、化学兵器生物兵器、ウイルス兵器)開発に余念がない。アメリカにおける化学兵器研究の拠点は、メリーランド州にあるフォート・デトリック(Fort Detrick)である。ここで、米軍に雇われた科学者たちは、日夜、大量に人を殺せるウイルスや化学物質を開発中である。

 ただここ数年、米軍は単独研究ではなく、日本にもその下請け的な働きを望んでいる。そのため、日本国もどうやらウイルス兵器の開発に余念がないようだ。文科省が官邸に忖度して、総理のお友達が四国に獣医学部を強引につくったことが一時期問題となったが、本当は国の税金を使って殺人ウイルスをつくる方が余程問題のはずだ。

 

石破茂氏の発言で懸念広がる加計学園の「バイオハザード問題」

https://nikkan-spa.jp/1372508

 

 この点については第二十九回ブログを見直してもらうか、「新聞記者」という秀逸な映画をご覧いただきたい。

 

映画『新聞記者』 公式サイト

https://shimbunkisha.jp/

 

 さて、今回のウイルス事件で世界的に有名な都市となった中国の武漢であるが、ここには最新鋭のウイルス研究所が存在する。それが「武漢国家生物安全実験室」と「中国科学院武漢病毒研究所」である。そのため、明確な因果関係は立証できないが、今回の新型コロナウイルスはこの施設で開発されたものなのではないかと推測する記事もある。

 

中国の新型肺炎イスラエルで「生物兵器の可能性」指摘される

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200129-00010003-flash-peo

 

習政権「新型肺炎」感染者10万人超“隠蔽”か!?

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200130-00000005-ykf-int

 

 研究所の中に第三者が潜入して取材することは不可能なので、今回の新型ウイルスが人工のものであるというのは、あくまで仮説に過ぎない。しかし、ウイルスを何でもかんでも自然発生的に生じたものだと考えるのは誤っている。エイズやエボラも、研究所でつくられたものである可能性はある。

 ウイルス技術は軍事的価値のみならず、民間技術として応用できる「金のなる木」である。金の匂いのするところには、金が集まってくる。ということは、現在世界に出回っているウイルスのかなりのものは、研究所によってつくられたものである可能性もある。

 

3.戦争の下準備としてのウイルス

 台風であろうが、ウイルスであろうが、現在の科学技術の水準からすれば、それらは人工的につくることが可能である。これは都市伝説ではなく、科学の常識である。人工台風については、第三十二回ブログをご覧いただきたい。

 結局のところ、今回の新型コロナウイルスについても、自然発生なのか人工なのか、決め手となる証拠は見つけられない。なので、どちらの説にしても推測でしかない。武漢の研究所でつくられたものだと推測する記事については先にあげたが、自然発生のものだと推測する論者もいる。軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏は、今回の新型コロナウイルスは自然発生のものだと考える方が妥当だと述べている。

 

新型ウイルス「中国が秘密開発した生物兵器」トンデモ説が駆けめぐった一部始終

https://www.businessinsider.jp/post-206829

 

 確かに、新型コロナウイルスの殺傷力は強くないので、殺傷力という観点からすれば、黒井氏の述べていることは説得力がある。しかし、今回のウイルス蔓延の目的が、大量殺傷でないとしたらどうだろう。例えば、政府が戦争を遂行しようとする時、そこには事前準備が必要である。いきなり戦争をすることはどこの国でもできない。

 そのいい例が911事件とイラク戦争であり、イラクとの大規模な戦争の前には、ニューヨークのビルを破壊するなどの様々な準備が必要であった。その準備の一環と見られている事件が、炭疽菌事件(2001年9月18日、同年10月9日)である。炭疽菌の入った封筒が、アメリカのテレビ局や出版社に送られ、封筒を開封した5名が死亡、17名が負傷した事件である。しかし、その凄まじい効果は殺傷力よりも、国民に与えた心理的効果であった。

 つまり、戦争を準備している側からすれば、準備段階で大量の人間が死ぬ必要はない。むしろ、死者は少数でかまわない。そのためには、実戦兵器としての本格的なウイルスは必要ない。大衆の心を、いつ、どこで、何が起こるかわからないという不安な気持ちにさせることが大事なのである。

 炭疽菌事件の死亡者数は5名に過ぎなかった。しかし、アメリカ国民全体の心に影響を与えた。ビルの破壊。ペンタゴンの破壊。炭疽菌事件。その他様々な下準備があり、ナイラ事件(第十五回ブログを参照)が発火点となり、アメリカ世論はイラク戦争へと流れていった。

 安定した社会においては、一般国民は常に戦争に反対である。戦争で大儲けできるのは少数の資本家だけであり、一般国民にとって戦争の利益はないからだ。そのため、一般国民に「戦争もやむなし」と思わせるにはそれなりの操作が必要である。疑心暗鬼になり、人心が不安定となって、はじめて戦争が可能となる。ウイルス兵器は、戦場で敵国の人間を殺す目的で使われるのみでなく、自国の人間の心を乱れさせるために使われる可能性がある。

