戦争と平和、そして無記

国際政治や歴史、およびその根底にある人類の心のメカニズムについて考察していきます。

第九十回 一人でやる民主主義(4)

1.人間の厄介な宿命

 前回のブログでは、自分の外にある価値「 」(かっこ内)に、何を入れようが構造としては変わらないということについて述べた。外にある価値を追い求める限り、それに伴って自分自身はおざなりになる。つまり虚ろになる。自己の空虚さの対照として、外にある価値が光り輝いて見えるようになるのである。

 聖書は「金持ちが天国に行くことは駱駝が針の穴を通るよりも難しい」と述べ、世の人々も「金持ちはケチだ」と口々に言う。要は金持ちの心は虚ろだと誰でも知っているのである。虚ろな容器は底無しで、いくらあっても足りない。ベンジャミン・フルフォードは「フォーブス」の記者をしていた時、ある億万長者にインタビューしたそうだが、その心性に驚いたそうだ。

 

嘘だらけの現代世界 ベンジャミン・フルフォード他 ヒカルランド 191192

彼らは権力欲とか、とにかく欲が強い人たちです。僕も昔「フォーブス」で、そういう億万長者にインタビューしていたけれど、3000億持っている人のインタビューをしたら、「いや、3000億じゃ不安だね。せめて5000億はないと落ちつかない」と言っていました。こういう人たちはキリがないんです。

 

 金持ちの心はあさましさと言いたいのではない。人間の心が持つ法則性について述べたいのだ。金持ちだろうが貧乏だろうが、自分の外の価値にとらわれる時、人の心は虚ろになる。それは心の法則である。この法則に無自覚なら、人は泥沼にはまっていく。逆に、そのことに気づくなら対処が可能である。

 普通、心の欠乏がある時、人はその原因を外に求める。億万長者は不安感の原因を金の不足に求める。だが本当に足りないものは心の法則についての気づきである。自分の心、すなわち人間の心が持つ恐ろしさについて知り、愕然とする経験が、精神の自由のためには必要である。

 人間以外の生き物は、自分の心を覗き込み、その恐ろしさに驚愕する必要はない。ライオンや馬は心の赴くままに生きればいい。それが自然である。しかし人間が心のままに生きれば、次々と対象を手に入れるために画策し、最終的には自己破壊と地球破壊へと至るのだ。

 人間にとっては外的要因よりも内的要因の方が危険だ。我々は自然の脅威で死ぬ人間をあまり見ない。熊に殺されるのはレアケースだ。しかし自分で自分の身を滅ぼす人間については、頻繁に見る。人間の心は最終的に、自分自身を求め、自分自身を獲得するという円環に辿り着かない限り安定しない。つまり価値を外に求め続ける限り不安定であり、いつなんどき自滅へ走るかはわからない。

 ただ、この底無し沼は単純な悪ではない。善悪表裏一体の諸刃の剣である。外の価値を底無しに求めるという性質がなければ、人間は文明を築き、テクノロジーを進化させ、地球の頂点に立つことはできなかった。科学、芸術、学問、法律・・・これら文明の成果は全て諸刃の剣から生まれたものである。

 人間が人間であるためには剣がなければならないし、人間が人間として自滅を避けるためには剣に対する自覚がなければならない。人間だけが、人間としての自分自身の取扱説明書を解読しなければならない。これは他の生き物にはない厄介な宿命である。

 人間が知恵の木の実を食べ、エデンから離脱して以来、人間にとっての最大の敵は自然界ではなく、自分の心となった。それは底知れない深みと恐ろしさを持つ。慎ましい生活をしている人も、たまたまの「縁」でそうなっているに過ぎない。底無し沼の怪物は、誰の心にも潜んでいる。だから火山の爆発は他人事ではない。それがいつ爆発し、人生を滅茶苦茶にするかは、誰にもわからないのだ。

 

私とパチンコ依存症:こころの病 克服体験記

 

2.二極化世界についての岡崎氏の解説

 人間は幸せの青い鳥を外に求める。これは普遍的な人間の心の法則である。しかし外に求める限り、いつまでたっても青い鳥は見つからない。だから慢性的な欠乏状態となる。この飢餓状態は文明社会を構築する原動力となったが、同時に人間の心を不安定にし、自己破壊と地球破壊の原因にもなった。

 支配層とは、金と権力について永遠に飢餓状態にある人達のことである。だから彼らは心の傾向性についてよくわかっている。彼らは自分の心に巣くっている悪魔のメカニズムをよく観察し、それを利用する。そうして出来上がったシステムが、世界に広がる奴隷農場である。

