戦争と平和、そして無記

国際政治や歴史、およびその根底にある人類の心のメカニズムについて考察していきます。

第十三回 民営化勢力の圧力と戦争

 トランプは最初、アメリカファーストで自国中心主義外交だと言われていた。つまり、他国のことには干渉せず、ひたすら自国の経済ばかりに目を向ける政権であると。しかし、イスラエルの右派に対する積極的な関わりは、アメリカ史上なかったほどのものであり、イランに対しては過去のどの政権よりも遥かに強硬的である。

 また、トランプの行動は、イギリスやヨーロッパと協調しているようにも見えない。イラン核合意(JCPOA)の離脱はヨーロッパの意向とは反対の政策であるし、アメリカはヨーロッパであろうとどこであろうと、イランと原油取引をしたら制裁を課すと宣言をしている。また、中国のIT企業、Huaweiの5Gテクノロジーについて、アメリカはヨーロッパにも使わないようにと言っている。これに対して、イギリスも含めヨーロッパ諸国は、このアメリカ政府の指示に、まったく従うつもりがない。

 フランスのマクロン大統領は、「フランスはアメリカと奴隷外交はしない」とはっきり言っている。イギリスとフランスは、NATOとは別のヨーロッパ軍を創設しようと考えている。これまではNATOとしてアメリカとヨーロッパは軍事的に一心同体であった。しかし、これからはアメリカ軍と別れて、ヨーロッパ独自の軍隊を構築していこうと英仏は考えているのだ。

 こう見ると、今回の中東危機は、ブッシュ父子の時代の湾岸戦争とはかなり違う様子である。アメリカとヨーロッパは協調しておらず、アメリカはロシアや中国とも対立している。そして、アメリカファーストで経済的に保護主義だと言いながら、アメリカ経済の保護とどう繋がるのかよくわからないイスラエル右派の支援をひたすらしている。これは、イランのみでなく、イスラエルの穏健派の市民からしても、非常に迷惑な話である。

 日本のマスコミは、相変わらず、「トランプが突然思いつきで何をするかわからない」と報道している。しかし、トランプがアメリカの大統領として、自分の考えのみでこういったことを決めているとは、とても思えない。これまで不動産会社の社長とテレビの司会者しかしたことがなかった男が、世界情勢においてこのような決断を下せるとは思えない。私には、トランプに指示している人間がいるように思える。

 陰にあるのは、やはり国際的な金融資本、その民営化の力であろう。2001年の時点で、中央銀行がグローバル金融勢力の影響下にない国は、アフガニスタンイラク、イラン、北朝鮮パキスタンスーダンリビア、シリア、キューバの9カ国だったと見られている。1997年、クリントン政権のオルブライト国務長官が議会演説で「ならず者国家」、つまりテロ国家として非難した国々は、アフガニスタンイラク、イラン、北朝鮮パキスタンスーダンリビア、シリア、キューバであり、上記9カ国とまったく同じである。簡単に言えば、「ならず者」とは、自国の財政をゴールドマン・サックスなどのユダヤ系金融業者に開放していない国家ということである。

 その後、アフガニスタンイラクは、アメリカ軍の侵攻により国家が転覆したので、アフガニスタン中央銀行は2002年に、イラク中央銀行は2003年に民営化された。スーダンは内戦により油田をかかえる南スーダンが独立したので、南スーダン中央銀行は民営化された。北スーダンはこれによって資源がなくなったので、おそらくグローバル資本勢力から見ても魅力的な獲物ではないだろう。リビアカダフィが殺され、中央銀行が民営化された。

 2013年、米国務省テロ支援国家として指定していた国は、キューバ、イラン、シリア、スーダンの四カ国である(北朝鮮は2008年にテロ国家指定からはずれる)。テロ国家とは、簡単に言えば、自国の政府が通貨を発行している国である。そういう国々の視点からすれば、無理やり中央銀行の民営化をせまってくるアメリカは、立派なテロ国家に見えるであろう。

 こうした動きの中で、2010年にアイスランドで、2013年にはハンガリーで、中央銀行が国民の手に取り戻されるという奇跡的なことが起きたようだ。しかし、これはヨーロッパの小さな国であったから起きたことであろう。ロシアのプーチンが2017年、ロシア中央銀行からロスチャイルドを追い出したというネットの記述があるが、真偽のほどはわからない。

 パキスタンについてはよくわからなかったが、2019年5月4日、パキスタンのカーン政権は中央銀行のバジワ総裁を解任し、IMFエコノミストであるレザ・バキルを総裁に据えたというニュース記事を私は読んだ。バキルは元IMFエジプト所長で世界銀行の勤務経験があるとのことだから、パキスタン中央銀行は国際資本家勢力に乗っ取られたのも同然ではなかろうか。なお、パキスタン政府はIMFに80億ドルの財政支援を要請しているとのことだから、今後はIMFの言いなりにならざるを得ない。どうやらパキスタン中央銀行は完全に民営化されたようだ。

 となると、世界政府が目論むのは、北朝鮮とイランの中央銀行の民営化ではなかろうか。トランプ政権となって、それまで北朝鮮に関心を示さなかったアメリカが、急に北朝鮮に接近した。おそらく、世界政府の目的は北朝鮮の非核化ではなく、中央銀行の民営化であろう。北朝鮮の地中には相当量のレアアースが眠っていると言われているから、それも魅力的だ。パソコンやスマートフォンなどの民間機器のみならず、軍事部品にもレアアースは必要である。

 イランは世界三位の産油国(一位サウジ、二位カナダ、四位イラク)であり、約8000万の人口を持つ大国である。ここの石油をアメリカがいただけば、ロックフェラーは世界四大産油国の全てを配下におさめることになる。また、人口8000万の国は、増やせば簡単に1億となり、日本と同じ程度の市場規模となる。しかも、日本と違って高齢化した国ではなく、若者が多く、今後の人口増加も見込める国である。そこの中央銀行をいただくことは、非常に魅力的である。

 おそらく、核開発というのは、世界政府からするとどうでもいいのであろう。アメリカもイスラエルも、イランのことを非民主主義国家、人権無視のイスラム国家、男尊女卑国家と言って非難する。しかし、アメリカが最も親密につきあうサウジアラビアは民主主義から程遠い王制であり、人権無視の男尊女卑国家である。イスラエルも形式的には民主主義国家であるが、ユダヤ人以外の人権を限定する国家である以上、人権無視国家であることには変わりない。それゆえ、イランも人権無視国家体制である現政権を維持しつつも、もし中央銀行ユダヤ系資本にあけわたすならば、即刻国際社会での孤立は解消されるのではなかろうか。本当の目的は、民主主義でも、人権でも、宗教でもなく、金なのだから。

 北朝鮮もそうであろう。推測だが、トランプが金正恩に直接会って言ったことは、そういうことではなかったか。中央銀行を民営化すれば、あなたの体制は保証しようと言ったのではないか。もしそうなら、トランプは民営化勢力のエージェントとして働いているということになる。

 もちろん、これは私の推測に過ぎない。しかし、ブルボン王朝も、ロマノフ王朝も、ハプスブルク家も、リンカーンケネディも、フセインカダフィムバラクもベン=アリーも、皆、通貨発行権を手放したなら助かったような気がする。シリアの内戦も、中央銀行の民営化をアサドが承諾すれば終わるような気がするのだ。

 結局、金の問題なのだ。イランの首脳もおそらくそれをわかっているだろう。戦争とは宗教対立でもなければ民族対立でもなく、利権の問題なのだ。第二次大戦前、中国大陸の麻薬などの利権を関東軍が独占するのではなく、アメリカと折半していたら、太平洋戦争は起こっただろうか。それと同じく、イランの中央銀行を民営化して、IMF関連の人材をそこに入れるなら、現在の中東緊迫情勢はガラッと変わり、戦争は起きないだろう。それはイランの首脳もわかっている。しかし、イランの中央銀行ユダヤ人を入れるならば、彼らはイラン国内の民族派の右翼に殺されることも十分わかっている。それゆえ、ロウハニ大統領は「たとえ空爆されてもあきらめない」と言っている。

 現在のイランと戦前の日本は次の三つの点で似ている。一つ目は、民族主義国粋主義、国家優先の政治体制であり、国民の人権を重んじない国家体制であること。二つ目は、強力な経済制裁を受けているが、自国の領土内にエネルギー資源などの巨大利権を持っていること。現在のイランでは原油天然ガスがあり、戦前の日本では中国大陸の麻薬と東南アジアの石油があった。三つめは、強大な軍事力を持っており、戦争に対してそれなりの自信を持っていること。アメリカに勝てるとは戦前の日本も思ってはいなかったが、それなりに太平洋で大暴れして、途中でアメリカが疲弊し、モチベーションが下がることによって講和に持ち込めるだろうという自信は持っていた。