 今、世界に蔓延している新型コロナウイルスは、自然発生のものかもしれないし、人工のものかもしれない。誰かが故意にばら撒いたものかもしれないし、事故で漏れたものかもしれない。しかし、そういった原因は、もしかしたらどうでもいい問題なのかもしれない。我々が薬屋に行って「マスクがない!」と右往左往している姿を、嗤いながら見ている人達がいるのだろう。彼らにとっては、ウイルスの原因が何であれ、大衆の心が乱れているのは喜ばしいことである。

 

マスク売りきれ問題、中国人の買い占めが日本にまで及ぶ事情

https://diamond.jp/articles/-/227324

 

 なお、ウイルス狂詩曲の嵐の中、海上自衛隊護衛艦「たかなみ」は、本日(2020年2月2日)中東へ出港している。いよいよ日米合同での中東での軍事作戦が本格的に開始するのであるが、そんなニュースはウイルスで心がいっぱいになっている国民の関心事ではない。これも、戦争をしたい人たちからすれば大変に喜ばしいことであろう。

 

中東派遣の護衛艦が2日出航 下旬到着、情報収集や不審船警戒

https://this.kiji.is/596243816199717985?c=65699763097731077

 

第四十七回 イランとアメリカ、なぜ対立するのか ~その歴史的関係性(1)

0.予定の変更

 イランとアメリカの関係、特にアメリカによる経済制裁の具体的意味について、前回前々回の二回にわたって述べてきた。今日は第四十三回ブログの続きに戻る予定であったが、予定を変更し、何回かにわたり、イランという国の簡単な歴史と現在の状況について述べていきたい。それにより、なぜイランとアメリカが対立するのか、その原因について考察していきたい。

 

1.変わる国家体制と変わらない石油

 イラン・イスラム共和国、すなわち現在のイランという国家は、1979年のイラン革命によって成立した若い国である。つまり、現在の国家体制としてのイランは、まだ誕生から40年程度の歴史を持つにすぎない。

 この国は司法・立法・行政の三権によって成り立つが、この三権の上に最高指導者という終身の宗教指導者が君臨する。つまり一見、欧米や日本のような民主主義国家のようであるが、政教分離の国ではない。むしろ、「政」と「教」は一体である。

 

イランは最高指導者が絶対権力 大統領は行政の長

https://www.sankei.com/world/news/190612/wor1906120018-n1.html

 

 日本や欧米などの政教分離国家からすれば、一つの国家の中に様々な宗教があることが当たり前である。それゆえ、政教一致体制の国家は日本人からすると馴染みがない。なぜイランは民主主義でも王国でもなく、宗教国家なのか。そして、なぜこのような宗教国家体制が、反米保守強硬派を基盤として成り立っているのか。イラン人の心に根付く反米感情の源泉は何か。それについて理解するためには、イランの近代史を見ていく必要がある。

 イランの国家体制は様々に変わってきた。現在の国家体制の前は、パフラヴィー(パーレビ)朝イランという王制であった。ただ、時代とともに変化する国会体制と違い、この土地において変わらない事実がある。それは、ここに世界第四位の産出量を誇る油田があることである。そうである以上、その資源を強奪しようとする白人たちに、この国は狙われ続けることとなる。

 

(キッズ外務省)1日あたりの原油の生産量の多い国

https://www.mofa.go.jp/mofaj/kids/ranking/crude_much.html

 

 イランの国家体制はここ100年で三回変わっている。

 ①カージャール朝ペルシア(王制 1779年-1925年)

 ②パフラヴィー(パーレビ)朝イラン(王制 1925年-1979年)

 ③イラン・イスラム共和国(宗教国家体制 1979年-現在)

 

 変わるイランと対照的に、変わらぬ石油企業がある。イランの原油をもとに100年以上変わらずに繁栄している巨大石油企業、すなわちBPである。この会社はもともとBritish Petroleum(直訳すればイギリス石油)であり、その前身はAngro-Persian Oil Companyである。つまり、イギリスがイランの土を掘って原油を取るためにつくった会社である。イランの原油で大儲けしたイギリスの会社が、現在でもBPとして存続している。今のBPは石油に限らない総合エネルギー企業として世界に君臨しており、その株は安定した優良株として投資家の間で人気となっている。

 

石油メジャーBPが総合エネルギーメジャーになる日

https://susteps.com/1533/oil-major-bp-lightsource/

 

 イランには原油という宝が眠っている。それは100年以上まったく変わらない。そのために、イランの近現代史は、宝を狙う白人に翻弄される歴史となる。そのため国家体制は常に不安定であり、100年のうちに二回の国家転覆が起こり、三つの国家体制がまたがることになった。そして現在、その資源を狙う勢力は、さらなる国家転覆を狙っている。

 

2.英露の植民地としてのペルシア

 イランはカージャール朝の時代からイギリスとロシアの侵入に苦しんだ。国内の石油はイギリスのアングロ・ペルシャン・オイル・カンパニー(Angro-Persian Oil Company  略APOC)に握られていた。自国で出る油は、全てイギリス人に持っていかれる。ロシア人はイランの領土を奪おうと何度も軍事侵攻をしてくる。