 結果として、1%の富裕層が99%の奴隷を支配するという世界が出来上がった。つまり二極化である。日本においても一億総中流社会はとっくの昔に滅び、二極化の進展の中で中間層は限りなく痩せ細っている。この流れの中で新型コロナウイルスの蔓延が起こり、格差はさらに拡大し続けている。

 だが、今後の二極化は経済だけにとどまらない。それよりも格段に本質的な二極化が人類において進行しつつある。つまり、システムの中で電池として機能する虚ろな人間と、純粋贈与を自覚し、主体的な命として生きる人間の二極化である。

 こうした精神の二極化世界について、極めて明晰な解説をしているのが、思想家の岡崎直子氏である。岡崎氏は国際基督教大学を卒業後、小学館の編集者をしていたが退職し、独立した思想家として活動しているようである。私は氏の動画をYoutubeでたまたま発見するという幸運に辿り着いた。

 以下のページでその動画が紹介されている。約15分のショートバージョンと約90分のフルバージョンが紹介されているが、フルバージョンの方にじっくりと耳を傾けることをお薦めしたい。

 

#022 お金の本性|岡崎直子|note

 

 ご存知の通り、Youtubeの世界は玉石混淆である。それは書店や図書館と同じく、ほとんどのコンテンツが「石」である。Youtuberと名乗る人のほとんどが「Money(マネー)」を動機としている以上、その中身が「石」となることは必定であろう。世間はいつでもそういうものであろうから、そこを嘆いても無意味であるが、そうであるからこそ、「玉」、すなわち「本物」と出会えた時の喜びは大きい。

 氏の素晴らしい点は、学界や思想潮流の歯車となるのではなく、自分で考え、自分らしいやり方で、自分そのものの思想を確立し、表明しているところにある。もちろん、その「自分らしさ」は主観的意見のレベルに停滞することなく、普遍性を確立するための「己事究明」にまで高められたものである。

 氏の勉強範囲は広大であり、言語学、哲学、宗教学、量子力学マーケティング占星術などであるが、それらの膨大な量の知識を基にしつつも、氏は単なる知的好奇心の充足を目的としない。それらの幅広い知識を基にして、最終的には人間の小さな知性を超えた神秘を提示することを氏は目的としており、その最高の神秘を「純粋贈与」というキーワードを基にして表現している。

 膨大な知識を獲得し、知的好奇心を満足させるだけなら、虚ろな自分の「 」(かっこ内)に知識をひたすら注ぐという行為に過ぎない。それなら金持ちが欲望によって自分を虚ろにし、無尽蔵に金を稼いでいる状態と変わらない。「 」(かっこ内)に入るものが、金なのか知識なのかの違いしかないからだ。

 岡崎氏はそれと異なり、自分自身を求める階梯として、膨大な知識を摂取している。氏は知性という梯子を登り、登り切った末に、あらゆる知性が超えられた境地に足を踏み入れる。そして、それまで登るために使ってきた知識を、一転してその境地の充実について表現するために使うのだ。

 岡崎氏の動機は、岡崎氏自身が感じた「Money(マネー)」に対する危機感にある。その恐れは正しい恐れ方であり、金の不足を恐れるのではなく、金を欲しがるという人間の心のメカニズムに対する恐れである。ミヒャエル・エンデが描いたモモと同じく、氏も強烈な「さむけ」を感じたのだろう。

 もちろん、氏も個人事業主である以上は金を稼いでいるのであり、人間社会から隔離された洞窟で自給自足の生活をしているわけではない。しかし、その恐ろしさについて自覚している氏と、野放図に金を稼いでいるYoutuberとでは、明確に異なる。

 氏はただ話すだけでなく、手書きのノートを提示したり、あるいは身振り手振りによって必死になって、「指の先の月」を示そうとする。氏のインストラクション(instruction)は、今後の二極化世界で我々がどの方向に進むべきかについての大きなヒントとなるはずだ。

 

3.焼け太り企業による新たな世界支配システム

 新型コロナウイルスの蔓延による経済危機は、1929年の世界大恐慌、2008年のリーマンショックに次ぐ、第三の危機だと言われている。確かに、アメリカでは大手外食チェーンが次々に破綻し、世界最大の映画館運営会社であるAMCが倒産の危機に瀕している。通常なら、そうした巨大企業があっという間に消滅してしまうことは考えられない。

 

アメリカの飲食業界 コロナ禍での閉店・破産ラッシュの状況

 

世界最大の映画館チェーンAMC、債務削減で破産申請も視野

 