 この三つの特徴が示すことは、相手の要求をのんで戦争を避けようとするよりも、やられるのならやり返そうという思考になるということである。それが、「たとえ空爆されてもあきらめない」という発言としてあらわれる。これは、ロウハニ大統領がそう思っているというよりも、そういう発言をしなければ彼の命も保障されないだろうということである。開戦前の日本において、何が何でも戦争を避けようと当時の政権が考え、ハル・ノートの要求を全部のんでいたら、当時の政権中枢の人物は強硬右派によって殺されただろう。

 もちろん、そうは言っても、常識的に考えたら、現在のような中東の緊迫状態においても、戦争が起きるとは考えにくい。起きてしまえば、イランもイスラエルも全面崩壊してしまう。イスラエルにおいても、過半数の国民は戦争を望まないし、イランではおそらく8割の国民が戦争を望んでいないだろう。アメリカにおいても6割の国民が先制攻撃に反対であることは前回のブログで紹介した世論調査で明らかである。つまり、どこの国であろうと、国民の大半は戦争に反対なのだ。

 しかし、様々な情報をもとに考えると、次のことは明確である。それは、イランの中央銀行があのままシーア派イスラム教徒に独占されているという状態は、国際資本勢力は望んでいないということである。普通に考えれば、イランとイスラエルの間で戦争が起こることは考えにくい。どこの国でも現段階では戦争を望まない人が過半数であり、もし起きてしまったらその被害は途方もないものだからだ。しかし、ウェスリー・クラークが見た戦争計画のメモのとおりに、戦争はいつか起きるかもしれない。戦争が起きることはいろいろな要因から考えにくいが、あのままイランで現行の国家体制が維持され、イランの中央銀行が今後何十年も民営化されないということは、もっと考えにくいからである。

第十二回 イランとイスラエルが戦争になったらどうなるか

  アメリカやロシアの介入が仮にまったくなく、イランとイスラエルの二国間だけで戦争になったとしても、それは中東全体の大戦争へと発展する。イスラエルは200発の核ミサイルを持っているので、米軍の介入がなくとも、イランを崩壊させる自信を持っているであろう。

 仮にイランのブーシェフル核施設が、イスラエルの通常ミサイルで破壊されたら、1000人のイラン人が即死し、その後、放射性物質によって10万人がガンで死ぬと言われている。イスラエルが核ミサイルを一切使わず、通常兵器のみでイランの核施設を破壊しても、中東に相当量の放射性物質がばら撒かれると思われる。その影響は、イランだけにとどまらず、周辺にも当然およぶ。

 普通に考えると、イスラエルとイランがいくら睨み合っても、両国が戦争になることは考えにくい。まず、イランが先制攻撃をすることは常識的には考えられない。イスラエルが200発の核ミサイルを持っていることも理由だが、自国の原子力施設や原油施設を破壊されることを考慮しても、イランが自ら戦争をしかけることは考えられない。

 また、イスラエルがイランに対して先制攻撃することも、通常の感覚からすると考えにくい。イランにはイラン国内の軍隊のみならず、連携する国外の武装組織がある。パレスチナハマス、ヨルダンやシリアにいるヒズボラレバノンの西部にいるフーシがそうであり、イラクにもシーア派の人達が大勢いる。イランの正規軍のみでなく、それらの連携勢力も含めて全てがイスラエルに攻め込んだら、イスラエルは持ちこたえることができないだろう。核兵器がなくとも、通常兵器のみで、狭いイスラエルはあっというまに壊滅する可能性がある。

 イランは核ミサイルを現状では持っていないと考えられるが、通常ミサイルは多量に持っている。それでイスラエルの都市を攻撃することは可能である。また、レバノンにいるヒズボラは、イスラエルに4万発の通常ミサイルを撃てる能力があると言われている。そうなると、その4万発の通常ミサイルのみでも、イスラエルの北部の都市は大打撃を受けると考えられる。

 アメリカも、イランと戦争することは考えにくい。アメリカ軍は二度のイラク戦争イラク軍を圧倒したが、イラン軍はイラク軍とはレベルが違う。イランには8000万の人口があり、国力、軍隊、兵器の性能が、まったく違うのだ。アメリカがイラクに圧勝したからといって、イランにもそれが通用するということはありえない。仮に、アメリカが圧倒的な武力で攻め込んでも、ヒズボラなどのイラン国外勢力がイスラエルに攻め込んだら、イスラエルはあっというまに危機に瀕する。なので、普通に考えれば、いくら中東情勢が緊迫しても、イランとイスラエルアメリカが戦争することは考えにくい。

 これまで、中東情勢は何度も緊迫し、中東戦争は1948年の第一次を皮切りに四回起きた。その他にもインティファーダ、ガザ攻撃、レバノン内戦、イラン・イラク戦争など、数え切れないほどの紛争が起きている。しかし、中東全体を舞台とする大戦争はまだ起きていない。大戦争に発展する可能性を持つイランとイスラエルの本気の殴り合いは、常識的にはありえないように思える。しかし、問題はイスラエルの国是である。日本の国是は国体の護持(天皇制の維持)であるが、イスラエルの場合は、中東で唯一の核保有国はイスラエルのみであるということである(日本の場合、国是は国民に隠されているが、イスラエルの場合はおおやけにされている)。

 イスラエルは、自分が暴力で先住民を追い払って土地を奪い、その地に建国をしたということを自覚しているから、まわりに恨まれていることをよく知っている。だから、自分だけ核兵器という圧倒的な力を持ち、他国がそれを持たないという状況でないと、国民の心理として、枕を高くして眠ることができないのだ。

 これはアメリカの銃社会と同じ構図である。なぜアメリカの白人、特に南部の白人がライフルをかかえていないと枕を高くして眠ることができないのかと言えば、彼らが暴力で先住民や黒人を虐げたからである。自分が人を虐げると、他人のことも自分と同じ人間と見るので、自分がやったことを相手にやられるのではないかと恐くてしょうがない。だから、先住民を撃ち殺し、黒人を迫害した白人は、他人が恐いのである。

 恐らく、イスラエルも、自分がやったことは他人も自分に対してやる可能性は十分にあると思うだろう。自分が他人に奇襲をしかけるなら、他人も自分に奇襲をしかけてくるかもしれない。だから、自国だけ圧倒的な武力を持ち、他国は核兵器保有しないということでないと、恐くて枕を高くして眠ることができないのだ。

 そのため、中東で核兵器保有できるのは唯一イスラエルのみというのが、イスラエルの国是となっている。だから、中東で最も熱い発火点はイスラエルと言える。もちろん、イスラエル国内にも強硬派と穏健派がおり、一枚岩ではない。いくらネタニヤフ政権が強硬派でも、世論を無視して勝手に他国に対して先制攻撃をすることはできない。

 しかし、これまでの大戦は、複雑な世論や常識的な考えを覆して起ってきた。なので、アルバート・パイクの言うように、イルミナティエージェントが効果的に動けば、複雑で多様な意見を持った世論があっというまに一枚岩になり、戦争が起こるということもありうる。

 この点、アメリカの世論は現在の緊迫した中東情勢について、どのように思っているのだろうか。2019年5月21日、ロイター通信の発表によると次のようになっている。ロイター通信が2019年5月17日~20日、1007人のアメリカ人を対象にした世論調査によると、51%がイランと数年内に戦争になると予想している。日本国民は、アメリカとイランが戦争になり、それに日本の自衛隊も巻き込まれることを想定している人の数はまだ少ないと言えるだろう。しかし、アメリカではどうやら過半数の人がイランとの戦争を将来起きる現実的なものと思っているようだ。

 ただし、米軍によるイランに対する先制攻撃に対して、賛成は12%、反対は60%であり、アメリカ国民のほとんどは先制攻撃に反対である。ただ、12%賛成の人がいるというのは恐るべきことだと言える。日本人の国民感情からすれば、イランに敵対的な人はほとんどいないだろうが、アメリカではそうではないということである。1割以上の人が、米軍が先に攻撃すべきだと思っているのである。

 ただ、アメリカの先制攻撃はアメリカ国民のほとんどが反対である。つまり、アメリカ国民の過半数も戦争を望んでいないのだ。では、イランが先制攻撃をしてきた場合はどうだろうか。回答は、空爆による限定作戦が40%、地上部隊派遣による全面侵攻が39%であり、あわせて報復に賛成という人が80%となった。これは、ちょっとした小競り合いがイラン国内への空爆へと発展することを意味している。

 これを見ると、相変わらずアメリカの世論は真珠湾時代と変わっていないことがわかる。先制攻撃されるかどうかが問題なのだ。しかし、今も昔も戦争においては、相手が先制攻撃をしてきたという事実は、いくらでも捏造できるのである。例えば、ベトナム戦争の発端となったトンキン湾事件がそうである。