 そのためカージャール朝ペルシアは、イギリスとロシアの侵略と干渉を排除しようとしたが、そのたびに返り討ちにあった。結局、カージャール朝はイギリスとロシアとの間に不平等条約を結ばされ、テヘラン中央政府は閣僚を選ぶ際もイギリスとロシアの領事館の承認を得なければならなくなった。

 ペルシア政府に招かれ財務官として働いたアメリカ人法律家のシャスター(William Morgan Shuster 1877-1960)は、こうした状況について「ペルシアの窒息」を著すことで世界に訴え、イギリスとロシアを厳しく批判した。

 こうした弱体化の後、第一次大戦(1914-1918)に伴うオスマン・トルコの軍事侵攻にあい、カージャール朝ペルシアの内部分裂はより一層激しくなった。イラン国内では各部族が中央政府の言うことをきかず、独立国を宣言するようになった。つまり、カージャール朝の権威は失墜し、名目だけの王家となったのである。この混乱状態を平定した人物が、カージャール朝において軍人兼首相であったレザー・パフラヴィー(Rezā Pahlavi 1878-1944)であった。

 

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Rezā Shāh Pahlavi

 

3.近代国家イランは揺れ動く

 レザー・パフラヴィーは自らの軍隊を率いて混乱のテヘランを占領し、ペルシア中央部での遊牧民の反乱を平定した。その後、ソビエト政府とロシア・ペルシア和親条約を結び、同時にイギリス・イラン協定を破棄し、イギリスの治外法権の撤廃に成功した。これらの業績からペルシア内で人気が高まったレザー・パフラヴィーは、1924年にカージャール朝の廃止を国会で議決し、翌年自ら帝位に就き、シャー(Shāh王)となった(パフラヴィー朝イラン 1925-1979)。

 国家元首となったレザー・シャーは、イランの近代化に着手する。1926年には司法改革を行い、イランの法体系を近代化した。また1927年には国民銀行を創設し、自前の中央銀行を打ち建て、アメリカから招聘した財政顧問官を重用し、財政改革を成し遂げた。社会的には旧態依然としたイスラム的制度を改革し、女性解放路線の政策を実行、教育改革も行った。

 対外的には国際連盟に加盟し、1935年には国名をペルシアからイランに変更、ここからペルシア人の国家は国際的にもイランと呼ばれるようになった。また、1938年にはペルシア湾テヘランカスピ海を結ぶイラン縦貫鉄道を完成し、産業育成にも尽力した。しかし、こうした急激な近代化政策の実行は、保守層であるイスラム伝統回帰派からはイスラムの軽視と見なされ、反発を招いた。

 これは、レザー・シャー統治時代のイランに限らず、現在まで続くイランの変わらぬ傾向性であり、さらに言えば中東のイスラム国家において100年以上継続する悩みでもある。つまり改革解放路線を実行すれば、保守層のイスラム教徒が反発する。逆に、保守的なイスラム国家となれば、近代化と解放を求めるリベラル層が反発する。どちらかを満足させると、必ずどちらかが反発するので、イスラム国家は常に不安定なのである。その不安定な状況につけいる形で、欧米の列強が介入してくる。この構図は100年以上変わらない。

 レザー・シャーの統治も、その不安定な国内事情と欧米列強の圧力により、頓挫することとなる。レザー・シャーに反発する勢力とイギリス・ソ連が結託し、息子である王子のモハンマド・レザー・パフラヴィー(Mohammad Rezā Pahlavi 1919-1980)を担ぎ上げた。結局、レザー・シャーはこの圧力に屈服し、退任することとなる。この時、新王であるモハンマドはまったく予想していなかったであろう。パフラヴィー朝イランは、わずか二代で終了するのである。

 

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Mohammad Reza Pahlavi

 

第四十六回 イランに対する経済制裁、その意味(2)

1.制裁と援助

 アメリカはイランに対して強力な経済制裁を行っている。制裁の内容は多岐にわたるが、その主なものは、イランと取引する企業に対して、アメリカとの取引を停止するというものである。例えば、イランと原油の取引をした企業は、アメリカに持っている銀行口座を凍結される。これによる損失は莫大なものとなるので、大手商社のほとんどはイランとの取引を諦めざるを得ない。世界の大手企業のほとんどは、アメリカに支店と銀行口座を持たなければ商売ができないからである。

 わかりやすく言えば、アメリカはイランと取引をしている各国企業に対して、イランの原油を取るか、それともアメリカの銀行口座を取るかの二択を迫るわけである。これにより、ほとんどの企業はアメリカの口座を選択するため、イランは原油の売り先を失うわけである。

 具体例をあげれば、インドである。インドはイランの原油を諦めた。ハルシュ・ヴァルダン・シュリングラ駐米大使は、2019年5月23日、インドによるイラン産原油の完全輸入停止を発表した。インドは2019年4月に100万トンの原油をイランから輸入して以来、イラン産原油を一切輸入していないと大使は述べている。詳しくは第十一回ブログを見ていただきたい。

