戦争と平和、そして無記

国際政治や歴史、およびその根底にある人類の心のメカニズムについて考察していきます。

第五回 グローバル金融帝国の完成

 民営化という言葉は、一般にはネガティブなイメージのものではない。しかし、実際のところ、民営化というものは恐ろしいものである。国営なら経営母体は国であるが、民営化されれば株式は市場に公開され、資金繰りは銀行を頼るようになる。つまり、国際的な金融システムに組み込まれるのである。商法の規定では、株式の過半数を取れば取締役会を自由に操作して、社長を交代することもできる。つまり、国営の組織も民営化されれば、外国の金融資本が乗っ取ることが可能となのだ。このことは一般大衆にはほとんど知らされないから、民営化という言葉にネガティブなイメージを抱く国民はいつの時代もあまりいない。

 国鉄の民営化、電話の民営化、郵政民営化、そして今後の日本で起こると考えられている水道の民営化。そうなると、日本のインフラのほとんどは民営化されることとなる。その資金を三菱(ロックフェラー系)と三井(ロスチャイルド系)が握れば、日本の国家としての独立というものはほぼない(そうでなくても、もともと日本に国家としての独立はあるのかと言われれば、「ない」としか言いようがないが)。東京電力も、大株主は日本トラスティ・サービス信託銀行日本マスタートラスト信託銀行である。つまり、FRBの運営者と繋がっている(このあたりのことは後日詳述したい)。

 さて、ロシアの共産主義革命は、貴族政に対する労働者の革命と言われているが、実際にはロシアの民営化と言ってもよい。ロマノフ朝のロシアは国営であったが、これを共産化して民営化することが革命の目的であったと言える。明治維新もそうであるが、優秀な若者を国際金融帝国が資金援助して育て、国家を転覆させて民営化するというのがパターンのようだ。

 レーニン(本名ウラジーミル・イリイチ・ウリヤノフ 1870-1924)の父は高名な物理学者であり、母親はドイツ、スウェーデンユダヤの家系であったそうだ。レーニンは幼少から恐ろしく勉強ができ、神童と呼ばれたそうである。つまり、貧しい労働者の団結を訴えた彼は、貧困層とは正反対の金持ちの息子であり、かつ、学業優秀な子どもであった。

 レフ・トロツキー(1879-1940)はウクライナユダヤ系富農の息子であり、彼も幼いころから優秀であった。第一次大戦中、レーニンは亡命先のスイスにいて、トロツキーはニューヨークにいた。この二人に資金を提供した人物が、クーン・ローヴ商会のジェイコブ・シフ(Jacob Schiff 1847年1月10日 - 1920年9月25日)である。英語ではジェイコブ、ドイツ語ではヤーコプ、ヘブライ語ではヤコブである。

 Schiffというドイツ語は、英語ではShipであり、舟であり、ユダヤ系ではよくある名前である。シフ家は、フランクフルトのマイヤー・アムシェル・ロートシルトの時代に、「グリューネシルト(緑の盾)」(Haus zum Grünen Schild)と呼ばれる建物にロスチャイルド家とともに住んでいた家柄であり、クーン・ローヴ商会はロスチャイルドと関係の深い金融業、後にこれがリーマン・ブラザーズとなる。モルガンとともに、アメリカでロスチャイルド系の金融業をやっていたのがシフ家だったわけだ。

 ジェイコブ・シフは、まず、大日本帝国に資金を融通する。日露戦争の資金調達のために欧米をまわり、誰も貸し手がいなくて困っていた高橋是清(1854-1936)にロンドンで会って、日本の戦時国債の購入を提案したのだ。これで日本政府は当時の額で2億ドルを手に入れ、ロシアと戦争することができた。後にシフは、この功績により、勲一等旭日大綬章明治天皇より贈られている。シフは、高橋の長女がアメリカ留学した際にも、ニューヨークで彼女の生活の面倒をみたそうだ。

 第二次大戦後、宮沢喜一が大蔵官僚だった頃、池田勇人のお付としてアメリカに行き、アメリカの政治家や官僚、財界の人たちの集まりに出たそうである。その時、宮沢は、日露戦争前に大日本帝国がクーン・ローヴ商会から借りた金は、あまりにも昔のことであるから、全額返済というのは今さらどうだろうかと言ったそうである。その時、いきなり宮沢を数人の男が囲い込み、宮沢はそれ以上その話ができなくなったそうである。結局、日本政府が日露戦争時の国債を完済し、クーン・ローヴ商会からの借金がなくなるのは、1986年(昭和61年)である。

 日本の近代化は、ロスチャイルド等の国際金融資本を抜きにしては語ることができない。歴史の教科書にそんなことは書いてないが、欧米の金融資本家を抜きにして日本の近代史を語っても、骨組みの抜けた歴史叙述にしかならない。マセソン商会の手引きで長州ファイブ(井上馨、遠藤謹助、山尾庸三、伊藤博文、井上勝)をイギリスに留学させ、その中の一人であった伊藤博文を総理大臣として、大日本帝国政府がつくられる。その後、フランス・ロスチャイルド系の教育を受けた渋沢栄一が、教えの通りに日銀の前身である第一国立銀行をつくる。そして、帝国政府はクーン・ローヴ商会から莫大な金を借りて日露戦争を行い、その後は第一次世界大戦に参加して、戦勝国となる。

 ロスチャイルド日露戦争によってロマノフ朝をたたき、アメリカでFRBをたててから、ロシア革命を起こして、莫大なロマノフの金銀財宝を手に入れる。第一次世界大戦終了後は、ロマノフやハプスブルクといった巨大王朝はなくなり、欧米国家はロスチャイルドを中心とした国際金融グループのもとで民営化された。民営化された中央銀行通貨発行権を持つ、現在のような国家の仕組ができ、政府の意向と関係なくロスチャイルドなどの国際資本家が国家経済、つまりは世界経済を牛耳ることができるようになったのである。