 1964年8月、北ベトナムトンキン湾で、北ベトナム軍の哨戒艇が米軍の駆逐艦に2発の魚雷を発射し、北ベトナム軍が米軍に先制攻撃をしたことを理由に、ベトナム戦争がはじまった。アメリカの議会は上院で88対2、下院で416対0という圧倒的多数でベトナムへの空爆に賛成となった。しかし、1971年6月、ニューヨーク・タイムズのニール・シーハン記者が7000頁におよぶ機密文書(ペンタゴン・ペーパーズ)を入手し、トンキン湾事件アメリカにより仕組まれたものであることが暴露された。その後、2001年11月にジョンソン大統領とマクナマラ国防長官の電話会談の内容も公開され、トンキン湾事件ベトナム戦争の口実として使われたことが明るみになった。2005年には機密文書が一般公開となった。

 結局のところ、アメリカの世論はいつの時代でも、先制攻撃されたら百倍以上にしてお返しするという世論である。通常なら戦争反対の国民も、先制攻撃されたとなるとガラッと変わる。戦争をしたい人からすれば、これは利用できる。アメリカ政府としては先制攻撃さえ捏造できれば、難なく開戦できるのだ。後でそれが捏造であったことがわかっても、ほとんど問題とはならない。イラク戦争で開戦の大義となった大量破壊兵器が実はなかったことが後で判明しても、当時戦争を遂行したブッシュ大統領やチェイニー副大統領が死刑になるわけではない。イラク戦争の死者は約50万人と言われている。

 ウソによって戦争がはじまってしまえば、後でそれがウソであることがわかっても、何の罪にもならない。この構造はいつでも変わらず、いつでも使える手段なので、相変わらず使われるのだ。イランにせよ、イスラエルにせよ、アメリカにせよ、戦争がはじまる前の状態では、国民のほとんどが戦争反対である。しかし、先制攻撃されれば、そういう平和的な国民の態度がガラッと変わり、大半が報復に賛成となる。それぞれの国が「相手が先にやったのだ」と主張し、国民はそれを信じてしまう。先制攻撃はいくらでも捏造できるという歴史の常識が、国民の間で共有されていないのだ。

 今のところの世界の雰囲気、特に日本の雰囲気は、まったく第三次世界大戦という雰囲気ではない。トランプ大統領と仲がいい安倍首相には、アメリカとイランとの間の仲介役が期待されているという脳天気な報道がされている。テレビや新聞のニュースは、それぞれの国の国是や利権、戦争になったら誰が儲かるのかといった点については絶対に言わない。それゆえ、脳天気な報道の中で暮らすこの国の雰囲気は極めて平和で、ノホホンとしたものである。

 しかし、情勢はあっというまに変わる。現に、5月になってから、あっというまに中東情勢が緊迫した。常識的に考えれば、いくら中東情勢が緊迫しても、イランとイスラエルが戦火を交えること、つまり中東大戦争が起こるとは考えにくい。しかし、これから先は、そうした常識的な考えがどこまで保全されるのかわからない。