 他方、アメリカはイランの反政府勢力に対しては資金援助をしている。例えば、第十四回ブログで紹介したバルーチ人勢力である。イランは民族的にはペルシャ人、宗教的にはイスラムシーア派の国家であるが、バルーチ人は民族が異なり、宗教的にもスンニ派である。CIAは彼らを援助しているが、詳しくは第十四回ブログをご覧いただきたい。

 これよりもさらにアメリカと密接な結びつきを持っているイランの勢力が、ムジャヒディン・ハルク(モジャーヘディーネ・ハルグ People’s Mujahedin of Iran PMOI あるいはMEK、MKO)である。バルーチ人の場合にはCIAがこっそりと資金援助をしているというレベルであるが、ムジャヒディン・ハルクの場合にはもっと大がかりである。アメリカの保守層は、イランの現政権を転覆し、ムジャヒディン・ハルクの代表であるマリアム・ラジャビ(Maryam Rajavi)を大統領に据えたいと思っている。

 

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Maryam Rajavi

 ムジャヒディン・ハルクと密接な結びつきを持っているアメリカの政治家が、トランプ政権で安全保障担当の補佐官を務めたジョン・ボルトン(John Bolton)であり、元ニューヨーク市長のルドルフ・ジュリアーニ(Rudolph Giuliani)である。ジュリアーニは現在、トランプ大統領の顧問弁護士チームの一員である。

 

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Maryam Rajavi and John Bolton

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Maryam Rajavi and Rudy Giuliani

2.差別をしながら、資金援助をする

 トランプ大統領は就任以来、イスラム教徒に対する差別的な発言を繰り返している。

 

トランプが「イスラム教徒の女性国会議員」を全力で罵倒している理由

https://newspicks.com/news/4098991

 

 トランプはイスラム系の女性国会議員たちに対して、「彼女たちは国に帰ればいい」と言うわけだが、彼女たちは生まれも育ちもアメリカなのであるから、帰るべき国はアメリカに他ならない。もしトランプが彼女たちを人種的に純粋なアメリカ人と認めないなら、トランプ自身も純粋なアメリカ人ではないということになる。純粋なアメリカ人は、ホピ族などのネイティブ・アメリカンのみということになり、ヨーロッパ系移民の子孫であるトランプも純粋なアメリカ人ではないということになるからだ。

 ただ、トランプがこうしたバカげた人種差別発言を繰り返すのは、支持率のアップのためであり、それで喜ぶアメリカ人がある一定数存在するからである。選挙というものは、全国民に薄く広く好かれるよりも、特定層からの強力な支持を得る方が大事である。トランプの場合は、労働者階級の白人男性からの支持が欲しいために、有色人種の女性をバカにして、そういった白人男性を喜ばせようとするのだ。

 そうした選挙戦略の陰で、トランプ政権は、女性でありイスラム教徒であるムジャヒディン・ハルクのマリアム・ラジャビを熱烈に支援している。それは彼女をトップとした傀儡政権をイランにつくりたいという思いであり、それがアメリカの言う「中東の民主化」戦略である。

 「民主化」というと聞こえがいいが、実質的にはそれは「民営化」である。それは民衆のための民主主義ではなく、資本家のための資本主義である。「民営化」については、第二回ブログを参照していただきたい。

 

イラン政権転覆を狙う反体制派が抱える闇

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/10/post-13260.php

 

3.忠犬は使い終わったら捨てられる

 ムジャヒディン・ハルクは、現在のイランにおいては反政府テロ組織と認定されているため、マリアム・ラジャビをはじめとしたムジャヒディン・ハルクのメンバーがイランに入国すれば、即刻逮捕であり、即刻死刑であろう。そのため、ラジャビを中心としたムジャヒディン・ハルクのメンバーは、現在アルバニアに拠点を持ち、そこで生活をしている。

 

アルバニアにイラン反体制派の拠点

https://www.worldtimes.co.jp/world/eu/97245.html

 

 アルバニアは、自国内にムジャヒディン・ハルクの拠点を用意するかわりに、アメリカから資金援助を受けている。それはトランプ政権にはじまったことではなく、オバマ政権から現在まで続いている構図である。

 

タンカー攻撃、自作自演だった。見えてきたトランプ政権と実行組織のつながり

https://www.mag2.com/p/money/714694/3

 

 イランの現政権を滅ぼし、後釜にムジャヒディン・ハルクを据えるというアメリカの思惑は、現段階では極めて難しいだろう。ムジャヒディン・ハルクはアルバニアに拠点を持っているが、イランには一歩も入れない状況であるし、イラン国民の多数派からすれば、ムジャヒディン・ハルクは売国奴である。仮にアメリカが戦争でイランを打ち負かしても、現在のイランの国民感情からすれば、後釜にムジャヒディン・ハルクを据えるのは不可能に見える。

 ただ、アメリカが望むのはイランの政権転覆であり、その後の「民営化」である。アメリカからすれば、アメリカの言いなりになる政権がイランに据えられればそれでいいのであり、必ずしもムジャヒディン・ハルクである必要はない。