 新型コロナウイルスの原因としては、武漢周辺の森に住むコウモリを起源とする自然発生説と、人工的につくられた生物兵器説の二つがある。もちろん、現在のところは自然説の方が圧倒的に人々に支持されており、人工説に対する支持は一部の範囲にとどまる。

 後者の立場は陰謀論としてカテゴライズされ、真剣に捉えられない傾向にある。新型コロナウイルスの猛威が一般市民のみならず、トランプ米大統領、ジョンソン英首相、チャールズ皇太子といった各国の政治権力や王室にも及んでいることから、自然発生説は説得力を持っている。

 もちろん、私にも自然と人工、どちらが正解かはわからない。しかし明確にわかることがある。それは、新型コロナウイルスの蔓延によって明らかに富裕層が金を儲けていることである。

 

規制もどこ吹く風、コロナ禍で「焼け太り」のGAFA:日経ビジネス

 

米富裕層の資産、コロナ禍の3カ月で62兆円増える

 

 レストランや映画館だけでなく、外出規制により紳士服やレンタカーの需要も落ち込み、ブルックス・ブラザーズやハーツといった巨大企業が倒産している。タイ航空は破綻したが、その他各国の航空会社も破綻寸前の状態にある。こうした大企業群が破綻あるいは破綻一歩手前の状態にあるのに、株式市場は盛況で、富裕層はさらに金を儲けているというのはどういうことか。

 

破綻の米ブルックス ブラザーズ、344億円で売却決定

 

レンタカーの米ハーツがコロナで経営破綻 営業は継続

 

タイ航空破綻!コロナ禍で瀕死状態、東南アジア・フラッグキャリアの行く末は

 

 そこにはマジックがあるわけではない。我々一般庶民が世界経済の真実を知らず、昔の経済観を引きずっているから、矛盾があるように見えるだけなのである。例えば、我々庶民からすればトヨタの社長もアップルの社長も同じように大企業の社長であり、金持ちに見える。

 しかし、世界一の自動車会社であるトヨタ時価総額ランキングで47位であり、1位のアップルとは十倍の開きがある。つまり、1位のアップルはトヨタ10個分の価値を持つ会社なのだ。こうなると貧乏人からすれば光り輝く金持ちに見えるトヨタの社長も、桁違いの富裕層からすれば自動車屋の親父にしか見えない。

 

世界時価総額ランキング(2020年10月末時点)

 

 かつて経済の主役は製造業であり、重工業であった。しかしそれは昔の話である。今、ITの巨大企業にはどの製造業も敵わない。中国のアリババはトヨタ自動車の4倍の時価総額を持つ会社である。GAFAGoogleAppleFacebookAmazon)の四社だけで、日本の一部上場企業7割に相当する。

 

GAFAだけで日本株7割に相当 時価総額が約430兆円に、逆転の可能性も

 

 GAFAのような巨大企業群を単なるインターネット企業だと見てしまうと、真相を取り逃がしてしまう。彼らは新たな軍産複合体でもあり、米軍と一体である。軍需産業と言えば戦闘機や戦車、ミサイルの会社だと連想するのは古い。現在の、そして未来の兵器は情報であり、通信であり、コンピューターであり、ITである。

 

IT軍産複合体のはじまりか – ne plu kapitalismo

 

アップルが訴えていること 世界を支配する「データ産業複合体」の恐怖

 

 エドワード・スノーデンDELLコンピューターの社員という肩書で日本に駐在していたが、中身は軍人でありNSAの職員であった(第三十回ブログ参照)。つまり回転ドア(Revolving Door)である。コンピューター会社も軍隊も同じ穴のムジナである。Facebookに何気なく投稿した記事はNSAに渡る。これは世界の常識である。

 巨大IT企業が軍事力と一心同体だということは、生物兵器も一心同体だということである。もちろん、新型コロナウイルス生物兵器なのか否か、私は知らないので何とも言いようがない。ただ、コウモリが原因なのだとしたら、支配層は極めて強運だと言わざるを得ない。彼らはコウモリに足を向けて寝ることはできないだろう。

 それは一時的な金儲けの次元に収まるものではない。通常なら絶対に成立しない法律が、パンデミックのもとでなら成立する。それによって社会システムが根こそぎ作りなおされ、彼らにとって都合のいい奴隷システムが構築される。そうした用意周到な構築プロセスが、コウモリを起源として進んでいると解釈されているわけだから、この世界で信じられている通説はとても幻想的に見える。

 新たな世界支配の構造は、岡崎氏が動画で述べているようなものとなるのであろう。おそらく今後の世界は氏が観測する方向性で進んでいくのであろうが、私なりの考察を加えた検証は、次回に詳述したいと思う。