第十一回 イランが核ミサイルを持つことの意味

 アメリカは7カ国の核合意を離脱した後、イランに対して経済制裁を続けており、イランと原油取引をした国や企業に対しても制裁を加えるとしている。これはあらゆる国に対して、イラン中央銀行との原油取引を禁じるという制裁である。イランの原油取引は全て、イラン中央銀行の決済であるから、イランと諸外国との間で原油の取引がなければ、イラン中央銀行への入金はガクンと減るわけだ。
 では、アメリカの制裁とは具体的にどのようなものか。例えば、日本の商社がイランから原油を買ったとする。そうなると、アメリカ政府は制裁として、その日本の商社のアメリカにおける銀行口座を凍結する。凍結されれば、その商社はアメリカで経済活動ができなくなり、事業が実質上破綻する。それゆえ、イランと原油取引をする商社はアメリカで商業活動ができなくなることを恐れ、それまでイランと頻繁に原油の取引を行っていた会社も、今では1リットルも取引できないわけだ。
 イラン政府が60日の猶予について発表したのは5月8日であるから、7月8日までに英、仏、独、露、中や、日、印などの国がアメリカに働きかけて、こうした強硬路線の考えを改めさせないと、イランは自衛措置として本格的に核開発をすると言っているわけである。
 こうした状況下で、2019年5月23日、インドのハルシュ・ヴァルダン・シュリングラ駐米大使が、インドはイラン産原油の輸入を完全に停止すると発表した。インドは4月に100万トンの原油をイランから輸入して以来、イラン産原油を一切輸入していないと大使は述べた。つまり、インドはイランの求めているアメリカへの「働きかけ」を早々に諦め、アメリカの圧力に屈したようである。
 では日本はどうだろう。おそらく、日本はアメリカに従うことしか考えていない。なので、インドと同様、イランからの原油を輸入することはないし、アメリカに考えをあらためるよう働きかけることもないだろう。日本はイランに対して働きかけるだろうが、その際に日本政府がイランに言うことは、「アメリカに逆らわない方が身のためだ」ということだけであろう。日本は「緊張緩和を求める」とか、「両国の対話を促すよう働きかける」といった内容空疎な表明はするだろうが、アメリカに考えをあらためさせるような活動は一切しないはずである。そうなると、残るは英、仏、独、露、中がどうするかだ。
 ただ、こうした状況でも、一般の日本人はおそらくピンとこないだろう。そのことが一体、なぜ第三次世界大戦へと発展する可能性があるのか。核ミサイルはアメリカやロシア、中国、イギリス、フランスだけでなく、今ではイスラエル、インド、パキスタンなど多くの国が持っており、おそらく北朝鮮も持っている。これにイランが加わったとして、何だというのか。普通の日本人からすれば、ピンとこないだろう。
 実際、イランがこれから核開発をしていくにしても、すぐに実戦で使える核ミサイルが完成するわけではない。また、核ミサイルが完成しても、イランの本音としては、核戦争がしたいわけではない。イランの目的は戦争ではなく、政権と経済の安定である。それゆえ、イラン政府としては核ミサイルを持ち、これを外交カードとすることで、自国の原油を世界中に売って経済的苦境を打開し、政権の基盤を盤石としたいわけだ。なので、原油を世界に販売でき、かつ自国の政治体制をアメリカが保証するなら、イランとしては核開発を放棄し、再びIAEAの査察を受け入れてもいいはずである。
 現在、イランの経済は苦しい状況にある。通貨の価値は下落し、インフレ率はおよそ40%、物価は上昇している。2019年4月、イラン中央銀行の発表によると、昨年に比べてイランの牛肉は67%、羊肉は52%、鶏肉は67%値上がりしている。飲料や食品の値段は平均して60%上がっているようだ。失業率は約13%だが、若年層失業率は約30%だそうである。イランは日本のような高齢化社会ではないので、人口の約半分以上は30代以下、つまり若者の数が多い。こうした状況を見て、IMF国際通貨基金)は2019年イランのGDP国内総生産)の実質成長率をマイナス6%と予測している。
 このため、イランの目標は軍事大国になることではなく、早く原油を売って、落ち込んでいる自国の経済をとにかく元に戻すことである。そのために、各国がアメリカを説得して経済制裁を解くか、核開発で脅して制裁を解かせるかの二者択一を考えているのだ。それゆえ、アメリカが核合意の路線に戻るのなら、イランも核武装せずに原子力発電所の稼働だけで満足する可能性が高いのである。
 もちろん、イランの内部も一枚岩ではないので、今後の状況は変わる可能性がある。このままアメリカの制裁、つまり兵糧攻めが続けば、イラン内部でも強硬派が台頭し、現政権が倒れ、強硬派政権が誕生するかもしれない。あるいは現政権が世論の右傾化におもねって、強硬な政策を実行する可能性がある。経済制裁が続くと国民の中で穏健派、協調派が弱まり、主戦派、強硬派が強くなっていくという傾向は、戦前の日本で起きた歴史的事実である。どこの国でも、経済格差が広がり、中間層が瘠せ細り、貧困層が増えると、民族主義的傾向、右傾化が進むのだ。
 イランの世論が右傾化し、核武装に突き進む場合、それに対抗して燃えるのはイスラエルである。1981年6月7日、フセイン政権時代のイラクを、突然、イスラエル空軍の戦闘機が侵入して空爆した。イスラエルではこれをバビロン作戦と呼んでいる。イラクは当時、国内で原子力施設を建設していたのだ。タムーズの原子炉である。原子力発電所としても完成が先の未熟な施設であったから、そこから核ミサイルを製造するという行程はだいぶ先だと思われた。しかし、イスラエルは突然、そこを戦闘機で空爆したのである。
 イスラエルイラクは国境を接していないので、戦闘機はサウジアラビアの砂漠地帯をサウジのレーダーに見つからないように低空で飛び、地上30メートルの低空を飛ぶこともあったという。このことからも、イスラエル空軍のパイロットの技術は非常に高いものだとわかる。そうして密かにイラク内に侵入し、戦闘機に搭載したミサイルでタムーズの原子炉を破壊した。その手口があまりにも鮮やかだったので、フセイン政権のイラク政府は、誰が施設を爆破したのか、最初はわからず、イランの仕業かと思ったそうだ。当時はイラン・イラク戦争(1980-1988)の最中だったからだ。
 その後、事態が明るみになり、当然、施設を破壊されたイラクだけでなく、領空侵犯されたサウジアラビアも、そして国連も怒った。国連では国際法に違反したイスラエルに対する非難決議が下された。いきなり他国に入って、他国の財産を爆破したのであるから当然である。もし、イスラエルが同じことをされたのなら、中東の大戦争に発展したところだ。しかし、結局のところ、イスラエルはまったく反省せず、国連も国際社会も、イスラエルに対してただ非難の声明を発しただけで、実質上は何もできなかった。
 今年になってからも、イスラエルがいきなりシリアの領内に侵入し、シリア領内のシーア派組織の建物を空爆している。結局、中東地域でイスラエルが何をしようが、国連は何もできないのだ。イラククウェートに侵攻した時は、あっというまに国連の安保理決議で多国籍軍が編成されたこととは、大違いである。
 イスラエルがなぜこういうことをしているのか言うと、イスラエルの国是は、中東地域でイスラエルのみが唯一核兵器を持つことなのである。つまり、イスラエルは中東地域でイスラエル以外の国が核兵器を持つことを絶対に許さない。イスラエルは核ミサイルを200発持っていると言われているが、近隣諸国が1発でも核ミサイルを持つことは、絶対に許さないのである。
 この国是からすれば、イランが核開発をするというなら、イランが核ミサイルを完成する前に、イスラエル空軍がイランに侵入して、イランの核関連施設を空爆するということは、十分にありえる。そうなったら、かつてのタムーズ原子炉爆破事件のように、何の反撃も起こらず、うやむやになって終わるということはあり得ない。イランは自国の施設をイスラエルに破壊されたら報復するに決まっているし、それは中東で大戦争へと発展する可能性がある。
 イスラエルの世論も一枚岩ではない。イスラエルが2009年のネタニヤフ政権発足以来、着実に右傾化しているとはいっても、2018年7月19日のユダヤ人国家法は、62体55で可決されている。つまり、62は強硬派であるが、55は協調派、つまりまともな精神状態の人がイスラエル国会でもまだ55人はいるということである。強硬派の中でも戦争に躊躇する人はそれなりにいると思われるから、そう考えると、イスラエル国民の過半数は戦争を望まないはずである。
 つまり、イスラエル国民の過半数は、イラン核合意(JCPOA)を維持して、中東の平和を維持することを望んでいると言えるだろう。イラン核合意によって、イランの原子力開発が発電のみに限られ、核兵器へと発展しないなら、中東で核ミサイルを保有する国はイスラエルのみというイスラエルの国是は守られる。国是が守られるならば、イランが原子力施設を持っていることに不快感を抱きつつも、イスラエルの国民の過半数はそれで納得するはずである。
 もちろん、イスラエルの強硬派はイラン核合意(JCPOA)に納得しない。彼らはアメリカの核合意離脱に大賛成である。イランが原子力発電所を持っているということは、たとえ原子力エネルギーの平和利用だとしても、核開発の種を持っているということだから、強硬派からすれば納得できないからだ。彼らは、イスラエル国民が枕を高くして眠るには、イランからあらゆる原子力発電所も含め、あらゆる核施設を削除するべきだと思っている。
 そうした右翼よりもさらに強硬な右派からすれば、イランの原子力が全て消えるだけでは満足できない。イランという国家自体がイスラム国家ではなく、国家体制を変革し民主主義国家にならないと納得しないと言うだろう。そのまた、さらに極右であれば、イランという国家は即刻消滅して、地図から消えるべきだと言うだろう。そのためには、イスラエルで多大な犠牲が出ても、イスラエルはイランに核ミサイルをうつべきだと言うだろう。
 しかし、どこの国でも極右の人(頭のおかしい人)は少数派である。今のイスラエルでも、多数派は常識的な考えの持主であり、戦争を望まないはずである。そう考えると、イスラエル過半数は、イラン核合意(JCPOA)のもとでイランが核開発能力のない原子力施設を持つという状態は、ベストではなくとも、悪くない状態、つまり妥協点として現実的なものであると思うはずである。
 そう考えると、やはりトランプのやっていることは、イスラエルの強硬右派だけが喜ぶ政策であり、平和を望むイスラエル過半数の国民やその他中東の多数派の人々の意志とは逆行するものであるように思える。核合意の体制を維持していたなら、中東は今のような一触即発の状態にはならなかった。核合意体制は、イランとイスラエル両国の強硬派が不満を持つものであるが、両国ともに過半数は右でも左でもない単なる一般市民である。どこの国でも、多数派を占めるのは政治に関心のないノンポリ市民なのだ。
 核合意体制下では、イランの強硬派は自国の核開発能力を抑えつけられることに不満を持ち、イスラエルの強硬派はイランが原子力施設を持っていることに不満を持つという状態ではあるが、戦争を避けるために互いが妥協するという玉虫色の解決に、両国の多数派の国民は承服していたはずである。政治や民族主義に関心のない多数派国民は、民族の誇りよりも経済生活や家庭生活の方が遥かに重要であり、戦争の危険性がなく平和に暮らせるならそれが一番だからである。
 しかし、アメリカの離脱により、互いの妥協により成り立つ核合意体制は、もうない。イスラエルであろうが、イランであろうが、その国民の多数派は民族主義者でもなければ宗教原理主義者でもなく、生活第一主義者である。戦争がなく、平和に経済生活、家庭生活ができることが、彼らにとっては最重要である。しかし、アメリカの経済制裁により、イランの庶民の生活は日に日に苦しくなっている。こうなると、民族や宗教に関心がない生活第一主義者も右傾化し、自国の核開発に賛同する世論が高まる。
 イランが核開発を進めれば、イスラエルの生活第一主義者も右傾化してくる。平和な状態なら民族や宗教に関心を持たない生活第一主義者たちが右傾化しはじめるのである。こうして、イランとイスラエルの両国民が右傾化していけば、両者は一触即発の状態に近づくことになる。生活第一主義VS生活第一主義という構図なら、戦争にはならない。互いに自分の生活が一番大事だからである。しかし、右派VS右派という状態になってしまえば、平和は難しい。生活よりも国是や民族の誇りの方が大事になってしまうからだ。
 イスラエルの強硬右派からすれば、イランには原子力の平和利用であろうが核開発であろうが、原子力の全てをやめてもらいたい。のみならず、核弾頭のついていない通常ミサイルの大幅な削減もしてほしい。しかし、イランからすれば、それを全面的にのむことはできない。自国の電力政策や通常兵器による防衛政策を他国の干渉なく自国で決めることは独立国の正当な権利だと主張するだろう。核合意は、そうした両者に妥協を迫る解決策だったのである。
 結局のところ、イランにしてもイスラエルにしても、右派勢力の要望を実現するとなると、もう片方の不満は爆発することとなる。それゆえ、核合意では玉虫色の解決により、両国の右派が不満を抱きながらも互いに我慢するという状態で平和を実現しようとしたのである。しかし、今はトランプ率いるアメリカが片方の右派に全面的に賛同する状態となってしまっている。それゆえ、解決の糸口がつかめない状態となっているのである。

第十回 トランプ政権、驚きの政策(その二)

 もう一つの驚きが、2018年5月8日、トランプ大統領によるイラン核合意(JCPOA Joint Comprehensive Plan of Action 包括的共同行動計画)の離脱表明である。これは世界的な大ニュースである。アメリカも含めて成立した2015年7月14日の核合意を、アメリカが一方的に抜けることとなったのだ。

 2015年のオバマ政権時に成立したイラン核合意(JCPOA)は、イラン、米、英、仏、独、中、露の7か国によって調印されたものである。これにより、イランは原子力施設を保持しても、濃縮ウランをつくることが不可能になった。

 一般の日本人にはよくわからないだろうが、問題は濃縮ウランなのである。核ミサイルを作るには、原子力発電所を持っているだけではダメで、核弾頭をミサイルの先端にくっつけるためには、ウランを濃縮し、小型パッケージ化しなくてはならない。それゆえ、原発以外にもウランの濃縮施設や濃縮したウランを核弾頭化する施設が、核ミサイルを持つためには必要である。核兵器には濃縮度90%以上のウランが必要だが、核合意では濃縮度3.67%までが許されることとなり、原子力エネルギーを発電に利用できても、核弾頭は作れないこととなった。

 2016年1月16日、イランが核濃縮に必要な遠心分離機などを大幅に削減したことをIAEA国際原子力機関)が確認し、発表した。つまり、イランの非核化が進んでいることをIAEA(つまりアメリカ)も認めたということである。これにより、米欧がそれまでイランに対して行っていた金融制裁や原油取引制限などの経済制裁を解除する手続に入った。これは、2013年に発足したイランのロウハニ政権による穏健政策の大きな成果でもあった。これにより、イランは強硬派のアフマディネジャド政権時代と違い、欧米との対話協調路線へと入ったのである。

