戦争と平和、そして無記

国際政治や歴史、およびその根底にある人類の心のメカニズムについて考察していきます。

第六十一回 イランとアメリカ、なぜ対立するのか ~その歴史的関係性(12)

1.日本とイランの違い 「日本はアメリカの植民地だ」と言うセリフはよく聞く。日常会話でも時おり耳にするし、属国日本論についての書籍は大きな図書館に行けば必ず見つかる。街角にはある政党のポスターが貼られており、「アメリカの言いなりやめよう」と…

第六十回 イランとアメリカ、なぜ対立するのか ~その歴史的関係性(11)

0.シリーズの続き 今回からイランの近現代史を振り返るシリーズに戻りたい。第五十七回ブログの続きである。 1.コムの小さな火がアーバーダーンで燃え上がる 1978年1月7日、イランでエッテラーアート(Ettela'at)という保守系新聞に、ホメイニーを中傷…

第五十九回 新型コロナウイルスについて報道しない自由(2)

1.憲法22条とその例外としての感染症法 「人は誰でも知られたくないことがある」という言葉は、巷間でよく聞かれる。社会常識になっていると言ってもいい。それゆえ法的にも個人情報保護法が定められ、隠したいことは隠せるようになっている。ただ、問題は…

第五十八回 新型コロナウイルスについて報道しない自由(1)

0.予定変更 前回までイランの近現代史を見ることで、イランとアメリカの対立の原因について考えてきた。今回もその続編を書く予定であったが、予定を変更し、今回と次回の二回にわたり、コロナウイルスについての法改正およびその報道について述べていきた…

第五十七回 イランとアメリカ、なぜ対立するのか ~その歴史的関係性(10)

1.国境という怨嗟 アフリカや中東では、長年に渡った西洋による植民地支配の爪痕が今も残る。それが国境である。エジプトの国境線はエジプト人が決めたものではなく、イラクのそれもイラク人が決めたものではない。つまりイギリス人が決めた国境線の中に、…

第五十六回 イランとアメリカ、なぜ対立するのか ~その歴史的関係性(9)

1.第三の男 イランの近現代史は、二人のモハンマドを軸として展開した。一人はモハンマド・レザー・パフラヴィーであり、もう一人はモハンマド・モサデクであった。二人の「モハンマド」は対照的であり、一方は王様、もう一方は民主主義者であった。そして…

第五十五回 イランとアメリカ、なぜ対立するのか ~その歴史的関係性(8)

1.無名の海賊から世界的に有名な海賊へ 日章丸は1953年4月8日、夜陰に隠れてホルムズ海峡を通過し、4月10日、ついにアーバーダーンの港に到着した。イギリス海軍に見つからないよう細心の注意をはらい航行した日章丸であったが、アーバーダーン港に到着し…

第五十四回 イランとアメリカ、なぜ対立するのか ~その歴史的関係性(7)

1.モサデクと出光の出会い アメリカとイランの関係は現在最悪と言えるが、日本とイランの関係は悪くない。それには1953年の日章丸事件が関わっている。日本人は忘れても、イラン人はこの事件を忘れないのである。 在日本イラン大使館、「イランの人々は、…

第五十三回 イランとアメリカ、なぜ対立するのか ~その歴史的関係性(6)

1.幻想のアメリカと数式のアメリカ 前回述べた通り、イランの独立を志したモサデクは、民衆の英雄から一転、犯罪者となった。国民に期待され、選挙によって首相となったモサデクは、逮捕され、投獄されることとなる。 Mohammad Mosaddegh in court, 8 Nove…

第五十二回 イランとアメリカ、なぜ対立するのか ~その歴史的関係性(5)

1.曖昧な経済と明確な金儲け モサデクはおそらく信じていたのであろう。イランが植民地支配から脱却すれば、自力で生まれ変わることができると。彼の目からすれば、欧米人が頻繁に用いる「援助」という言葉は、彼らが金を儲けるための「投資」であり、結局…

第五十一回 イランとアメリカ、なぜ対立するのか ~その歴史的関係性(4)

1.植民地に求められるリーダー像 欧米人は民主主義が大好きである。それゆえ、アジアやアフリカの独裁国家が大嫌いである。彼らからすれば、民主的なプロセスを経ずに暴力で政権を握り、死ぬまで権力を手放さない独裁者は、身の毛もよだつほどに醜く見える…

第五十回 イランとアメリカ、なぜ対立するのか ~その歴史的関係性(3)

1.近代化はYES、独立はNO 欧米人は、植民地が近代化し、欧米のような国になることについて大歓迎である。独裁国家が民主化することは大歓迎であり、選挙のない国で普通選挙が行われることは大歓迎であり、自由な経済競争が行われることは大歓迎であり、義…

第四十九回 イランとアメリカ、なぜ対立するのか ~その歴史的関係性(2)

0.イランとアメリカの関係性 前回のブログでは、予定を変更して新型コロナウイルスについて考察した。今回は、第四十七回ブログからはじめているシリーズに戻りたいと思う。イランとアメリカがなぜ対立するのか、その歴史的関係性について述べていきたい。…

第四十八回 新型コロナウイルス その蔓延を喜ぶのは誰か

0.予定変更 今回は予定を変更し、新型コロナウイルスについて考察していきたいと思う。 1.動物という物言わぬ魔女 新型コロナウイルスの感染源は、中国の食物市場にあるアナグマや竹ネズミではないかと言われている。日本の大手メディアは、概ねそうした…