 来るべき戦争にアメリカが勝利するためには、イラン国内の分裂が今以上に加速化する必要がある。そのための道具の一つとして、アメリカはムジャヒディン・ハルクを利用するつもりなのだろう。つまり、ムジャヒディン・ハルクという忠犬は、アメリカに捨て石として使われて終わりという可能性もある。

 ウェスリー・クラークが見た米軍が滅ぼす国家のリストの最後には、イランが載っていた。彼がそのメモを国防総省で見たのは、911事件の10日後である(詳しくは第一回ブログを参照)。現在は2020年であるから、イランを滅ぼすという計画は20年以上前からあったということである。

 アメリカはトランプ政権になってから核合意(JCPOA Joint Comprehensive Plan of Action 包括的共同行動計画)から離脱し、イスラエルとの結びつきを強め、反イランの立場を鮮明にしている。しかし、ムジャヒディン・ハルクのためのアルバニア支援はオバマ政権からはじまっているのであるから、トランプ政権になっていきなりアメリカが反イラン国家になったわけではない。

 そこから考えると、経済制裁を含めたトランプ政権の対イラン政策の数々も、アメリカの長年にわたる計画の実行にすぎないと考える方が現実的ではなかろうか。

 

 

第四十五回 イランに対する経済制裁、その意味(1)

0.予定の変更

 今回は前々回まで続いていた「奴隷のしつけ方」シリーズに戻ろう思っていたが、一連の中東情勢において、アメリカがイランに追加の経済制裁を課すことを発表したので、その意味について考察してみたいと思う。今回と次回の二回に渡って述べていきたい。

 

米、イランに追加経済制裁 高官8人や17団体

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO54307000R10C20A1000000/

 

1.ソレイマニはなぜ英雄なのか

 2020年1月3日、米軍のドローン爆撃により、イランのコッズ部隊(Quds Force)のトップであるソレイマニ司令官を含むイスラムシーア派の軍人8名が殺害された。その中には、イラク人によるシーア派勢力の連合体である「人民動員隊(Al-Hashd Al-Sha'abi)」のアブ・マフディ・ムハンディス(Abu Mahdi al-Muhandis)副司令官も含まれていた。

 

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Soleimani and Al-Muhandis

 イラク人であるムハンディス副司令官が、イラン人であるソレイマニ司令官を、バクダード空港に車で迎えに来た。その両名と部下たちが乗った二台の車が、米軍のドローン攻撃によって爆撃され、両名を含む8名が亡くなったわけである(バグダード国際空港攻撃事件)。

 この状況を見てもわかる通り、ソレイマニの仕事はイラン国外におけるシーア派勢力と結びつくことである。コッズ部隊(Quds Force)の役割は、海外におけるシーア派組織の育成と訓練、援助である。ムハンディスは、援助される方の外国人の立場である。イラクにおいてはスンニ派の方が多数派であるから、ムハンディスたちシーア派イラク人からすれば、イランの援助はありがたい。イランからしても、イラクスンニ派で一枚岩になってしまえば脅威であるから、イラク国内でシーア派勢力が力を持っていることは重要なのである。

 前回述べた通り、イランの国防の生命線は、こうした国外にいるシーア派組織との協力体制である。イラン単独の軍事力では、イランを守りきることは絶対にできない。イラクシーア派組織、レバノンヒズボラパレスチナハマス、イエメンのフーシといった仲間たちがいることで、イランの国防は成り立っている。

 こうした国外のシーア派組織を軍事訓練し、資金援助や組織作りをサポートするセンターが、イランのコッズ部隊(Quds Force)であり、そのセンター長がソレイマニだったわけである。ただ、ソレイマニがイラン国内で英雄視されていたのは、彼の地位や仕事の重要性だけが原因ではない。

 ソレイマニはイランの貧しい農村部で生まれ、学歴もなく、青年時代は父親の借金を返済するために建設労働者として働いていた。そこからイランの民兵組織に入り、イラン・イラク戦争などの武勲で出世を重ね、ついにはコッズ部隊のトップにまでなるのである。

 こうしたサクセスストーリーと、数多くの武勲、部下に対しても気さくな人柄があいまって、イラン国内で単なる高級軍人以上の尊敬を彼は集めているのであろう。ソレイマニが具体的にどれだけイランにおいて英雄視されているのか。それについては、以下の記事が参考になるだろう。

 

殺害されたイランの“国民的英雄”ソレイマニが、トランプに遺した不気味なメッセージ

https://bunshun.jp/articles/-/24905

 

イラン・ソレイマニ司令官埋葬にも大群衆、押し倒され50人死亡か

https://www.bbc.com/japanese/51029512

 

2.ソレイマニ殺害の裏の意味

 以上、ここまでの経過を見れば、アメリカとイランの関係は急激に悪化し、いつ全面戦争になってもおかしくないように見える。しかし、実際はそうなっていない。1月8日、イラン軍はイラク内の米軍基地に弾道ミサイル攻撃をし、イラン側は死者80名と発表しているが、米側は死者はいないと発表している。