 なお、イランのロウハニ大統領は、スコットランドグラスゴーカレドニアン大学の大学院を卒業し、法学博士号を取得しており、ペルシャ語アラビア語、英語の三か国語を話す国際派である。前任のアフマディネジャドはこれに対して、元イランの軍人であり、テヘラン市長を経て、大統領になったドメスティックで右派的な人物であると言われている。ロウハニ政権は、そうした右派的政権の反動で生まれた国際協調路線の政権である。

 アフマディネジャド時代は、イランと欧米は対立していたので、オバマ政権時もペルシャ湾の緊張状態があった。当時もイランに対する経済制裁があり、米軍のペルシャ湾での展開、ホルムズ海峡封鎖の危険性といった緊張状態があった。しかし、イランの政権がロウハニ政権へと変わり、極めて困難と思われていたイラン核合意(JCPOA)も成立した。それゆえ、イランを中心とする中東情勢は平和的な状態としてこのまま続くと思われていた。

 しかし、2018年5月8日、トランプ大統領アメリカの核合意離脱を表明した。7カ国合意からアメリカが離脱して、アメリカがイランに対して経済制裁を課すというのである。これには残りの6カ国が全て反発した。これまではアメリカと一心同体の関係にあると思われたイギリスでさえもアメリカを非難し、国連大使が国連でアメリカの核合意離脱を強く非難するという事態となっている。

 日本のニュース番組では、トランプはオバマが嫌いだから、オバマのやった政策は全てひっくり返すのだと言っていたが、それは説得力が薄い。イラン核合意は国内政策ではなく国際的な取り決めであり、アメリカも含めて決めたことをアメリカが覆せば、アメリカは国際的な信用を失う。また、イランが非核化して核武装しないということはイスラエルの安全のためであるから、親イスラエル政策を継続的にやっているトランプが「オバマが嫌いだから」という理由でイスラエルの安全を脅かすような政策をあえて実行することは道理にあわない。

 離脱後、5月14日に、トランプはアメリカ大使館をテルアビブからエルサレムへ移転しているから、まるで、あえてイスラム社会から恨まれるために政策を実行しているかのようである。その約一か月後、2018年6月12日、シンガポールにて第一回米朝首脳会談を行っているから、トランプは東アジアの緊張を解きながら、同時に中東の緊張を高めているようである。つまり、5月8日核合意離脱、5月14日大使館移転、6月12日米朝首脳会談の三つの事件は、バラバラに起きているのではなく、関連して起きているのである。

 これに呼応して、2018年7月19日には、イスラエルユダヤ人国家法が62体55で国会可決される。これはイスラエルという多民族国家イスラエルにはユダヤ人だけでなく、アラブ人などの様々な民族がおり、イスラム教徒もいればキリスト教徒もいる)を、ユダヤ人のための国家であると決める法律である。つまり、ユダヤ人以外のイスラエル人の人権を制限するという法律であり、まるでナチス時代のニュルンベルク法のようなとんでもない法律であるが、日本ではほとんど報道されていない。

 その後、2018年9月26日、国連総会において、トランプは会見し、「日本はすごい量の防衛装備品を買うことになった」と発言している。日本は2016年に成立した集団的自衛権関連の法律により、海外で軍事活動ができるようになったので、ホルムズ海峡での第三次世界大戦に備えて、「すごい量の武器」をアメリカから購入する契約をしたのかもしれない。

 こう考えると、北朝鮮のミサイルで日本の世論を煽り、集団的自衛権関連の法律を国会で可決させ、特定秘密保護法も可決させ、「すごい量」の武器を購入したという流れは、全て中東での戦争のためだと見ることもできそうだ。日本国民は、もしかしたら北朝鮮のミサイルによって騙されたのかもしれない。日本人の多くは、日本の防衛費増額、装備の刷新、補強は、中国や北朝鮮の軍事力に対処するものだと思い込んでいるが、実はユダヤイスラムとの大戦争に日本が巻き込まれる予定であるために、日本政府はそれを知って、計画的に軍事力を増強しているのかもしれない。

 その後、2019年4月8日、トランプ大統領は、イラン革命防衛隊を国際テロ組織に指定する。アメリカが他国の軍隊をテロ組織に指定したのは、これがはじめてのことである。これに対して、イラン国営メディアによると、イラン政府は中東に駐留するアメリカ軍をテロ組織に指定した。

 つまり、アメリカがイランを攻撃するとしても、それは国家と国家の戦争ではなく、テロ組織撲滅のための活動だとして武力行使できるということである。アメリカの法律では、アメリカがどこかの国と戦争をするには、相手国に宣戦布告をして、大統領が議会の承認を得る必要がある。大統領が好き勝手に戦争をすることは、アメリカの法律では不可能なのだ。しかし、相手が国家ではなくテロ組織なら、国家間の戦争ではないと言えるので、そういう面倒な手続きはなくとも、アメリカ大統領は相手を武力で攻撃できる。つまり、アメリカ軍は議会の承認を待つことなく、大統領の命令一つで手軽にイラン軍と戦うことができるようになったのである。戦争なら宣戦布告や議会の承認が要るが、テロ組織撲滅ならそういった手続は不要だからだ。

 2019年の5月になってから、緊張は一気に高まってゆく。2019年5月5日、アメリカ政府はペルシャ湾に空母(エイブラハム・リンカーン)と爆撃部隊を派遣、他方、イランは2019年5月8日、核合意(JCPOA)の制限を超える重水と濃縮ウランの海外移転を60日間止めると発表した。つまり、制限を超える量の重水と濃縮ウランは、そのままでは核ミサイル製造に使われる危険性があるため、イラン国内で保持してはならず、国外へ出されなければならない規定であったが、その規定を守らずに国内で貯めこむと発表したのだ。

 イランのロウハニ大統領はテレビ演説で「我々は一年待ったが何も得られず我慢の限界が来た」と言い、同時に、「欧州関係国や中露がイランの石油輸出と金融取引を保全することができれば、この決定を取り消す」と留保をつけている。つまり、60日後(2019年7月8日)までに欧州各国や中露がイランと原油取引を継続的に行うと約束してくれれば、核合意の制限状態に戻して、重水や濃縮ウランを国内に貯めこむことはやめるという話である。しかし、欧州や中露がイランと原油取引をするとアメリカの制裁が及ぶのだから、これは非常に難しい。7月8日までに核合意をしたアメリカ以外の6カ国が努力して、現在のアメリカの経済制裁を改めさせなければ、イランは核ミサイルの製造を本格的に行うという意味である。

 同日、アメリ国防省イラクアメリカ大使館、領事館職員に国外退避を指示する。翌日の5月16日、イラン外相がインドを訪れ、その後来日 安倍首相と会談。その後中国へ行く。5月18日、イラクエクソンモービル社員が退避を開始、5月19日、バグダッドのグリーンゾーン(アメリカ軍の施設が多く集まっている地帯)に何者からによりロケット弾1発が撃ち込まれる。

 5月20日、イラン原子庁がウラン濃縮施設の低濃縮ウランの製造能力を4倍に増強すると発表。5月22日、米国防総省、中東に5000人から10000人の増派を米中央軍から要請され検討。このように、あっというまに中東では危険な状態になってしまった。残念ながら、ちょっとした小競り合いが大戦争に発展してもおかしくないという事態になってしまったのである。

第九回 トランプ政権、驚きの政策(その一)

