戦争と平和、そして無記

国際政治や歴史、およびその根底にある人類の心のメカニズムについて考察していきます。

第八回 アルバート・パイクの経歴と中央銀行

 アルバート・パイクは興味深い人物である。彼はメイソンの33階級(最高位)まで登り詰めた。アルバート・パイクをGoogle検索すると、フリーメイソンの正装をしたパイクの白黒写真が出てくるが、勲章の胸のところに「33」と確かに書いてある。
 パイクの属したアメリ南部連合軍は、北軍に敗れる。この事実だけ見ると、元将軍であるパイクは、その責任として、死刑になってもおかしくない。そんな彼が南北戦争の後も無罪放免で生き残り、最終的にフリーメイソンの33階級まで昇進し、「黒い教皇」と言われるようになったのはなぜか、この業績の表面だけを見るのでは、まったくわからない。しかも、彼はもともと軍人ではない。
 パイクは幼い頃からとんでもなく学業優秀で、神童であった。15歳でハーバード大学に入学し、その後弁護士となる。不思議なことに、弁護士として、ネイティブ・アメリカンの権利保護のために活動する。彼はその優秀な頭脳で、ネイティブ・アメリカンの言語をマスターし、ネイティブ・アメリカンから信頼を集めたのだそうだ。
 そこで、彼はネイティブ・アメリカンの秘儀に触れたのだろうか。彼は古代の秘儀や東洋の神秘思想にも多大な興味を持つようになる。その後、フリーメイソンの活動をするようになる。優秀な彼はそこで頭角を現し、1859年にアメリカのメイソンの大長官になったそうだ。その後、1861年から南北戦争が始まるが、南部連邦政府からネイティブ・アメリカンの各部族と協定を結ぶ交渉役に任命される。彼がネイティブ・アメリカンの言語や文化に精通し、信頼を得ていることから、そのような役目を与えられたのだろう。
 その後、南部連邦の中で出世し、将軍にまで登り詰めるが、部下のネイティブ・アメリカンの兵士が敵兵の頭の皮をはいだので、責任をとって将軍を辞任したようである。その後、1865年4月9日に南軍は北軍に対して降伏する。彼はリンカーン大統領に恩赦を申請し、逮捕を免れるために、いったんカナダへ逃亡する。
 1865年4月15日、リンカーンは劇場で暗殺され、副大統領のアンドリュー・ジョンソンが大統領に昇格する。フリーメイソンのジョンソン新大統領は、前任のリンカーンに対して出されていたパイクの恩赦申請を同年8月に認めた。申請者のパイクも許可するジョンソンも、同じフリーメイソンなのだから、この申請は認められるに決まっている。というか、もしジョンソンがこの申請を却下していたら、彼は反逆者として殺されていたかもしれない。12月に、パイクはカナダからアメリカに帰ってくる。結局、無罪放免である。
 その後、パイクは「同じ穴」とも言えるイタリアのマッツィーニに、あのような手紙を書く(第二回ブログ参照)。パイクの時代には、ソビエト連邦も、ナチスドイツも、イスラエルも存在しない。しかし、彼の目にはそれらが見えていたようである。彼は、「第三次世界大戦は、シオニストとアラブ人とのあいだに、イルミナティ・エージェントが引き起こす、意見の相違によって起こる」と言っている。昨今の状況から見ると、第三次世界大戦犬猿の仲であるイスラエルとイランから起こりそうである。トランプがイルミナティ・エージェントなのかはわからないが、そうだとしても不思議はないだろう。
 第三次世界大戦について、様々なことが本やインターネットで言われている。この点、私の注目ポイントは中央銀行である。イランの中央銀行はまだ民営化されていない。おとなりのイラク中央銀行フセイン時代には国営であったが、アメリカ軍がフセイン政権を滅ぼしたことにより、その後民営化されている。
 イランの左側に位置するイラクアメリカ軍により潰され、民営化された。イランの右側のアフガニスタンも、アメリカ軍により潰され民営化された。民営化を拒んだアサド政権のシリアは、内戦状態である。となると、残るはイランである。イランとイスラエルは敵同士であり、イスラエル中央銀行アメリカのFRB(Federal Reserve System 連邦準備制度)と一心同体である。
 普通の感覚からすると、外国人が中央銀行の幹部になるということは考えられないことであろう。例えば、日銀の総裁をアメリカ人がやるということは、日本の国民感情からして、許されることではない。しかし、国際金融資本勢力に中央銀行が乗っ取られている場合には、ある国の中央銀行の幹部が、別の国の中央銀行の幹部になることはあり得る。国が違うとは言っても、それは同じグループ内での人事異動にすぎない。金儲け共同体からすれば、国籍の違いというものはそれほど重要なものではない。
 例えば、スタンレー・フィッシャー(1943-)という高名な経済学者がいる。彼はイスラエルアメリカの二つの国籍を持っており、マサチューセッツ工科大学で教鞭をとった後に、世界銀行のチーフ・エコノミストをやっている。その後、IMF国際通貨基金)の筆頭副専務理事となり、シティバンクの副会長になり、さらにその後はイスラエル中央銀行の総裁になっている。退任後、オバマ政権時代に、アメリFRB副議長になっている。
こういう人事異動をRevolving Door(回転ドア)と言うが、要は「同じ穴」の中で異動しているわけである。世界銀行IMFシティバンクイスラエル銀行、FRBといった組織は、形式的には完全に別組織である。世界銀行IMFは国際機関であり、シティバンクアメリカの私企業であり、イスラエル銀行はイスラエル中央銀行FRBアメリカの中央銀行である。
 しかし、それらは表の顔としては別物であるが、胴体としては同じである。八岐大蛇(ヤマタノオロチ)の顔が八つあっても、胴体は一つである。これは、東京電力東京大学原子力研究所、経済産業省がまったくの別組織でありながら「同じ穴」であるのと同じである。それゆえ、東京電力の社員が退職後に経産省の官僚になったり、東大の原子力工学の教授になったりすることは、「転職」ではなく、「人事異動」なのである。
 こうしたことから考えると、イランの中央銀行ユダヤ系経済人による金融グループから独立している。これは巨大金融グループからすると許し難いことである。また、8000万人の人口と世界三位の原油生産力を持つイランは、それを狙う肉食獣からすれば、魅力に溢れており、非常においしそうな獲物である。それゆえ、このままイラン政府が自らの中央銀行を外国資本に明け渡さずに国営している限り、永続的なイランの平和というものはかなり難しそうである。そう考えると、パイクの言うとおり、第三次世界大戦は中東で起こりそうである。