 

イラクの米軍基地に弾道ミサイル攻撃 イランが司令官殺害の報復と宣言

https://www.bbc.com/japanese/51029461

 

 アメリカは1月10日、この攻撃に対する報復として、イランに追加の経済制裁を課すと発表している。これで事態はいったん沈静化したように見える。なぜか。

 答えは、アメリカとイラン、双方の政府がそれなりに得をしたことによるだろう。アメリカの思惑としては、今の段階で取るべき手段は、全面戦争ではなく経済制裁である。アメリカがソレイマニを殺害し、イランがその報復をしたことによって、アメリカはさらにその報復として経済制裁をすることができた。米軍がソレイマニを殺害すれば、イランが何らかの報復をしてくることはアメリカにも事前にわかっていた。おそらく、アメリカとしては最初からその報復にあわせて経済制裁をする予定だったのであろう。

 また、イランの現政権としては、ソレイマニがアメリカという余所者に殺されたことは、ある意味ありがたいことであった。ソレイマニが国民から人気があるということは、イランの現政権からすれば煙たい事実である。それは、国民の現政権に対する不満が高まれば、ソレイマニが大統領として担がれる危険性があるということであった。それゆえ、現政権としてはソレイマニという目の上のたんこぶがいなくなったことはありがたいのである。

 また、アメリカの経済制裁によって国内経済が年々ひどくなっているイランとしては、国外のシーア派を積極的に経済援助するコッズ部隊は金食い虫である。いくら海外のシーア派組織がイランの国防の生命線だからといって、国内経済が苦しいのに、外国人に気前よく援助するコッズ部隊は、国内派からすれば気持ちのいい存在ではない。それゆえ、外国にまわしていた金を国内にまわしたい勢力からすれば、ソレイマニの死亡はありがたいことなのである。

 結局、双方のこうした事情から、今回のソレイマニ殺害事件はこれで「手打ち」となった。しかし、イランの経済は今後ますます苦しくなる。次期大統領候補がいなくなって喜んでいる現政権も、国内経済が自転車操業なのは変わらないし、今後の国民の不満の高まりにどう対処するのか、頭が痛いことは変わらないだろう。

 アメリカがイランを植民地化したいという思いは今後もまったく変わらないのであるから、イラン政府はソレイマニがいなくなって喜んでいる場合ではない。アメリカがイランに対して全面戦争を仕掛けないのは、今がその時期でないからに過ぎない。時期が来たら、アメリカは今回の攻撃以上のことを実行するはずである。

 

3.戦争の下準備としての経済制裁

 経済制裁は全面戦争の前触れと言われている。実際、日本とアメリカによる太平洋戦争も、アメリカの日本に対する経済制裁(石油の輸出停止)から始まった。大日本帝国は、石油の8割をアメリカから輸入していたが、1941年8月、アメリカは石油の対日輸出を全面停止した。

 この時、日本の石油備蓄は平時で3年弱、戦時で1年半しかもたないと言われていた。つまり、日本はアメリカの要求を全面的に受け入れ、石油の輸出を再開してもらうか、1年半の短期決戦をするかという選択を迫られることとなった。結局、早く決断しなければ備蓄は減っていく一方だという焦りから、南方に進出して石油資源を獲得しながらアメリカと戦争をするという見込み発車の開戦となってしまった。

 結果は誰もが知っている通り、日本の惨敗となった。この時のアメリカは日本と全面戦争をするという意欲に満ちていた。日本はまんまとアメリカの作戦にのってしまったわけだ。では、この時のアメリカの経済制裁と、現在のイランに対する経済制裁は同じものと考えてよいだろうか。答えは、同じ面もあるが違う面もあるというものだ。

 同じ面というのは、アメリカがイランを植民地支配したいということである。戦前のアメリカは、来たる米ソ冷戦をにらみ、日本という太平洋の盾を手に入れることを切望していた。そしてアメリカは戦争に勝ち、日本を植民地化することで、軍事的目的を達成しただけでなく、莫大な経済的利益を上げた。日本人はアメリカの資本家を太らせるために遮二無二働かされ、これからはさらに搾り取られる予定である。簡単に言えば、アメリカからすれば、イランも日本のような国になって欲しいのである。

 違う面というのは、今の中東情勢は太平洋戦争前夜のように、アメリカがすぐにでも開戦したいという状況ではないことである。前回述べたように、イランには抑止力があり、それが国外のイラン同盟軍である。今開戦すれば、レバノンヒズボライスラエルになだれ込んで来るし、サウジアラビアはイラン軍とイエメンにいるフーシに挟み撃ちにあう。この状況で、アメリカが容易に開戦するわけにはいかない。

 それゆえ、今のところアメリカは開戦ではなく、イランの弱体化を狙っているのである。つまり、イラン国内の不満を拡大させ、内部分裂を促進したいというわけだ。それが、一連の経済制裁の目的である。現在のイランは、大日本帝国と違い、一枚岩からは程遠い。イラン国内には現政権に対する不満がたまっている。アメリカはその不満を増幅させることで、イランを内側から解体したいのである。