 トランプ政権になって、ブッシュ父子のような強硬派でも実現しなかった驚きの政策が実行された。それが、エルサレムイスラエルの首都として認め、アメリカ大使館をテルアビブからエルサレムに移したことである。2017年12月6日、トランプは、エルサレムイスラエルの首都と正式に認める発言をした。その後、2018年5月14日、アメリカ大使館をエルサレムへ移転した。
 普通の日本人にはピンとこない話である。しかし、国際的には大事件であり、日本人の生活とも大いに関係がある。イスラエルは、もともと第二次世界大戦後に、パレスチナ人の土地を暴力で奪って建設した国である。自分の国土が1ミリもないのだから、人の土地を奪うしかない。それゆえ、そういう略奪行為の後、中東戦争レバノン内戦、ガザ攻撃などの様々な紛争が起こり、あの地域が慢性的な紛争地帯となった。パレスチナ人たちは自らの土地を奪い返すために政党を立ち上げ、それがPLOパレスチナ解放機構)となった。イスラエル政府は、それをテロリスト集団だと見なした。
 イスラエルでは、誰も住んでいない所有者なしの土地にユダヤ人が入植、あるいは合法的に土地を買い取って入植し、そこにイスラエルという国家が生まれたという嘘っぱちが正史となっている。それが、イスラエルの歴史の教科書に載っており、子どもたちにも教育されている。それゆえ、土地を暴力によって奪われ怒っているパレスチナ人は、イスラエルからすれば言いがかりをつけている狂人であり、イスラエルの政府が正式に認定するテロリストなのである。
 この慢性的紛争状態が奇跡的に解決されたのが、1993年9月13日のオスロ合意である。アメリカのクリントン大統領が仲介役になり、イスラエルのラビン首相とPLOアラファト議長ノルウェーオスロで会い、握手した。最初に手を差し出したのはアラファトで、ラビンは躊躇しながらその手を握った。確かにそうであろう。ラビンが握手をすれば、彼はイスラエルに帰った後にイスラエルの右派に殺されるかもしれないからだ。
 両者はオスロ講和に調印し、それまでお互いがお互いを国家ではなく、テロリスト集団だと認定しいていた見解を覆し、お互いを国家として認めることとなった。これで、イスラエルパレスチナは、お互いがテロ集団として罵り合うのではなく、お互いが認めあう独立国となった。これにより、1994年10月、ノーベル平和賞パレスチナアラファトイスラエルのラビンとペレスに与えられる。
 しかし、1995年11月4日、イスラエルのテルアビブにおける平和集会にてラビン首相は暗殺される。演説の後、拳銃で撃たれて死んだのだ。また、2004年11月11日にはアラファトが死去する(毒殺疑惑がある)。そうして、イスラエルパレスチナの関係は元の木阿弥となり、2009年3月31日、イスラエルの総選挙で右派のネタニヤフ政権が発足し、完全に内戦状態となる。ネタニヤフ政権はイスラエル国内に壁を設置し、パレスチナ領内に「入植」と称する侵略を繰り返す。パレスチナ人所有の農地に軍隊を入れて土地を暴力的に奪い取り、イスラエル人用の公営住宅を建てるのである。
 これはヒトラーが行ったこととまったく同じである。ヒトラーは政権を取った後、法改正し、国家がユダヤ人の財産を自由に没収できるようにする。そうやってナチス政権はユダヤ人の財産を没収し、ユダヤ人所有のマンションをドイツの公営住宅として、貧しいドイツ人に無料で住宅を提供した。これは、多くのドイツ人を感動させる政策であった。
 こうしたネタニヤフ政権の行いには国際的な非難が起こり、チョムスキーなどアメリカのユダヤ系知識人たちもイスラエルを批判するようになっている。なにしろ、やっていることがナチスと同じである。ナチスを恨むユダヤ系知識人たちが、ネタニヤフのやっていることを批判することは当然である。
 ちなみに、ベンヤミン・ネタニヤフも一筋縄ではいかない人物である。彼はイスラエルの右派政党であるリクードの党首であり、イスラエル首相であるが、父親のベン=シオンはアメリカのコーネル大学教授で、ベンヤミンも高校時代からアメリカで暮らしている。イスラエルは徴兵制があるので、彼はフィラデルフィアの高校を出てからイスラエルに帰国して軍隊に入り、徴兵が終ってからはアメリカに戻り、マサチューセッツ工科大学に入学する。大学卒業後はMITスローン経営大学院に入学、卒業後はボストンコンサルティングに就職する。当時の同僚に、後の共和党大統領候補で国会議員のミット・ロムニーがいたそうである。つまり、よくあるパターンであるが、彼はイスラエル人でありながら、同時にエリートアメリカ人なのである。
 こうした中で、トランプがエルサレムイスラエルの首都だと認めたということは、クリントン時代に成立したオスロ合意を完全に無効にし、エルサレムパレスチナ人との共同の都市ではなく、イスラエル単独の都市であり、イスラエルパレスチナ人などのイスラム教徒をエルサレムから追い出し、ひいてはイスラエルガザ地区も完全に手に入れ、パレスチナという国を完全に消滅させる権利を正式に持っているとアメリカが認めたということである。
 これはイスラエルの穏健派のユダヤ人も驚いた決定であった。イスラエルの中にも右派や左派、強硬派と穏健派がおり、穏健派のユダヤ人はパレスチナ人との共存を望んでいる。パレスチナを国家として認めるユダヤ人もいるのだ。オスロ合意に調印したラビンが所属していた党は労働党で、穏健派である。なので、イスラエル人であっても、労働党支持者や穏健な保守派はネタニヤフを代表とするリクードを支持しない。
 また、パレスチナ人にも強硬派と穏健派がおり、穏健派のパレスチナ人はユダヤ人との共存を望んでいる。それゆえ、トランプの決定はイスラエルリクードなどの強硬的右派だけに喜ばれるものであり、イスラエル全体の支持を得られるものでもなければ、アメリカのユダヤ人社会全体に支持されるものでもない。また、トランプの決定はパレスチナ人の人権を一切認めないものであるので、パレスチナの強硬派、穏健派双方から恨まれるものであり、エルサレムイスラムの聖地とするイスラム社会全体から恨まれるものである。
 これまで、ブッシュ父子のような、どんなに右派的な共和党政権であろうと、エルサレムイスラエルの首都だと認定し、大使館をテルアビブからエルサレムに移すことはなかったのは、そのためである。つまり、そんなことをすれば、大勢の人達を敵にまわすのである。シオニストであっても強硬派と穏健派がおり、決して一枚岩ではない。強硬派だけを喜ばせることをやっても多数派の支持は得られない。強硬派だけを喜ばせても、穏健派の反発をくらい、かつ全部のイスラム教徒を敵にまわす。そうなると、数的にはかえって大勢の支持を失うわけであるから、これまでのアメリカ大統領は、誰もそんなことはやらなかったわけだ。
 しかし、トランプの場合は平気でそれをやり、特に気にしている様子もない。トランプはもともと不動産会社の社長で、政治的、宗教的にはノンポリであるから、いきなり大統領になってからシオニスト右派を強力に援助するというのは、彼の考えというよりも、彼の上からの命令に従ってやっているのではないかと私は思う。
 NHKのニュース番組の解説員は、共和党の支持集団としてアメリカのキリスト教福音派があり、トランプは彼らの支持を得るためにイスラエル右派を援助する政策をしていると説明している。それは確かに間違いではなく、共和党の大統領候補は、彼らの支持がなければ大統領になれないし、大統領になった後も、彼らの支持がなければ自分の地位を保持できない。
 このカルト集団は、現在全米で7000万人いると言われており、アメリカの宗教団体では最大勢力だと言われている。このカルト集団が巨大化したのは20世紀に入ってからであり、その資金源はロックフェラー財団である。彼らは聖書の文言通りに事が運ぶことを望むので、ユダヤ教右派を支持しているというよりも、エルサレムから異教徒を追い出すイスラエルを支持しているのではないかと思われる。
 また、彼らは聖書の文言通りに、人類の最後はハルマゲドンが来て、地球が滅亡して自分たち福音派が天国に行けるということを信じているので、アメリカが核開発をして核戦争をすることに賛成している。核戦争で地球が滅亡し、自分達が天国に行って救われることを夢見ているのだ。それゆえ、福音派の連中から敵視されないようにするために、アメリカの大統領は共和党であろうが民主党であろうが、軍縮をして核ミサイルを減らすことは、なかなか難しい。
 しかし、NHKのニュース解説だけでは、これまでの共和党政権の全ての大統領が、イスラエルの首都をエルサレムだと正式に認めることを拒んできた歴史の説明とはならない。ブッシュ父子も福音派の支持を受け大統領になったわけだが、エルサレムを首都として正式に認めることはしなかった。また、トランプは共和党の強力な支援を受けて大統領に当選したわけではなく、共和党の幹部のほとんどがトランプを支持しなかった中で、彼は当選した。なので、トランプは福音派の支持を得るために親イスラエルの政策をしているのだという説明は、説明として嘘ではないが、一面的なものに見える。
 いくら娘婿の強硬派シオニスト、クシュナーがトランプの側近にいるとしても、これまでの共和党が決してしなかったことをやったということは、シオニストの政治信条がどうこうと言うより、さらに上の命令があってやったと考える方が合理的だ。トランプは上からの命令で、パイクの言う「意見の相違」を引き起こすために活動しているようにも見える。もしそうならば、中東の大戦争に近づくわけであり、日本人にとっても無関係な話ではない。