第四十七回 イランとアメリカ、なぜ対立するのか ~その歴史的関係性(1)

0.予定の変更 イランとアメリカの関係、特にアメリカによる経済制裁の具体的意味について、前回と前々回の二回にわたって述べてきた。今日は第四十三回ブログの続きに戻る予定であったが、予定を変更し、何回かにわたり、イランという国の簡単な歴史と現在…

第四十六回 イランに対する経済制裁、その意味(2)

1.制裁と援助 アメリカはイランに対して強力な経済制裁を行っている。制裁の内容は多岐にわたるが、その主なものは、イランと取引する企業に対して、アメリカとの取引を停止するというものである。例えば、イランと原油の取引をした企業は、アメリカに持っ…

第四十五回 イランに対する経済制裁、その意味(1)

0.予定の変更 今回は前々回まで続いていた「奴隷のしつけ方」シリーズに戻ろう思っていたが、一連の中東情勢において、アメリカがイランに追加の経済制裁を課すことを発表したので、その意味について考察してみたいと思う。今回と次回の二回に渡って述べて…

第四十四回 ソレイマニ殺害、その意味

0.年明け早々の大ニュース 前回までは、人間がどのような心理的なプロセスを経て奴隷になっていくか、その問題について考えてきた。今回もその続きについて考察していく予定であったが、2020年の年頭に世界を驚かせる大ニュースが飛び込んできたので、予定…

第四十三回 奴隷のしつけ方(6)

1.ミルグラム博士の実験 前回は、1942年の大日本帝国政府による戦争大綱を例にとり、「二兎を追う者は一兎をも得ず」、すなわち「インテグリティ(integrity)」の欠如について考えた。「インテグリティ(integrity)」に欠けた人間の判断について具体的に…

第四十二回 奴隷のしつけ方(5)

1.内なる「統合性」 「インテグリティ(integrity)」という言葉は、前回引用した矢部宏治さんの本に書かれているように、「人格上の統合性」や「清廉潔白な人格」といった意味である。しかし、これだけでは抽象的な説明になってしまうために、より具体的…

第四十一回 奴隷のしつけ方(4)

1.植民地システムは米兵を幸せにするわけではない 米兵が日本という植民地で事件を起こす場合、宗主国特権により、日本人とは違った扱いを受ける。前回までそのことについて述べてきたが、これは米兵にとって好ましいシステムであるとは、一概には言えない…

第四十回 奴隷のしつけ方(3)

1.沖縄のタクシー運転手は対岸の火事か 沖縄で起きる事件を対岸の火事だと思う日本人は非常に多い。沖縄には米軍基地がたくさんあるが、本土の人間にとってはそこまで基地は身近なものではない。そのため、自分には関係ないだろうと考える日本人が非常に多…

第三十九回 奴隷のしつけ方(2)

1.宗主国の人間が犯罪をした場合 前回、仮の話として、もし私が友人とタクシーにのり、運賃を払わず、運転手に殴る蹴るの暴行をくわえたらどうなるかというシミュレーションをしてみた。結論としては、犯罪者として私と友人は、刑事上の責任、民事上の責任…

第三十八回 奴隷のしつけ方(1)

1.奴隷のイメージ 「奴隷」という言葉を聞くと、足枷をはめられ、ムチで打たれながら強制労働をさせられる人のイメージが、頭に浮かんでくるかもしれない。しかし、大衆の多くが、「奴隷」という言葉を聞いてそのようなイメージを頭に思い浮かべるなら、支…

第三十七回 CSIS、その歴史と日本との関係(12)

今回で、12回にわたったCSISシリーズを終了したい。 1.カポーと一般国民の格差 CSISは、形式的にはアメリカのシンクタンクであり、小さな民間団体に過ぎない。しかし、その背後には在日米軍やアメリカ企業などがおり、その人脈を辿るとCFR(Council on For…

第三十六回 CSIS、その歴史と日本との関係(11)

1.植民地における司法制度 司法制度とは、国家が犯罪者などの無法者を捕まえる制度である。警察、検察、裁判所、刑務所によって成り立っている。これが司法権である。司法権の内容については、刑法などの法律に明文化されている。 明文化されている犯罪は…

第三十五回 CSIS、その歴史と日本との関係(10)

1.政界、財界とCSIS 第三十一回ブログで、CSISとつながりの深い日本のカポーおよびカポー団体を取り上げた。しかし、そもそも経団連という組織自体がCSISと深いつながりを持った団体であるから、日本の経済界のトップで、CSISとつながっていない人物を探す…

第三十四回 水道民営化の実現

1.「空気と水はタダ」という原則の崩壊 前回のブログで、2015年に成立した集団的自衛権関連法が、ついに今月、実行に移された件について述べた。これは日本が平和国家として長年守ってきた専守防衛の原則を崩したことを意味するが、それについては前回のブ…

第三十三回 自衛隊のホルムズ海峡周辺への派遣

1.専守防衛が崩れるという大ニュース 前回は予定を変更し、巨大台風について書き、今回はCSISシリーズに戻る予定であった。しかし、2019年10月18日に大ニュースが飛び込んで来たので、今回も予定を変更し、そのニュースについて考えていきたい。次回から、…

第三十二回 台風という気象兵器

1.台風についての思い込み 前回までCSISと日本の関係について書いてきた。今回もCSISシリーズの続きを書く予定であったが、マスコミの台風についての報道を見聞きしているうちに、台風について心配になってきたので、CSISシリーズは次回から復活するとして…