第四十四回 ソレイマニ殺害、その意味

0.年明け早々の大ニュース

 前回までは、人間がどのような心理的なプロセスを経て奴隷になっていくか、その問題について考えてきた。今回もその続きについて考察していく予定であったが、2020年の年頭に世界を驚かせる大ニュースが飛び込んできたので、予定を変更して、今回はそれについて述べていきたい。

 

1.司令官を殺したのはトランプか

 ガーセム・ソレイマニ(Qasem Soleimani 1957年3月11日- 2020年1月3日)は、イランの軍人であり、革命防衛隊の少将である。2020年1月3日、米軍による軍事用ドローンの攻撃を受け、ソレイマニ少将を含むイランの革命防衛隊関係者8名が死亡した(バグダード国際空港攻撃事件)。

 この件については世界中のメディアが大ニュースとして報じているし、日本においても大手メディアにより報道されている。しかし、多くの日本人は、いつもの不安定な中東情勢のニュースの一つに過ぎないと考え、それほど深刻には思わないかもしれない。しかし、事態は深刻なものである。

 というのも、ソレイマニ殺害は、対イラン強硬派のアメリカ人からすれば悲願であったが、実行するにはあまりにも危険性が高いため、ブッシュ政権においても、オバマ政権においても、プランはあっても実行には移されなかったからだ。トランプ政権における驚きの政策については、第九回ブログで取り上げたが、それに続く驚きの事件が起きたわけである。

 エルサレムに対する首都の認定やイラン核合意離脱もそうであるが、トランプ政権はそれまでのアメリカ政府が決して実行しなかったことを、いとも簡単に実行してしまう。まるで、その危険性についてトランプが何も知らないかのようである。このような大胆に見える彼の行動が、「トランプは何をするかわからない」というエキセントリックな印象となって、世界に広まっている。しかし、それは単なる「印象操作」ではなかろうか。

 というのも、トランプの後ろにはヘンリー・キッシンジャー(1923-)がいるからだ。つまり、トランプが自分の思いつきで、好き勝手に政策を実行できるわけがない。キッシンジャーは、このブログの読者はよくご存知のように、もともとはユダヤ系のドイツ人であり、ロックフェラー家の番頭であり、CFR(Council on Foreign Relations外交問題評議会)の幹部である。つまり、トランプのような単なる「米国大統領」とはポジションが異なる。

 キッシンジャークラスの大物からすれば、アメリカの大統領という役職は手下にすぎない。そういった力関係から考えると、トランプが好き勝手に軍事作戦を実行し、イランのソレイマニという重要人物を殺したというストーリーは、あまりにも荒唐無稽である。つまり、トランプは「上」からの命令で作戦を実行したのだと考える方が論理的である。

 今回の事件は、世界のシーア派イスラム教徒の怒りを焚きつけるために行われたのではないか。おそらく、ブッシュ政権オバマ政権においては「まだ早い」ということでGOサインが出なかったのであろうが、トランプ政権ではついにGOサインが出たのであろう。つまり、中東の火種、混乱を本格化させるというシナリオである。

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D.Trunp, H.Kissinger and M.Trunp, 2007

2.日本とはまったく異なる軍隊組織

 日本人からすれば、ソレイマニ将軍は国際的に重要な人物には見えない。おそらく、今回の死亡によってはじめてその名前を知ったという日本人がほとんどであろう。しかし、ソレイマニの中東における影響力は非常に大きなものがある。それゆえ、日本では大したニュースでなくても、欧米では大ニュースとなっているのだ。

 日本人にとって分かりにくいのが、イランなどのイスラム軍事組織の構造である。日本人にとっての軍事的な常識と、それは非常に異なる。日本人にとって、軍隊とは国が持っているものであり、例えば日本の自衛隊には日本人しかいない。しかし、イランという宗教国家においては、イラン国外のシーア派軍事組織も、ある種、イラン軍のようなものなのであり、イラン人以外のイラン軍が存在するのだ。

 つまり、イラン軍は複数の国にまたがって存在する。そして、ある意味そうした国外の軍隊が、イランという国の防衛戦略にとっての中核である。例えば、ヒズボラ(Hizballah)という組織があるが、これはアラビア語では「神の党」という意味である。つまり、政党である。しかし、日本人にとってはわかりにくいかもしれないが、政党というものは、あちらでは武装しているのが当たり前である。

 日本では自民党共産党立憲民主党武装しているというのは考えられない。しかし、もともと政治組織と軍事力は一心同体のものであり、日本でも江戸幕府という政府は、徳川軍という軍事組織兼政治団体によって運営された。現在でも、例えば中国共産党は党の軍隊を持っており、それが人民解放軍である。勘違いされやすいが、あれは中国という国家の軍隊ではなく、党の軍隊である。ナチスの軍隊も同様である。

 イランの場合には、陸海空のイランの国軍が存在するが、革命防衛隊というそれとは別の組織が存在する。これはアーヤトッラールーホッラー・ホメイニー(Āyatollāh Rūhollāh Khomeinī 1902年9月24日-1989年6月3日)が1979年に創設した組織であり、軍隊のみならず多数の系列企業(建設業、不動産業や石油業など)を持つ一大勢力である。