第八回 アルバート・パイクの経歴と中央銀行

 アルバート・パイクは興味深い人物である。彼はメイソンの33階級(最高位)まで登り詰めた。アルバート・パイクをGoogle検索すると、フリーメイソンの正装をしたパイクの白黒写真が出てくるが、勲章の胸のところに「33」と確かに書いてある。
 パイクの属したアメリ南部連合軍は、北軍に敗れる。この事実だけ見ると、元将軍であるパイクは、その責任として、死刑になってもおかしくない。そんな彼が南北戦争の後も無罪放免で生き残り、最終的にフリーメイソンの33階級まで昇進し、「黒い教皇」と言われるようになったのはなぜか、この業績の表面だけを見るのでは、まったくわからない。しかも、彼はもともと軍人ではない。
 パイクは幼い頃からとんでもなく学業優秀で、神童であった。15歳でハーバード大学に入学し、その後弁護士となる。不思議なことに、弁護士として、ネイティブ・アメリカンの権利保護のために活動する。彼はその優秀な頭脳で、ネイティブ・アメリカンの言語をマスターし、ネイティブ・アメリカンから信頼を集めたのだそうだ。
 そこで、彼はネイティブ・アメリカンの秘儀に触れたのだろうか。彼は古代の秘儀や東洋の神秘思想にも多大な興味を持つようになる。その後、フリーメイソンの活動をするようになる。優秀な彼はそこで頭角を現し、1859年にアメリカのメイソンの大長官になったそうだ。その後、1861年から南北戦争が始まるが、南部連邦政府からネイティブ・アメリカンの各部族と協定を結ぶ交渉役に任命される。彼がネイティブ・アメリカンの言語や文化に精通し、信頼を得ていることから、そのような役目を与えられたのだろう。
 その後、南部連邦の中で出世し、将軍にまで登り詰めるが、部下のネイティブ・アメリカンの兵士が敵兵の頭の皮をはいだので、責任をとって将軍を辞任したようである。その後、1865年4月9日に南軍は北軍に対して降伏する。彼はリンカーン大統領に恩赦を申請し、逮捕を免れるために、いったんカナダへ逃亡する。
 1865年4月15日、リンカーンは劇場で暗殺され、副大統領のアンドリュー・ジョンソンが大統領に昇格する。フリーメイソンのジョンソン新大統領は、前任のリンカーンに対して出されていたパイクの恩赦申請を同年8月に認めた。申請者のパイクも許可するジョンソンも、同じフリーメイソンなのだから、この申請は認められるに決まっている。というか、もしジョンソンがこの申請を却下していたら、彼は反逆者として殺されていたかもしれない。12月に、パイクはカナダからアメリカに帰ってくる。結局、無罪放免である。
 その後、パイクは「同じ穴」とも言えるイタリアのマッツィーニに、あのような手紙を書く(第二回ブログ参照)。パイクの時代には、ソビエト連邦も、ナチスドイツも、イスラエルも存在しない。しかし、彼の目にはそれらが見えていたようである。彼は、「第三次世界大戦は、シオニストとアラブ人とのあいだに、イルミナティ・エージェントが引き起こす、意見の相違によって起こる」と言っている。昨今の状況から見ると、第三次世界大戦犬猿の仲であるイスラエルとイランから起こりそうである。トランプがイルミナティ・エージェントなのかはわからないが、そうだとしても不思議はないだろう。
 第三次世界大戦について、様々なことが本やインターネットで言われている。この点、私の注目ポイントは中央銀行である。イランの中央銀行はまだ民営化されていない。おとなりのイラク中央銀行フセイン時代には国営であったが、アメリカ軍がフセイン政権を滅ぼしたことにより、その後民営化されている。
 イランの左側に位置するイラクアメリカ軍により潰され、民営化された。イランの右側のアフガニスタンも、アメリカ軍により潰され民営化された。民営化を拒んだアサド政権のシリアは、内戦状態である。となると、残るはイランである。イランとイスラエルは敵同士であり、イスラエル中央銀行アメリカのFRB(Federal Reserve System 連邦準備制度)と一心同体である。
 普通の感覚からすると、外国人が中央銀行の幹部になるということは考えられないことであろう。例えば、日銀の総裁をアメリカ人がやるということは、日本の国民感情からして、許されることではない。しかし、国際金融資本勢力に中央銀行が乗っ取られている場合には、ある国の中央銀行の幹部が、別の国の中央銀行の幹部になることはあり得る。国が違うとは言っても、それは同じグループ内での人事異動にすぎない。金儲け共同体からすれば、国籍の違いというものはそれほど重要なものではない。
 例えば、スタンレー・フィッシャー(1943-)という高名な経済学者がいる。彼はイスラエルアメリカの二つの国籍を持っており、マサチューセッツ工科大学で教鞭をとった後に、世界銀行のチーフ・エコノミストをやっている。その後、IMF国際通貨基金)の筆頭副専務理事となり、シティバンクの副会長になり、さらにその後はイスラエル中央銀行の総裁になっている。退任後、オバマ政権時代に、アメリFRB副議長になっている。
こういう人事異動をRevolving Door(回転ドア)と言うが、要は「同じ穴」の中で異動しているわけである。世界銀行IMFシティバンクイスラエル銀行、FRBといった組織は、形式的には完全に別組織である。世界銀行IMFは国際機関であり、シティバンクアメリカの私企業であり、イスラエル銀行はイスラエル中央銀行FRBアメリカの中央銀行である。
 しかし、それらは表の顔としては別物であるが、胴体としては同じである。八岐大蛇(ヤマタノオロチ)の顔が八つあっても、胴体は一つである。これは、東京電力東京大学原子力研究所、経済産業省がまったくの別組織でありながら「同じ穴」であるのと同じである。それゆえ、東京電力の社員が退職後に経産省の官僚になったり、東大の原子力工学の教授になったりすることは、「転職」ではなく、「人事異動」なのである。
 こうしたことから考えると、イランの中央銀行ユダヤ系経済人による金融グループから独立している。これは巨大金融グループからすると許し難いことである。また、8000万人の人口と世界三位の原油生産力を持つイランは、それを狙う肉食獣からすれば、魅力に溢れており、非常においしそうな獲物である。それゆえ、このままイラン政府が自らの中央銀行を外国資本に明け渡さずに国営している限り、永続的なイランの平和というものはかなり難しそうである。そう考えると、パイクの言うとおり、第三次世界大戦は中東で起こりそうである。

第七回 大衆を思考停止にするシステム

 マッツィーニは近代イタリア建国の父、パイクはアメリ南北戦争の将軍、ビスマルクはドイツの鉄血宰相・・・というふうに、歴史の教科書では各人物がバラバラに出てくる。しかし、そういう説明は読む者に断片的な知識を与えるが、肝心なことを伝えない。彼らに金を渡していたのは誰だということだ。金の出所が同じなら、彼らは一つの戦略のもとに存するメンバーであり、それぞれが別の支店で働いていたのだということになる。同じ事業計画の下で、マッツィーニはイタリア支店、パイクはアメリカ支店、ビスマルクはドイツ支店で働いたのではなかろうか。

 私は高校生の時に、山川の世界史教科書を大学受験のために必死になって勉強した。しかし、受験勉強が終わったら、内容はすっかり頭から抜けてしまった。おそらくそういう生徒は多かったことだろう。無理もない。世界史の教科書は、事実の羅列と、極めて表面的な因果関係の説明から成り立っている。それゆえ、シャンパンの炭酸が抜けるように、使用後はその内容がシュワっと抜けてしまうのだ。結局、必死になって勉強をしても、自分が何を勉強したか覚えていられない。

 かくして、若い頃の私も含め、大学受験のために必死になって勉強した若者は、受験が終われば自分が何を勉強したのかさえも思い出せないバカになっている。竜宮城で遊んだ浦島太郎以上のバカになっているのである。ヒトラーがアホな大衆は国家がつくるものだと言ったが、まさにそのとおりである。義務教育で子どもを学校に行かせ、無内容な勉強を、競争システムの中でさせる。マスコミはどうでもいい情報を24時間国民に向かって垂れ流し続け、スポーツやエンターテインメントで国民の精神を骨抜きにする。

 こうして畜産された大衆を国家の主権者と祭り上げ、彼らの投票によって政治家が選ばれ、その政治家が国家を運営する。しかし、その金融システムは資本家に握られており、政治家はそうした資本家から資金援助を受けなければ選挙で勝てない。選挙で勝った政治家は、当然、恩返しとして、資本家を優遇する政策を実行する。それゆえ、ある意味で、民主主義とは見えざる資本家勢力が国家を支配するための最高のシステムであると言える。

 ヒトラーは、暴力革命ではなく、民主的な選挙制度によって政権を得た。金持ちから資金援助された結果、選挙に勝ったのだ。

 

1999年以後 五島勉 祥伝社 88

「どうだ、わたしの言ったとおりだろう。選挙の極意とはこういうものだ。つまり大衆は限りなく愚かだ。大衆は女のように感情だけで動く。だから女をモノにするときのように、優しくしたり威圧したりすれば、大衆も政権も簡単にモノにできるのだ」

「青少年も同様に愚かだ。彼らには車とオートバイと美しいスターと、音楽と流行と競争だけを与えてやればいいのだ。

 それでシャンペンの空気を抜くように、かれらの頭から、“考える力”を抜き取る。あとは車とスターと流行と音楽の力を借りて、ワッとけしかければ、彼らは武器を抱いて地獄の底へでも突っ込んで行くよ」

「そのためにも、大衆や青少年には、真に必要なことは何も教えるな。必要がないバカのようなことだけを毎日毎日教えろ。それで競争させろ。笑わせろ。ものを考えられなくさせろ。真に必要なことは、大衆と青少年を操る者だけが知っていればいい」

 

 ヒトラーがこのような凄まじい大衆支配システムを、全て独力で考え出したとは考えにくい。もしかしたら、彼はヴァールブルグなどの優秀な資本家経由で、そういったシステム構築と運営について学んだのかもしれない。そもそも、近代化の波の中で、なぜ世界の様々な国家が次々と民主化されていったのか、教科書は教えてくれない。国民はそれを漠然と、民主主義、つまり大衆が勝ったのだと思っている。

 しかし、フランス革命は貧乏な一般大衆が団結して成し遂げたものではない。ロスチャイルド家は、一族であるモーゼス・モカッタ銀行を通してフランス革命のために資金を提供している。革命の主体はフリーメイソンであり、優秀なフリーメイソンであり、彼らが大衆を扇動したのであり、大衆がフリーメイソンのために少ない預貯金から寄付を集めて革命を起こしたのではない。マリー・アントワネットは、まだ王妃だった頃に、友人に宛てた手紙で、「フリーメイソンは恐ろしい」と書いている。「パンがなければケーキを食べればいい」と彼女が言ったというのは、おそらくフェイクニュースであろう。ハプスブルク家で最高の貴族教育を受けた彼女が、そんなバカなことを言うとは考えにくい。

 そもそも、貧乏な一般大衆には資金源がなく、革命をするための知的な蓄積やノウハウもない。革命であろうが戦争であろうが、莫大な金が必要である。つまり、革命には潤沢な資金と優秀な頭脳の二本立てが必要なのであり、大衆の不満や熱意だけでは、単なる一過性の農民一揆で終わってしまう。貧乏な農民たちが金持ち貴族に対して怒ってフランス革命が起こり、フランスに民主主義が生まれたというストーリーは、おとぎ話にしか過ぎない。妄想は金がなくてもできるが、革命は金がないとできないのだ。

 フランス革命の後、ナポレオンがヨーロッパを一大戦場にしてくれたおかげで、貴族政治をしく各国政府は戦費の膨張で資金繰りが苦しくなる。そこにロスチャイルドを中心とした金融資本勢力が戦費をまかなう。フランス革命戦士達とナポレオンというフリーメイソンの活躍により、フランスの王家は滅び、フランスは民営化され、ロスチャイルドの思惑通りに、民営化された中央銀行ができる。

 同時に、イングランド銀行の支配権を得たロスチャイルドは、イギリス王室と一心同体となる。その後、ビスマルクと組んでドイツを民営化し、ハプスブルク家をつぶし、その後はロマノフ家をつぶし、ロシアを共産化(民営化)する。それと同時に、アメリカにFRBを設立し、アメリカ政府を民営化する。

 こうして王朝は次々と倒れ、政府は次々と民営化される。今ではほとんどの国家が民営化されている。この民営化を民主主義の勝利、一般大衆の勝利だと考えるなら、あまりにも楽観的過ぎる。民営化されるということは、株式が公開されるということであり、強大な資金力を持った者が支配できるということである。つまり、国家が貧富の格差を是正するために政策を施すことが難しくなる。

 しかし、そんなことを言っても、大衆の頭の中は、スポーツ、芸能人、学校や会社のどうでもいい人間関係、家族の問題、報道機関の伝えるどうでもいいニュースといったことでいっぱいである。水には毒物が混入され、空気中にも毒物が混ぜられ、食べ物も毒入りである。ワクチンや健康診断も、思考停止でただ受けているだけなら、非常に危険なものである。世の中は、頭が悪くなる装置で成り立っている。

 民営化、民主化というものは、一見、いいものであるような印象を与えるが、非常に危険なものなのだ。この魅力的なネーミングによって、大衆は騙される。民主主義というと、まるで一般大衆が勝利者であるかのように錯覚させる。民営化というと、まるで国家権力から大衆が運営の権利を勝ち取ったようである。健康診断は、まるで大衆が健康になるためのシステムに聞こえるし、ワクチンというネーミングもまるで大衆を病気から救うような名前である。

 2005年、当時の首相である小泉純一郎が「俺が自民党をぶっ壊す!」「これは郵政民営化選挙だ!」というふうに、わけのわからない内容で叫んだら、なぜか選挙で圧勝してしまった。当時のマスコミは、民営化される郵貯の裏にいるゴールドマン・サックスやモルガンについては、ほとんど報じなかった。もちろん、巨大利益を得るアフラックのことは「ア」の字も出さない。アフラックはロックフェラー系の保険会社である。テレビの報道番組では「果たして民営化された後も離島に封筒は80円で届くのか?」といったテーマが討論されていた。

 会社であろうが国家であろうが、株式を公開して市場に出さなければ、閉じたシステムとして外部の介入を遮断できる。鎖国時代の江戸幕府がそうである。しかし、株式を公開して、市場に流通させるということは、それを大量に買った金持ちがその組織を牛耳ることとなる。この商法と株式市場と支配のシステムを最初に思いついた天才は誰だったのだろうか。

 フランス革命貧困層の人々が力を結集して成し遂げた革命ではなかった。その担い手は資金援助を受けた知識層であり、その目的は国家の民営化、つまり国庫の民営化であった。身分制社会が倒されて平等社会が実現されたのではなく、国が守っていた通貨発行権を資本家が強奪することが実現されたのだ。こうして正に「資本主義」がはじまった。

 資本家は、国家の通貨を握ったと同時に、教育とマスコミという情報も握った。それにより、学校でもメディアでも、決して肝心なことが伝えられない社会制度が確立された。学校で教わることや、テレビや新聞などの大手メディアでの情報だけでは、それぞれの政治活動の資金源がどこにあるのか知ることができない。大衆は事の真相を知らされず、表面的な情報だけをもとにして議論をせざるを得なくなり、中にはそういう表面的な議論を議論そのものだと勘違いする人々も出てくる始末である。

 他方、資本家たちはドイツ語、英語、フランス語、ヘブライ語を自由に操り、金融や世界情勢に対する圧倒的な知識を持ち、学習能力が高く、なにより世界の構造の裏側をよく知っている。こうした高度な悪知恵を持った資本家たちと、国家システムによって生産される思考停止の大衆という二極化社会が到来することとなった。

 私は民主主義が「悪」の制度なのだと言いたいのではない。民主主義というものは、一般大衆にとって夢のような素晴らしい制度ではないと言いたいのだ。それは放っておけば、国際資本家が好き放題に利用するという危険性を孕んだシステムである。この危険性について国民が思考停止であるなら、得をするのは国際金融資本を動かす人々である。一般大衆がバカなのだと言っても意味がない。一般大衆がバカなら、いったい誰が得をするのか。一般大衆がバカであることを望むのは一体誰なのか。それを考えるべきなのだ。

 確かに民主主義体制下では、貴族が大衆から搾取することはできない。それは民主主義という制度の成果である。しかし、このシステムにおいては、国際金融資本家は大衆から堂々と、合法的に搾取できる。なるほど、憲法は貴族の特権を禁じ、カースト制度身分制度を否定している。しかし、金持ちがメディアのスポンサーになって大衆を洗脳することについては、憲法は禁じていない。うかうかしていると、国民の財産が次から次へと民営化され、国際金融資本に乗っ取られる。5%の金持ちが95%の大衆を支配するという社会ができあがり、戦争をするにしても、彼らが自由に世論を操作して実行可能な世界となる。

 大衆が気づかないうちに家畜となる社会ができあがる。郵便局に貯金をしたら、その金はゴールドマン・サックスやモルガンが儲かるような仕組みがつくられ、貯金した金がいつのまにかアメリカ国債に化けている。郵便局員のすすめで保険に入ったらアフラック、つまりロックフェラーが儲かるという仕組みができあがる。日本人のお金を預かる郵便局が、国際金融勢力を太らせるメカニズムになるのだ。

 これは安全保障の面でも同じである。愛国心に基づいて国防費の増額に賛同し、軍事力の強化に賛同しても、その実はアメリカの武器会社などの資本家を太らせるために軍事力の増強をしているということになる。おかげで、ロッキード・マーチンの株は、16年連続増配銘柄である。この傾向に流されるままでいたら、気づいた時には日本人の自衛隊の若者が、命を懸けて中東の地で、アメリカ企業(グローバル企業)が儲かるために戦うという構図になりかねない。

 かつて、青い目の白人を儲けさせるために、日本人同士が殺し合いをした時代があった。西郷隆盛率いる軍勢が西南戦争幕府軍と戦い、儲かったのは誰か。日露戦争ロマノフ朝ロシア軍と日本人が殺し合い、大儲けしたのは誰か。日本は日露戦争に勝って、果たしてどれくらい利益を得たのか。日本政府が日露戦争の時に借りた金を、元金プラス利子の満額でユダヤ人に返し終えたのは、1986年である。

 2018年9月26日、国連総会においてアメリカのトランプ大統領は会見し、「日本はすごい量の防衛装備品を買うことになった」と発言している。つまり、アメリカの軍需産業が日本のおかげで相当に儲かったわけである。金を払ったのは日本国民であり、それは日本人が毎日汗水流して働いている成果から天引きされている税金である。

 民主主義という体制の下では、国民の愛国心はメディアを通して資本家に操作され、彼らの利益のために利用される可能性がある。この危険性について国民が自覚的でない限り、民主主義という制度は一般大衆にとって夢の制度とは程遠い危険な制度である。国民が「知らぬが仏」のままなら、この制度の利用方法を隅々まで知っている彼らのいいように操られるかもしれない。