 この革命防衛隊は約12万人の組織であるが、陸海空の軍隊以外に、「コッズ部隊(Quds Force ゴドス部隊、クドス部隊、クッズ部隊)」と呼ばれる特殊部隊や、バスィージ(Basij)と呼ばれる民兵組織がある。バスィージには婦人部もあり、彼女たちは軍事活動の他に啓蒙、出版、慈善活動などに携わっている。この民兵組織には、普段は会社などで働く一般市民も含まれているため、戦時には約100万の動員力を持つと言われている。つまり、革命防衛隊は平時には12万の組織とみなされているが、戦時にはその規模が10倍になりえるのである。

 この革命防衛隊における英雄が、ソレイマニ将軍であった。そのため、彼の死はイランのみならず、周辺諸国に住むシーア派の人々の怒りを煽るものである。また、その殺し方も反感を煽るものであった。米軍がソレイマニ暗殺のために用いたドローンはMQ-9 リーパー(Reaper)であり、訳せば「死神」である。ドローンと聞くと、多くの日本人はおもちゃの飛行機を思い浮かべるかもしれないが、軍事用のドローンは全長8メートルの巨大なものであり、その姿も異様である。

 

イランが撃墜した米軍の無人機、その「空飛ぶ監視塔」の恐るべき能力

https://wired.jp/2019/06/24/iran-global-hawk-drone-surveillance/

 

 人間が自らの危険をおかして戦いに挑むという騎士道精神による戦争は、昔のものとなりつつある。現在は、遠隔操作によって安全な部屋で殺人が行われる。狙撃手はサラリーマンのように殺人部屋に通勤し、任務を遂行し、帰りはスーパーでお惣菜を買って、家族で夕食をとる。この異様な戦争は、狙撃手の精神を蝕み、殺された側の人々の怒りを焚きつけるものである。

 

軍用ドローン操縦者、ボーナス1500万円でニンジン… パイロット精神蝕む2つの問題

https://www.sankei.com/west/news/160119/wst1601190007-n1.html

 

3.国民的英雄を失う

 革命防衛隊は、このようにイラン国内において、軍事のみならず宗教や生活においても重要な組織である。それは、軍事のみならず多数の系列企業を持っており、婦人会も含んでいる。また、ホメイニーがつくった組織であるという宗教的な威光もある。現在はハメネイ最高指導者が革命防衛隊の最高司令官である。つまり、単なる軍隊ではなく会社でもあり、生活の足場でもあり、宗教の中枢でもある。

 その中でも、コッズ部隊(Quds Force)は人々の尊敬を集める部隊である。なぜなら、コッズ部隊は外国におけるイラン軍の実質的な最高責任者であるからである。この外国軍隊が、イランの国防における生命線である。というのも、イラン国軍だけでは人口8000万の国土を守る能力しかない。イランが国内に閉じこもって防衛に徹しても、巨大な軍事力を持つアメリカや、核兵器を持つイスラエルからすれば恐れるに足りない。

 しかしイランには、レバノンヒズボラ(Hizballah)、パレスチナハマスHamas)、イラクの多数のシーア派組織、イエメンのフーシ(Houthis)といった政党(つまり武装勢力)が存在し、彼らと協力しながら挟み撃ち作戦を行えば、かなり大きな軍事力となる。

 例えば、イラン単独ならイスラエルからすればまったく恐くない。イスラエルから200発の核ミサイルをイランに撃ち込めば、イランは一瞬にして壊滅する。しかし、イスラエルがイランに一発でも核ミサイルを撃ち込めば、レバノンヒズボライスラエルになだれ込んでくる。そうなったら、イスラエルの北部都市はヒズボラの持つ通常兵器で大打撃を受ける。サウジアラビアはイランとイエメンのフーシにより挟み撃ちにあう。アメリカが自らの拠点であるイラクからイランに攻め込んでくる場合には、イラク国内のシーア派の人たちが一斉に蜂起する。つまり、イランにとって国外の味方は国防の生命線なのである。

 こうした国外の味方に対して軍事訓練、指導、資金援助を請け負った集団がコッズ部隊であり、その責任者がソレイマニ少将であった。つまり、イランからすれば、国防の要であり、国民的英雄がドローンで殺されたということになる。最高指導者のハメネイは、3日間の国家的服喪とともに報復を宣言し、ザリフ外相は、「アメリカの国際テロ行為は非常に危険でばかげたものだ」とツイッター上で非難した。ヒズボラ(Hizballah)は、ソレイマニ将軍殺害の責任に対する処罰は、世界中のすべてのレジスタンスの任務であると声明を発表した。

 つまり、ソレイマニ殺害は単に一人の軍人が殺されたという意味にとどまるものではない。それはシーア派の要となる人物を失ったという悲しみであり、シーア派全体の怒りに発展しかねない事件なのである。

 

ソレイマニ司令官殺害と米イラン関係の行方

https://globe.asahi.com/article/13010300